第11話~こんそるたーつぇ~(相談)
次の日、文乃は私達に謝ってくれた。泣きながら。
注意もしたけど、本当に辛そうだったから元気付けてあげた。
その日から、文乃のスキンシップは急激に控えめになった。ハグ以上の事はしてこない。
私達五人の関係が悪化するかも……なんて考えていたけど本当に良かった。
でも一番驚いたのが……
兄からのしつこいスキンシップが完全に消えた。むしろ家事も自分からやってくれる。
だから気さくに話したりするけど、冷たい反応ばかり……
何かあったの?と心配しても、別にとか無視されてしまう。
父や母も、兄のそんな姿を見て少し悲しそうだった。
(私は……)
せいせいしたなんて言ったら、本当に口すら聞いてもらえなくなりそうで……
――数日後――
恵美さんは線路沿いの家へ、瑠璃さんも駅の向こう側の家へ帰る。
「あれ……夏々さんは恵美さんと帰らないの?」
「うん、スーパー寄ってから帰るー」
「そっか……」
私は前より、もっと家に帰りたくなくなっていた。でも帰らなかったら……
「一緒に来る?」
「え」
「だって来たそうな顔してからー」
彼女はニコニコしながら、両手で私の頬を触る。
「ぷにぷにしないでぇー」
手を離すと心配そうに聞いてくる。
「なんか……あった?」
「うん……」
そして兄の態度の変化について、夏々さんに打ち明けた。
「嫌われちゃったのかな……」
「シャルちゃんは何も悪くないよ!おかしな仕返しだねー」
「うん……」
少し間を開けて昔の事を話す。
「ロシアにいる頃は逆だったの。私はお兄ちゃん子だったけど、一緒について来ないでーなんて言われて泣きわめいた事もあったかも……」
「それほんと!?で、どういう感じで今みたいになったの?」
「うーん……よく覚えてないんだけど、それでも兄のために色々協力してあげてたら逆になってた」
だから今まで、兄がコロコロ変わる度に私までも辛い気持ちになってしまう。
「じゃあ……相当悩んでるのかもしれないね。お父さんお母さんにはー?」
「私ほど酷くはないけど、避けてるみたい……」
しっかり聞かれたことには答えるけど、話が途切れると部屋に戻ってしまう。
「つまり今までは我慢をしなかったから、良い感じにバランス取れてたんだね……」
「確かにそうなのかも……私どう接したら良いのか分かんなくて」
うーん……と夏々さんは口元に指を当てて考えている。
「本人の悩みの種はシャルちゃんなのか私達なのか……難しいね」
「なんかめんどくさい話しちゃってごめんね……?」
私は聞いてくれる夏々さんに対して申し訳なくなってしまう。
「いーのいーの!でもやっぱり、シャルちゃんか文乃ちゃんかお父さんお母さんの前でしか悩みとか話さなそう……だから一緒にいる時に協力して聞いてみるのが一番かもね!」
「なるほど……一人じゃなかったら私もお兄ちゃんも素直になれるかも」
確かにそれは名案だった。実行できるかは別として。
「でしょ?お兄さんが一番尊敬してるのは?」
「お父さん……かも」
「じゃあまずその人に相談してみよ!ほら!これで少しスッキリした?」
「うん!」
やることが見えれば少し元気が出てきた。相談して良かった……
「悩みって、答えが分かって解決策が出ればスッキリするんだよー」
「夏々さんもそういう経験あったの?」
「うーん、色々とね……?めぐみんってば、あの通りすぐ落ち込んじゃうからさ……」
(恵美さん色々と気にしてそうだもんね……)
「ふふ、寂しがり屋さんなんだね」
「そーそー!でも案外皆そうなのかもね?」
夏々さんが笑みを溢しながらそう話す。相談した私もそうだったし、自分でも笑ってしまう。
私達は楽しく買い物を終えて別れた。すると、珍しく兄と文乃が一緒にいた。
(兄が仲良さそうに……って!手繋いでる……!?嘘でしょ……)
二人の雰囲気は余所余所しくも恥ずかしがっている。まるで恋人のように……
雰囲気を壊すのを躊躇ってしまい、やっぱり話してる内容は気になる。
だから私は少し離れた場所から様子をうかがった。
「な、なぁ……文乃。家まで来る……?」
「う、うん……」
(あーあー、もう今にもって感じじゃん……!)
見ている私までドキドキしてしまう。
「ねぇ、ザック……ほんとにこのまま続けるつもり?」
「まぁ……ね」
「私はともかく、ザックがそこまでする必要なんて……」
「いや、良い機会だよ……」
兄は優しく彼女の頭を撫でる。
「私が付き合っても、これじゃザックが辛いだけじゃん……」
(つ、つつつ付き合う!?)
「僕は文乃といれる今が……シャルの事を考えなくて安心できる」
「確かに私もそうだけど……」
(…………)
二人の話は段々私のことになってくると、胸の奥が痛くなるような感じがした。
これが嫉妬というものなんだろう。
「大丈夫。文乃の事を一番に考えられるようになったら、こんな方法はやめるよ」
「な、なら良いんだけど……そ、その、私はもう……い、いい一番だから!」
彼女は恥ずかしそうにその言葉をハッキリと伝える。
優しいのちょろいのかどっちなんだろうと、文乃が少し心配になってしまう。
「ありがと……」
でも兄は彼女の頭を撫でるだけ……彼女は少し寂しそうだ。
(あぁもう!抱き締めてやんなさいよ……!)
兄の奥手さを見ると、かなりもどかしい。
そんなもどかしい二人を見てるとマンションの近くまで来た。
(ど、どどどうしよう……)
流石に邪魔はしたくない。私がいたら進展しなさそう。
だから私は秘策を投じた。
少し住宅街を回り道で走り、先に家へ入る。
そして鍵はしっかり上下閉め直して、靴を持って自分の部屋で待機した。電気も点けずに……
「私何やってるんだろ……」
『ガチャン』
(来た来た……!)
「部屋に行くの……?」
文乃は恥ずかしそうに兄に聞いた。
「へ、へへ変なことはしないからね!僕お茶とお菓子用意するから部屋で待ってて?」
兄はそんな彼女を見て動揺しているらしい。だから先に台所へと歩いていってしまった。
(ほったらかすんじゃない……!って……あっ、やばっ)
自室にいる私はトイレに行くのを忘れていた。
(漏らしちゃうよぉ……)
どうせ二人は兄の部屋に入る。
(そこしか……あれ?足音近付いてきてない?)
もしかしたら私がいないか警戒しに来たのかも、と思ってベッドの下に隠れた。
バッグもしっかりと引き込んだので凄く狭い。
(せ、せまい……)
『ガチャリ』
私の部屋が空いた。鍵なんて閉まってたら一発アウトだもの。
「あ、部屋間違えた」
それは文乃の声だった。
(良かった……)
「あれ?あの袋って……?」
(ま、まずい!靴入れた袋置きっぱ!)
「おーい文乃ー?僕が一番なんじゃなかったのかー?」
台所から兄の声が聞こえる。
(なんだしっかり嫉妬してんじゃん)
兄にもその気は確かにあるようだ。
「ふぁ、ふぁかってるよー!」
相当恥ずかしいのか、文乃もうまく喋れていない。
『ガチャ』
どうやらそのまま文乃は部屋を出たようだ。
(よし……)
私がベッドから顔をちらりと出すと……!?
(ま、まだいるじゃん!!)
顔を引っ込める。
「靴はあるのにおかしいな……さてはどっかに隠れてるな?」
(まずいって!こんなのバレたらただじゃ済まないって……!雰囲気ぶち壊すどころじゃない……というかこいつ!一番なんてお兄ちゃんに嘘つきやがって!)
「ベッドの下かなぁ……?」
覗いた彼女のピュアツインテを掴む。
「い、痛いです……」
(浮気物!これでおあいこでしょ?)
私はひそひそ声で彼女に話しかける。多少怖い顔はしていたかもしれない。
(わ、わかりました……)
(おしっこ行きたい)
(飲んであげ……っ!痛い痛い!)
髪を引っ張る。
(とりあえず怪しまれるからそろそろ戻って)
(はぁい……飲んでほしかったらいつでも……)
もう一度引っ張りたかったけど、バレたら元も子もないので我慢した。
そうして彼女は私の部屋を後にして、兄の部屋に入っていった。
『ガチャ』
しばらくするとまた兄の部屋の扉が開く。
「はい、飲み物とお菓子」
「ありがとー!」
(天然小悪魔め……!)
兄の将来が心配になる。
『パタン』
よく考えてみればトイレの流れる音で気付かれる。
(うぅ……飲んでもらえばよか……いやいや!)
もし文乃が私に意地悪するなら……限界まで待たされそうだ。
「ね、ねぇ?」
「な、なんだ?」
文乃がもどかしそうにする。
「トイレに……行かない?」
「へ?」
(いやいや!二人っきりになったんなら、普通はキスでしょ!)
「ふへへ、興奮した……?」
(こいつぅ……!私まで焦らすつもりか!?)
「な、何言うんだよいきなり……言っただろ?キスもまだなんだから……」
「じゃ、じゃあ……する?」
(おいおいおいあんた付き合うの初めてでしょ!?なんでそんな経験豊……)
エロゲーか……私は彼女の性欲を舐めていたようだ。
「目閉じてていいぞ」
奥手の兄が急に積極的な雰囲気を出す。私も聞き耳を立てる。
「ふぇっ!?は、はい……」
文乃も恥ずかしそうに受け入れるようだ。
『ちゅっ』
「はむっ……ってえ?」
文乃は困惑した声を上げる。
「熱いのはまだ先だ……ってわっ!?」
『ドサッ』
兄を押し倒す音が聞こえる。
「ザック……私もう我慢できない」
(ま、まじか!確かに文乃があれだけ焦らされたらそうなるかも……)
私は尿意なんてものはすっかり忘れていた。
『カチャ』
恐らくベルトを外す音が聞こえる。
「ば、ばか!そこはだめだって!」
私はそれ以上は聞きたくなかった。だからスマホにイヤフォンを挿して、音楽を聴いた。
そして布団に潜った。
(き、聞かなくて……いやいや刺激が強すぎる……)
私は気疲れしていたのか、そのまま寝てしまっていた。
「んー!んー!んくっごくっ、ごくっ」
文乃の悶える声が聞こえる。
「ん……」
(もうちょっとだけ……)
「あひぃうおあしちゃ……!んーごくっ」
(なんか涼しい……)
私は気持ちよく浅い睡眠を漂っていた。
「あ、あだでてうっ!んくっ、ごくっ」
「んんっ……」
(ふはぁ……もう少し……寝たい)
「ぷはぁー……甘酸っぱくて最高……っといけないいけない」
『ガサゴソガサゴソ』
(なんか……履かされてる?)
「んふぇ?」
眠りが覚めそうな時だった。
『ズバッ!』
勢いよく何かを履かされる。
「ん?」
目を開いて上体を起こす。
文乃が急いでベッドから降りた。
「なにして……」
「何もしてないよー」
(怪しい……)
「って……なんか臭くない?」
アンモニアの匂いが漂う。
「そーかなぁ……?」
「ま、まさか!?」
私は急いでベッドシーツを手で触る。
(漏らして、ない……?)
私はベッドから降りる。
「トイレ?」
「あー、うん」
そして私は本能のまま、トイレに向かった。
「あれ?出ない」
便座に座ってるのに一向に尿意はない。
(そーいや、あの後……)
「はっ……!」
全て思い出した。文乃が兄に何をしていたのか。
寝ぼけ眼で戻ると私の部屋で文乃が待っていた。
「あれ?おにーちゃんは?」
「その……逃げられちゃった」
「ふぇ?なんで?」
訳が分からなかった。
「やり過ぎたねー」
「え、結局あんた……あの後、やったの?」
「ベルト外したら逃げられちゃった……外に」
文乃は少し悲しそうにしている。
「バカじゃないの……?」
「ぷぷっ……」
「何笑ってんのよ?」
なんか笑われてる。非常にムカつく。
「いや?そういやおしっこ出た?」
「出て……ってまさか!?」
「いやー、私我慢出来なくて……ね?」
(こいつってやつは!)
私は彼女を這いつくばらせる。
「ふぇっ!?何?」
『バシーン!』
お尻を叩いた。
「ふひぃ……もっとぉ」
私はそれを止めて部屋から追い出す。
「さっさと追いかけなさい」
「は、はぁーい……」
彼女は困った様子で玄関を開けて、兄を探しに行った。
(ほんと油断も隙もない……)
本当は過去にもこういうことはありました……
「あーもぉぉ!二度と無いと思ってたのにぃ!!」
私は物凄く恥ずかしくなって、床を転がった。
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