後輩の実力

「おはようございます。響先輩」

少し余裕を持って、駅を出た俺に神崎ではない女子が声をかけてきた。

「昨日の・・・」

「はい、葉桜です」

「そうだったな。おはよ、葉桜もここら辺が家なのか?」

すると葉桜は意外にも首を横に振った。

「いいえ、先輩とお話がしたくて待ってました」

こうして後輩から慕われるのは嬉しかったが、それにしてもどうして自分の通学路が知られているのかが不安になってしまった。

そんな響の心を見透かしたように、葉桜は簡単に説明をした。

「先輩がよく痴漢を捕まえてるって話は有名ですよ」

「そうだったのか。それにしてもそんなに知られてるとは思ってなかった」

「学校でも有名ですけど、そこそこ街でも有名人ですよ先輩って」

「少し恥ずかしいな。まあいいや、一緒に行くか」

「そうですね」

「・・・っと・・待って!」

歩き出そうとした彼らを後ろから全力で呼び止めたのは、神崎だった。

「神崎もいたのか、すまん気づかなかった」

「いたよ!具体的には篠田くんが葉桜さんの名前が思い出せないくらいから」

「随分と最初だな」

「だから気づいてもらえると思ってたのに」

「さらに付け加えるなら僕もいるからね」

神崎の後ろから、もう1人少し眠たそうにしながら友人が現れた。

「神崎さんが駅の方見て待ってたから先に行こうか迷ったけど、何だか面白そうだから」

「別に駅の方なんて見てないから!誤解しそうな言い方しないでよ!」

そんな神崎の様子に、友人と葉桜はニヤニヤした。

「俺一人と話しても面白くないだろうから、せっかくだし4人で行こうか」

「そうしようかな。僕も葉桜さんと話してみたいな」

友人はこの状況の最大の理解者であったが、「これはこれで面白そうだ」と考え、響の提案に賛成した。

「うぅ・・・篠田くんがそれでいいならいいけどさ・・・」

さすがにこの状況から2人で登校できるほど状況作成が便利でないことを理解し、神崎も今回は大人しく引き下がった。

「私も先輩方とお話してみたかったのでよかったです」

三者三葉の反応を見せながら、少しだけ珍しい組み合わせの4人は今度こそ学校に向かって歩き出した。

「そういえば葉桜さんもこっちが家なの?篠田くんとかと普段通ってても見掛けないけど。」

軽い牽制と少しの興味から、神崎はそんな質問を葉桜に問いかけた。

「いいえ、昨日はあまり先輩と話せなかったので、ちょっと先輩が来るのを待ってました」

「そう・・・なんだね・・・」

神崎は思いっきりカウンターを食らったようだ。

あまりにも違和感を感じた響は神崎と葉桜に感情共鳴を使うことにした。

(神崎が葉桜に敵視・・・葉桜は神崎に面倒くさいか・・・本当に相性悪いんだな・・・)

それだけ確認すると、響は能力を停止した。

「葉桜さんは趣味とかあったりするの?」

相変わらず何故か女慣れしている友人は、下心はないとはいえ少しの迷いもなく葉桜と話し出した。

「そうですね・・・最近だとインディーズバンドとかをよく聞きますかね」

葉桜が言ったインディーズバンドの1つにに、思わず響は反応した。

「俺以外で好きって言ったやつ初めてかも・・・」

「えっ、響先輩ももしかして好きなんですか?」

「街中で聞いてハマってさ。好きな曲とかってある?」

「ちょっと王道かもですけど・・・」

「いい曲だよなアレ。俺はすごく・・・」

いつの間にか二人の世界に入ってしまった響たちは、楽しそうに好きなバンドで話しに華を咲かせた。

「・・・あっ、すみません。少し興奮して話し込んじゃいました」

「いいや、俺も話してて楽しかったよ」

「そう言ってくれると嬉しいです。そうですね・・・他にはやっぱり可愛いものも結構好きです」

「女子だからね。どういうキャラが好きなの?サン○オ?ディ○ニー?」

「えっと・・・知らないかもですけど、ポコ太ってキャラクターが好きで・・・」

「名前くらいは聞いたことあるけど。響知ってる?」

「確か神崎のカバンに付いてるのがポコ太じゃなかったか?」

そう言い、神崎の方を見ると、目を輝かせながら葉桜を見る神崎がいた。

「ポコ太好きなの?」

「まぁ・・・それなりには・・・」

その神崎の食いつきぶりに、さすがの葉桜もたじろいでしまっている。

「神崎も可愛いもの好きだからな。気持ちはわかる」

「・・・はっ、そ、そうだね。やっぱり可愛いものっていいよね」

平常心に戻った神崎は、先程までの自分に少し羞恥心を感じた。

(思ったよりも神崎先輩の食いつきが凄かったですけど、ある程度は理想通りに行きましたね)

葉桜夕、彼女も異能力者の一人である。

能力の名は「嗜好複製」

対象の興味のあるものや、好みを知ることが出来、さらには条件付きだがコピーも可能である。

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