第12話 メタ王国の真実

「……この人が、王国が敵と通じている証拠、ですか」

 誰にでも分け隔てなく接する優しいメトリスが、棘のある言い方で来訪者のことを言った。あのメトリスがそんな言い方をしたという事実に驚く人はいても、その行為自体を咎める人はいない。――来訪者をここへ呼び寄せたアーサーですら、やむを得ないというように苦笑している。

「お初にお目にかかる。私はテト=メタ=アルファ。亡国の王子は王子とは呼ばん。敬称も敬語も必要ない」

「アルファ……確か、旧メタ王国において、王位継承権第一位の男児に送られるエンドネーム識別名……?」

「その通り。私はかつて、王の跡を継ぐべき者であった」

 空気が重くなる。何度もいうが、かつて平穏だった大陸に魔王の侵略を許した国は、あまりよく思われていない。憎むべきは敵であるのは道理だが、敵が弱き一般市民には太刀打ちできない以上、手っ取り早い復讐の相手として旧メタ王国民が狙われることも多いのだ。

 ――貴様らが踏ん張らなかったせいで

 ――神聖サクラダ門を破られたせいで

 ――俺たちはいまも魔物に食われているんだ……!

 こういった罵声とともに、殴る蹴るの暴行を受けて、寝たきりになったり死んでしまったメタの民は多い。なにせ、彼らは赤い髪と赤い目を持ち、目につくのだ。

 アーサーたちの住む王国の政府も、逃げてきた旧メタ王国民の保護と差別撤廃を公に掲げてはいる・・・・・・。しかし、それは上っ面をすくっただけの〝声明〟で、王国は事実上メタの民への私刑を黙認している。今のところ魔王に対する有効な策をなんら打ち出せない政府への、不満をそらすためでもあるのだろう。

「まあテトさん座って座って♪ 今俺の嫁がなんかご飯作ってくれるからグフォオ?!」

 重い空気を破ったのは、アーサーのいつものお調子者発言と、二・三戸隣りまで響いたと思われるほどのビンタの音と……

「なんと! そこなる少年はすでに婚約しておられるのか! 羨ましい限りである!」

 言い出しっぺのアーサーさえ想定していなかった、来訪者の盛大な勘違いであった。

「メトリス、この人絶対世間知らずよね……」

「うん、私もそう思うわー」

 エルフ二人は頭を抱え、魔術師マーリンは振り上げた拳の置き場を失い、アーサーは腹を抱えて笑い転げ、他ならぬテトは頭の上に疑問符を浮かべる有り様である。


「……で、旧メタ王国が敵と通じていない証拠はあるの?」

 テトはアーサーの淹れた紅茶を飲みながら、ゆっくり語りだした。

「……そもそも、我々はサクラダ門を破られてはいないのだ・・・・・・・・・・

「どういうこと? 大陸の外からやってきた魔王軍に、メタ王国軍は破れたんでしょう?」

「否。我々王国軍は、魔王軍とサクラダ門を挟んで交戦などしていない」

「嘘、大陸の外からこっちに入ってくる入り口は、サクラダ門しかないのよね?」

「そこだよ、ポポロ。魔王軍と呼ばれるモノは、大陸の外から攻めてきたわけではないんだ」

 テトは首肯する。

「その通り。魔王軍は、我々の背後から侵攻を開始した。その国籍不明軍は友好関係を保っていた周辺諸国を疑心暗鬼の闇に陥れ、あちこちで戦争が始まった。そして戦争が我らを自滅に追いやったころに、国籍不明軍は忽然と姿を消した」

 偽りの歴史に、アーサーを除く全員が凍りつく。

「それって――」

「ああ。魔王は外から来たのではない。大陸のなかで生まれた何かなのだ」

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