第22話~しぃべるか、こぁすちゅーまい~(仲直り、お似合い)

 スペースを居座るのも私が恥ずかしいし……

 別に他の人には撮ってほしくもないので、二人で移動しながら撮るみたいな事をしていた。


「どんな感じです?」

「あ、あと一、二枚でおっけーです!」

 撮った写真を見せてもらうと、しっかりと撮れている……どころか斜体も常に真ん中、角度も完璧、種類も様々と撮り慣れている様子だった。


「ね、ねえもしかして……絵描きさん?」

「うん……!そうです」

 金髪のショタっ子高校生の浩平くんは笑顔で答える。

(可愛い……)


「へぇーそうなんだ!頑張ってね!」

「はい!」

 私が感心の声を上げると、彼はまた素直に答える。


「あ!こんなとこにいた!シャルルってば!」

 文乃が私を探していたのか近寄ってくる。

 チャンスはここしかなかった。


「あ、文乃……ごめんね?」

 私はさっきの意味も含め、彼女に謝る。

「いいよ~」

 笑顔で微笑んでくれた事に凄くホッとした。


「あれ?文乃お姉ちゃん?」

「あ!浩ちゃん!久しぶり~!元気にしてた~?」

 スキンシップが多い文乃は彼を抱き締めてよしよしと撫でる。


「もー、そんなギュッとしなくても……冬にも会ったじゃん」

 浩平くんは恥ずかしそうにするが嫌がらない。


 そして全ての接点が繋がった。

『あー!』

 兄と声が被さった。気まずくて沈黙が続く。


「や、やっぱり!シャルさんってお姉ちゃんの言ってたシャルルちゃんって事だったんだね……!」

 浩平くんが気を効かせてくれてくれる。


 こんな小さくて可愛い子が……

 気を効かせてくれてるのに私達は何をやってるんだ?アホらしくなってきた。

「お兄ちゃん、ごめんなさい」

「こ、こっちこそ悪かった。ごめん……」


 成果の沢山の手さげ袋を見る。暑い中ちゃんと買ってきてくれたんだ……

「うん……あまりわがまま言い過ぎないようにする」

「僕もシャルの気持ちちゃんと考えるよ……」


「ふふ、ナイス浩ちゃん!」

「えへへ」

(というか同い年なのにおねショタ!?)


 全てが繋がったと言うのは……

 彼は文乃の従弟いとこ。近くの地区に住んでいる、文乃のお母さんの妹家族の息子さんだ。

 昔運動会に来てたり、小学生の頃少し遊んだりとかしてた気がする。


「そ、そのお二人はまだ仲悪いの……?」

 浩平くんが気になっていた事を、我慢出来なかったのか聞いてくる

「こ、浩ちゃん……!」

 文乃が宥めるが……


「ま、まあ色々とあってね……?」

「そうだね……」

「私達極端だもんね……お兄ちゃんも別に私と接すること我慢しなくても平気だよ?」

 その場逃れの冗談を言ったつもりだった。


「マジで?」

 目を丸くする兄。

(え、これ明日からやべぇな……)


「おい」

 それを呼び止める文乃。歯止めになってくれるのだろうか……


「あれ?二人ってもしかして……」

 浩平くんは二人の嫉妬し合う様子に気付いたようだ。意外と勘も良い。


「そだよー。付き合い始めました~~」

「あ、あはは……そうですね」

 兄は恨まれるのが怖いのか敬語になる。


「お、おめでとう……!」

(わ……滅茶苦茶動揺してる)


「大丈夫だよ浩平くん!私がいるから!」

 私は勇気を出して彼の腕を組む。


「あ、まってシャルル」

「しゃ、シャシャシャシャルさん……!?」

 腕を組んだだけで、文乃とは全く違い顔を真っ赤にしている。


「ぼ、ぼく本気になっちゃうから……だ、ダメですよぉ……!」

 チラチラとこちらの目を見るが、直視出来ない位に恥ずかしがっている。

(なんだこの子は!可愛い反応が似合う!)


「自信持って!君なら本気になっても良いよ?怖くないし……!」

 励ますつもりが余計な言葉まで発していた。


 二人は目を点にしてぽかんと口を開けている。

「あ!そうだ!お兄ちゃん達に買ってきてもらった本、絵の資料になりそうな物沢山あるよ!見てみる?」

 私は最後の試練を彼に課した。


「え、えっちいのは恥ずかしくて見れないです……!」

(合格!)

 自分の欲望をしっかりとコントロール出来るか。

 同じ背丈でも力が叶わなくなるかもしれない。私が襲われない為の大事な条件だ。


「よしよし、えっちくない画集とか貸してあげるね?」

「あ、ありがとう……ござい」

 戸惑う彼にラストアタックを決める。


「もう、敬語じゃなくてもいいよ?」

「う、うん……」

(可愛いし完璧過ぎる!)


 二人は耳を塞いでしゃがみこんでいるのでここら辺にしとこう。

「連絡先……交換する?撮影する約束も途中だったし……」


「そう……だね。また今度会って撮らせてほしい……です?」

 結局は敬語になる。よき。


 人気メッセージアプリの連絡先交換、と人気ソーシャルアプリの相互フォローをして二人を立ち上がらせる。


「ほれほれ、お兄ちゃん?大丈夫?」

「う、うぅ……遂にこの日が……」

 相当辛そうだ。


「文乃お姉ちゃん!?おーい!」

「あふぁー……」

 浩平くんが文乃を揺らすが、ダブルショックで放心状態に陥っている。


「ほら、お兄ちゃん……元気付けてあげて?男でしょ?」

 私は兄の肩を軽く揺らして、文乃の事を気にさせる。

「あ、うん……」

 ちょっと強張った表情に戻った。


 もう一度、兄達が買ってきてくれた戦の成果の紙袋を見る。

「あと……ありがとね」

「どういたしまして」

 そこはちゃんと笑顔で答えてくれた。



 目的の品も全て手に入ったことで、後は公式アプリやアニメ等の商業ホールを四人でブラブラとした。


 流石に落ち込む二人が可哀想に思えてきたのでフォローを入れる。

「どうせ家帰ったらいるんだからさあ……」

「うん……」


 文乃は浮気をされたかのような悲しそうな雰囲気で肩を落としている。

「ほ、ほら!あんたの好きなアレ!まだぬいぐるみとか色々残ってるみたいよ!」


 私はブースの上部から見えるお品書きボードを指差す。

 文乃の好きな銀髪のキャラのグッズがまだ残っている事を教えた。


「一緒がいい……」

 袖を摘ままれ、ねだる子供のような視線を向けられると断れなくなる。しかも若干涙も滲んでいて震え声だった。


「わ、わかったよ……とりあえず並ぼ?結構人気なんでしょ?」

「う、うん……!」

 文乃は少し嬉しそうにする。また甘やかしてしまった。



 二人は並んでしまい、僕と浩平君は取り残される。

「あー、久しぶり……だね?」

 彼とは小学生以来だが、少し背が伸びた位だ。


「や、やっぱりザックさんとお姉ちゃんって……」

 浩平君は僕らの様子に気付いていたのか、恐る恐る質問してくる。


「そ、そうだよ……付き合い始めた。今思えば、お互いシャルに逃げてたんじゃないかって思うんだ」

 僕は優しい口調で真実を伝えた。本人達には明かせない真実を。


「やっぱりそうなんだ……!なんかさっきのお姉ちゃん生き生きしてましたもん」

「やっぱり……分かるんだ?」

 浩平君が胸を張って言い切るのでそう聞いてみる。


「ええ!ザックさんもそう思いますよね?お姉ちゃんの笑顔が増えたって」

 確かに付き合う前の彼女は、魚の死んだ目でゆったり流れされるような雰囲気だった。

 いや、シャルの友達……あの子達に馴染めてからかもしれない。


「確かに。でも多分僕だけじゃない……シャルの友達のおかげだよ。僕らがシャルの気持ちを考えずに傷付けた時も正してくれたんだ」

「そうだったんですか……」

 あの三人の事を伝えると、浩平君は少し驚いていた。


 そしてもう一つ兄として大事な事を伝える。

「うん、でもまあ……あいつがシャルにべったりなのは許してあげてね?幼馴染みで唯一の友達だからさ」


「そ、そんな……!僕はそういうつもりで聞いたんじゃ……」

「でも撮らせてもらったんでしょ?」

 慌てる浩平君が面白くて、カメラを見ながらからかってしまう。


「うぐぅ……そ、そうなんですけど……仲良くなる努力はします……」

「シャルはああ見えて凄いナーバスだから……僕らに嫉妬しても受け入れてあげてね?」

 最近気にしていた事を彼に伝える。

 今日の喧嘩の原因もそれなんじゃないかと後々気付き始めたからだ。


「は、はい!」

 真面目な浩平君はしどもろもどろになりながらも返事をする。

(ちっちゃい頃の文乃にそっくりだな……)



 商品を買い終わった私達はレジの行列から外れる。


「えっへへ~」

 文乃は嬉しそうに抱き枕とぬいぐるみを抱えている。

(な、なんか複雑……)


 どちらも銀髪でおさげの髪の女の子……明らかに私そっくりの子だからだ。

 というかむしろ私よりも……


「でもシャルがいちばーん!」

 彼女の体は大きい。だから抱き枕とぬいぐるみを抱えたまま、丸々私へ抱き着く。

 暑くて息がしづらい……


「ふひゃりが待っへるよ」

 頬を二つのドッペルゲンガーに挟まれているのでうまく喋れない。


「うんうん恥ずかしいんだね。可愛い可愛い」

 少し生意気な彼女に頭を撫でられながらあしらわれる。だが怒る気にはなれない。



 二人の待つ場所へと戻り、夕方までコミケを楽しんでいたら暑さなんて忘れていた。



「楽しかったなぁ~」

 帰ってきてお風呂に入った後、ベッドの布団の上に倒れ込むとなんか変な感触がした。


(ん?布団の中、なんかいる?)

 布団を引っ張ると中から全裸の文乃が出てきた。隣には、既に端が湿っている抱き枕もある。

「ふえ?」

「すぅ……」

 急にわざとらしい寝息を立てる。


「寝た振りすんなっ!」

 彼女のおでこにチョップをする。

 危なかった。ベッドはまだ汚れていない。


「ぐえっ……!もーお風呂出てくるの遅いのが悪いんだもーん」

 人のせいにする文乃にタオルケットをかけてベッドから追い出す。

「はあ……いるのは分かるけどお兄ちゃんの部屋でやりなさいよ……」

 呆れて溜め息しか出ない。


「そ、それはまだ心の準備が……!ザックだってまだだめだって言うし……」

 彼女は自分の心が追い付いていないことを兄のせいにしている。

(こいつ……!あれだけ誘っておいて自分の準備はまだだなんて……)


「ふん、いつかお兄ちゃんが本気になってもしーらない。お兄ちゃんだって男なんだし」

 本当に喧嘩する前の兄は酷かった。私の前では変態としか言えない程、理性がブッ飛んでいた。


「そ、そんなことないよ……ザックは真面目で優しいし……」

「どうかなぁ~?ちょっと前の時、私のお風呂やトイレに無断で入ってきたり、真っ裸で布団に潜ってきたり……」

 私はここぞとばかりに饒舌に、兄の変態さをバラす。


「ふえぇ……」

 彼女が本気で泣きそうだ。もうやめておこう……

「と、ともかく……その、挑発するのは程々にしないと襲われるわよ……」


「文乃にそんな酷いことしないよ……」

 部屋に入ってきた兄にそう言われる。

 ギロリと睨むと目を逸らされた。

「ひゃん……!」

 文乃は恥ずかしがってタオルケットに潜る。


「お尻出てるよ」

 兄がそれを注意すると、彼女は私にお尻をくっ付けてきた。


「ほら、早く入らないと風邪引くよ」

「で、でもぉ……」

 彼女を催促するが凄く恥ずかしがっている。


 ドアを見ると、兄は察してくれたのかもういなくなっていた。


「じゃあこれを写真に撮って浩平君に……」

「わ、わかったってば……!入る入る!」

 焦った彼女を支えながらお風呂に連れていった。

(な、何で私がこいつの介護してるのよ……)


 結局この日もスマホゲームのログインボーナスを逃した。

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