第24話 かえさん

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 シルクロードのゲーム実況チャンネル

 「【クリスタル・パレスⅥ】 初見! アラクネーダ戦」



 はいっ、皆さんこんにちはー。シルクロードでーすっ。

 今日も一緒に、ゲームの世界に旅立ちましょーう!


 今日は、前回の続き、アラクネーダとの闘いにいってみようと思いまーす。

 武器は<曙光の剣>です。闇属性であろうアラクネーダには、光属性でいこうと思います。

 アラクネーダ、闇属性で合ってるよね? いや、凄腕の勇者さんたちは、もう続々と全クリしてるじゃないですか。うっかり攻略見そうになって、ないない、これは見ちゃいけないって。



 さあ、出でよ、アラクネーダ!

 うっわー、すごい部屋だな。ぼろっちい。壊れまくってる。ほこりだらけー。

 っていうか、知ってるものはしょうがない。

 あえて一番に言わなかったけど、ご覧の通り蜘蛛の巣だらけ。

 おっと、蜘蛛かいっ。

 うわっ、来た来た来たあ、蜘蛛の大群! バスケットボール大っていうのか。

 ひー、湧いてくるじゃん! 巣かな。出てくるところを破壊しないとってやつか。


 おおっ、お出ましだー!

 はい、ムービー入りますね。


<世界を織り出す者・アラクネーダ>


 アラクネーダが織るタペストリーが、世界を悪夢で覆ってゆくっていう、あれですね。

 いやー、妖しい美しさってやつですか。流し目ー。胸やばい、胸。

 でも、蜘蛛嫌いの人は、これは無理だな。まんま蜘蛛だもん、下半身は。

 ぶっちゃけ、どういう作りになってんだろ、下半身。

 あっ、すみません。はい、来た来た。

 おー、巣を飛ばしてくるね。巣? 違うか。これ、糸っていうのかな。糸を飛ばしてきますよ。

 これ、切れるか? よっしゃ、切れる。これ、当たったら絶対やばいやつ。

 へっ、当たらねーよ。

 あっ、子分蜘蛛、湧いてきた。面倒くせえな。

 あそこか? あれ破壊したら止まるやつ?

 おっと、アラクネーダの方は、はいはい、ちょっと待って。

 待てっつんてんだろー。


☆☆☆☆☆     ヤゾロシカー


 ああ、はいはい、おっ、背中柔らかい。これ、かなり効いてるっぽい。

 やば、糸がくっついた。わっ、ぐるぐる巻きって、どうすんだ、これ?


☆☆☆☆☆     ホドケ、ハヨホドケ


 取れたっ! ああっ、HP、やべぇ、残り一だった。回復、回復。

 これ、連続でくらったら死ぬやつか。


☆☆☆☆☆     カエサンナラ


 よしっ、腹だ。あった、これ、ここが弱点だな。

 ひっくり返してからの、腹攻撃。了解。どんどん攻めるぜー。


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○ シルクさん、回転切り上手い。婆ちゃん、まともにしゃべっちゃってる!


○ 鹿児島住みだったんですか? お婆さんの鹿児島弁でわかりました。


○ 2:07 やぞろしかって聞こえた。婆ちゃん?! なんて意味?


○ 「やぞろしか」は、うるさいって意味です。おれも鹿児島。


○ 婆ちゃん、シルクさんにうるさいって言ったのか?! 画面集中?


○ アラクネーダ最高


○ 婆ちゃんが「ほどけ」って言ってた。そんなに簡単にほどけないんだよねー。


○ 2:59 かえさんって誰?


○ 鹿児島住みの人


○ やぞろしかーって鹿児島弁なんだ。孫のプレイを鑑賞する婆ちゃん。


○ かえさんって言った? かえさんだったら、もっと上手にできるってこと?


○ 婆ちゃん、声入ってるぞ。マイクの近くに来ちゃったの?


○ シルクさん、マイクはどの型使ってるんですか。


○ 流れるような攻撃、さすがです。僕は三日、クリアできていません。



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 帰宅して、手を洗ったりうがいをしたりといういつもの行為ももどかしく、司はシルクロードの動画を見た。

 確かに、お婆ちゃんの声と言われるものが聞き取れる。

 コメント欄には、その声に反応した書き込みが多数あり、ほとんどが好意的だった。

 しばらく書き込みを読んでいた司は、途中で切り上げて夕食の支度をした。

 冷凍庫から一食分ずつに分けてあるご飯を取り出して、レンジで解凍する。その間に、お手製の煮豚のかたまりを切り、キャベツと炒めて味噌だれで味付けをする。そして、卵一個でかきたま汁。

 さっと整えた一汁一菜をテーブルに運び、一人だけの食事を始めた。


 司の部屋にはテレビがない。

 大学に進学して一人暮らしになったとき、勉強の邪魔だという父親の判断で、テレビは持たせてもらえなかった。

 実家で暮らしていたころから、チャンネルの選択権がほぼ無かった彼女は、テレビに対する執着がない。

 ニュースはパソコンかスマートフォンで十分だし、芸能人にも興味がない。映像よりも活字という選択でやってきた。

 ただ最近は、動画サイトを見始めるとついつい長くなることもある。

 行儀が悪いと叱られることもない気楽な一人暮らしの司は、かきたま汁を食べ終わったところで、回鍋肉もどきの炒め物の残りをご飯の上に乗せ、パソコンデスクに移動した。

 そして、食事前に見ていたシルクロードの動画を、二度三度と見た。


「ドドレ、ドド」

「レドド」

「ドドレ」


 食事途中の箸を宙で振って、司は突然音階を口にし始めた。


「カエサン、ナラ」

「カエサン」

「カエサン」


 今度は、音階をなぞるように発音する。

 それからパソコンの画面を切り替え、「鹿児島弁 かえさんなら」を検索した。

 しかしながら、そのままの言葉はヒットしない。


「音かあ…」

 つぶやいた司は、スマートフォンを置いて、またパソコンに向かった。

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