不運な観客

 恐怖を通り越して、目の前にいる2人の無情さに[次は自分たちの番だ]と自然に受け入れさせていた。リューヴォとしては、コレは今の彼等が置かれている状況を見せしめるための公開解体ショーであり彼等2人は、あくまで観客捕虜なのだ、殺す理由は特にない。マルティーノはリューヴォから観客捕虜へと視線を移して寒気走る気味の悪い笑みを浮かべ、少女に尋ねる。この街ではよくある事だ、自分のやり方を教えてみる、ソレを実行に移すかどうかは子どもが決める。


「さてドン、首を狩って晒し台に乗せる方法を教えようか」


「知りたいわ、アタシもやってみたい!」


 答えは言わずもがなの問いだった、予想通りの即答に気分を良くしたマルティーノは、斧の持ち方から教えていった。そして数回の素振りを終えると、いよいよ断首だんしゅの本番だ、リューヴォは小さな身体で足を肩幅より大きめに開いて踏ん張り、思い切り振りかぶってフルスイングした次の瞬間、死者の頭部は首ごと回転しながら地面に落ちた。まだまだぎこちない部分もあるが、初めての断首にしては相当良かった。そう褒めようとした矢先、リューヴォの手に無残な姿になった斧の柄と、先端に付いているはずの刃物が無くなっていることに気づいた。まさかとは思いつつリューヴォの視線の先を追うと、そこには顔面がグシャリと潰れた観客捕虜のうちの1人の姿が…もう1人は嘔吐している。一瞬やってしまったとマルティーノは溜息を吐きかけたが、人間ではない少女に力加減の仕方について気をつけるよう言い忘れたのは自分だと思い、兎にも角にも生き残った1人きりの観客捕虜が自殺してしまわないように猿轡さるぐつわを噛ませた。


「マルティーノ、ごめんなさい…」


「良いんだよ、軽く振るように教えるのを忘れてた俺の責任でもあるからな。それに、このほうが一緒に解体出来るだろう?」


「あぁ!そうよね、早く教えてちょうだいっ」


「もちろん」


 死んだほうの観客捕虜の身体をマルティーノが引き摺ってきて、断首した頭部と一緒に並べるべく手早く断首し晒し台の上へ、リューヴォと共に固定した。観客捕虜のほうの血抜きも済ませて、2人は仲良く死体の解体に取り掛かった。大きな関節ごとに切り落とし、骨を残しつつも美しい切り口で肉を削ぎ落としていくマルティーノ、ソレを見ながら今度は力を入れ過ぎないよう慎重に真似ていくリューヴォ。地上へ移動している地下の住民達は興味津々だ、皆、ボスであるリューヴォの成長を見守りたい一心なのだった。嘔吐を繰り返す観客捕虜を放ったらかして、2人分の死体全ての解体が終わった。周囲からは拍手が聞こえてくる、訳が分からない光景をまざまざと見せつけられて後悔のドン底に突き落とされた観客捕虜は、やっと自分たち組織の認識の甘さに首を締められ絶望していた。


 子どもと年寄りしかいないと、彼は聞いていた、だが今目の前に広がる光景は武装した兵士のような格好の若者や、武器を運ぶ子ども、武器の手入れをする年寄りたちばかり。しまいには、この状況だ。明らかに甘く見ていた、数で押せば楽勝だと思っている新参組織の間違いを、観客捕虜は、ヒシヒシと感じていた。まさか、これ程に敵に回してはならない相手だったとは、この街を住処とする人間の特徴が濃ゆすぎて、彼はもはや付いていけていない。ほがらかに笑いながら、上手に解体出来たことをマルティーノに自慢げな目線を向けるリューヴォ、一面血だらけだが殺し屋として見慣れている景色なので、そこは新参を置き去りにしてキャッキャと明るい笑い声が上がる。不意に、リューヴォが観客捕虜のほうを見て、満足げな笑みを一瞬浮かべた。


「さっ!残念だけど、貴方は観客捕虜だし縄張り戦争が終わるまでそのままでいてもらうわね」


 可愛らしい笑顔を振り撒いてリューヴォが突然、冷笑を顔に貼り付けて彼の希望を断った。

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