△10月5日(金)午後0時20分
△ △ △
「せんぱいっ」
昼休みを知らせるチャイムが鳴るや否や、教室の外から元気に呼びかける女子生徒がいた。
彼女の手には、ひとりで食べるにしてはちょっと大きすぎるお弁当箱が提げられている。
「ごはん、行きましょ?」
「雨だぞ」
「いいじゃないですか。それとも……ここで食べたいんですか?」
彼女の言葉にうへえと顔をしかめながら、男子生徒が席から立ち上がる。
「それは嫌だ」
「じゃあ行きましょ」
「はいはい」
△ △ △
晴れていたら中庭のベンチにでも繰り出す彼らだが、あいにく今日は雨。
結局、学生食堂に席を見つけて座った。ここは弁当の持ち込みが許可されているのだ。
「ここも大差ないけどなあ」
「私と仲良くするの、そんなに嫌です?」
「それは嫌じゃない……けどって何言わせるんだあほたれ」
「私も嫌じゃないですよ。で?」
先輩が恥ずかしがる様子を、彼女はにやにやと見守る。
「周りに茶化されるのが嫌なんだよ。カップルだなんだって」
「カップルじゃなきゃなんですか?」
「アベック?」
「あべ? 総理?」
「フランス語でカップルみたいなやつ。死語だ」
「へー……って。カップルじゃないですよ」
「つがい?」
「動物か」
「人間だな。部活の先輩後輩だな」
「ですよね」
「ああ」
ひとしきりキャッチボールが落ち着いたところで、後輩の方が弁当のふたに手をかける。
「今日は5がつく日なので」
ぱかっ。
「卵焼きです。あと唐揚げもありますよ」
「その、5がつく日だからってのなんなんだ?」
男の方は、ポケットに入れたケースから箸だけを取り出す。
ちょっと大きい弁当箱には、ふたり分の昼食が入っているのだ。
「いやだって、レシピ考えるのめんどくさいじゃないですか」
「だったら別に作ってこなくても――」
「作るのは楽しいんです。レシピ考えるのが面倒なんです」
「はあ」
「あ、それとも先輩が考えてくれます?」
「いや、お前が何作れるかわからんし」
「リクエストでもいいのに」
手を合わせて「いただきます」と言い、ふたりは弁当をぱくつきはじめる。
「リクエストだ?」
「はい。私の頭脳の負担を軽減してください」
「それやると毎日卵焼きになるぞ」
「あら、卵焼きそんな好きなんですか」
「いや、なんか、な。この卵焼きは好き」
一瞬の沈黙の後。
女子生徒はやや頬を赤くして言った。
「……照れちゃいます」
「今更?」
「いまさらでにゃ……なにが悪いんですか!」
焦って噛み噛みになった後輩の様子を観察しながら、男は卵焼きをもう一切れ、口に放り込んだ。
* * *
毎月5日は「たまごの日」です。
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