能力無効化空間

「そろそろ職場実習のグループ組めたか?」


この学校の2年生には6月頃になると、「職場実習」と言われるものが行われる。

響も含め、中学の時に体験した人は多いのだが、やはり高校というべきなのか規模がかなり大きい。

3日間同じ職場を訪れるのだが、選べる場所はどこも有名企業や人気店ばかりだ。

これを目的にこの学校に入学してくる人もいるのだから、周りは興奮が抑えられないようだ。


「2人は行きたい場所とかあるの?」

「私はそもそも知らなかったので・・・でも有名な所がいいですね」


そしてここにも楽しそうに話し合いをする2人がいた。


「篠田くんはどうかな?」

「食べ物系のお店がいいかな」

「響くんが少し食い意地張ってるようにも感じますけど、私も食べ物系がいいです」


そして当然(?)のように班員は神崎と二色、そして響だ。

3から5人の班を作れと言われ、2人に言われるがままここに入れてもらった響だったが、他を誘っても何故か上手くいかなかった。

女子には「あの2人と比べられたら勝てる気がしない・・・」、男子に関しては「ちくしょぉおおおおおおおおおお!!!」と奇声を発する始末に、さすがの響も心が折れてしまった。

しばらく色々と見ていた神崎だったが、「ここは?」と1件の店を提案した。


「ムーンスイート・・・製菓店か」

「私は甘いもの好きだからいいかなーとか思ったんだけど・・・どうかな?」

「私も好きですから、ここでいいと思います」

「俺の要望通りだし、文句はないぞ」

こうして3人の実習先は「ムーンスイート」という製菓店に決まった。

「多分だけど希望通るって」


紙を提出してきた神崎はウキウキした様子でそんなことを言った。


「今、調べてたけどそこまで規模が大きい店ではなさそうだな」

「本格的にお菓子の勉強したい人は企業に行くだろうし、希望通りになるのかな」


この日は班が決まった人から解散となり、3人は他よりも少し早く帰ることが出来た。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


実習当日、3人は実習先から最寄りの駅に集合した。


「悪い、俺が1番遅かったみたいだな」


一応、時間よりも早く着いた響だったが、俺が駅に来た時には、すでに2人とも待っていた。


「いいえ、私たちも今来たところですから」

「全然気にしてないから大丈夫だよ。それよりもマナーとか時間とかの復習しない?」

「それもそうですね」


余裕を持って事前に調べておいたお店の情報や、基本的な職場でのマナーなどをしばらく

おさらいしていた。


「おっと・・・そろそろ時間になるから、移動しよっか」


駅から歩き、住宅街を抜け、小道に入ると、そこには「ムーンスイート」と看板がかかったお店があった。


「こんにちはー・・・」

「おっ、君たちが実習生さんたちだね?」


そこには朝の準備に追われながらも、気前の良さそうな笑顔を見せてくれる女性がいた。


「初めまして!今日から3日お世話になります」

「いいね〜べっぴんさんが2人に、イケメンの男子が1人これは客足伸びそうだね〜」

「変に緊張させるな。すまないな、ここで厨房を担当している芦田友樹だ。こっちはうちの嫁で一応店長の芦田美希」

「よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします。俺は篠田響って言います」

「神崎みのりです。今日からお願いします」

「 二色小夜です。少しの間ですがよろしくお願いします」

「響くんにみのりちゃんに小夜ちゃんだね、それじゃあ早速だけど朝の準備の手伝いしてもらっていいかな」


それから開店までの数十分間、商品の品出しや、店内の清掃、諸注意を受けた。


「後は私たちで終わるから、3人は制服に着替えてきてね」

女子2人は更衣室へと案内され、響は店の裏でコソコソと着替えを済ませた。


「終わりましたー・・・」

「私たちも・・・」


男性の服装は灰色を基調とした清潔感のある制服で、対して女性は紺色を基調とした落ち着いた制服だ。


「開店前に店長の私から、3人にエールとお知らせを。たった3日とはいえ、学べる事は腐るほどある」

「上の人間の尻拭いの仕方とか」

「もちろん困ったことがあれば私たちに聞いてくれればいい」

「面倒臭い店長への対応をどうしたらいいのでしょうか?」

「ええい!ともくんうるさい!・・・ま、まぁ、お互いに楽しくやろうね」


こちらこそ、と響たちは頭を下げた。


「そしてこれが重要なんだけど。3日目にはお菓子コンペをしようって考えてるの。いつも通りなら女子2人に参加してもらおうと思ってるよ」


あまり自信がない2人を裏切るように、店長は言い放った。


「最下位には罰ゲームをしてもらおうかな」

「「え・・えぇえええええええ!?!?」」

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