味噌汁は苦手

 そういえば、妻が食事を作っていたとき、味噌汁って作ったことが無かったのでした。

 出る味噌汁は、インスタントの味噌汁。

 でも僕の中では、別に煮干しから出汁をとるわけでも無いし、今は”ほんだし”とか、何なら出汁入り味噌まであるわけで、具に火が入ったら味噌を入れれば良いだけの簡単な飲み物。

 僕はメインのおかずを作ってる横で、ちゃちゃっと作っちゃいます。

ある朝、昨日作った味噌汁が残っていたことを思い出して


「昨日の味噌汁、温めようか?」


 と聞いてみた。


 妻は


「わたし、あまり味噌汁得意じゃないんだよね・・・朝から味噌汁飲むと、頭がボーっとするんだよ」


 人それぞれ、好き嫌い、得意不得意もあるわけで、そういうものかと思ったくらいで、特に気にも留めずにいました。


 味噌汁と言えども、季節感が出るものじゃないですか?


 僕の住む北海道は、食の宝庫。

 日本の食料基地。

 結婚前に関東で数年暮らしたことがあったのですが、そのとき初めて北海道の食べ物って、改めて美味しいんだなと思ったことがありました。


 今は10月ですが、このくらいの季節になると、魚屋さん(鮮魚コーナー)には、真鱈の白子、北海道では”たち”と呼ばれるものが、手ごろな価格で並びます。


 炊事担当になってから、食材選びも同時に僕の担当になっていたので


「”たち”が美味しい季節になってきたね。値段もだいぶ落ち着いてきたし、今日は”たち”の味噌汁にしようか?」


 妻は眉間にしわを寄せ、眉毛をハの字にしながら


「えー、”たち”の味噌汁って、猿の脳みそみたいで嫌いなんだよね」

(うん、わかるけど、その表現は言っちゃダメなだよね)


「あー、そうなんだ」


「あっ、でも好きなら、わたし食べれないけど作ったら?」


「うん、そうする」


 マンションに戻り、さっそく晩御飯の支度を始めると、興味津々な妻が見に来ました。


 ”たち”は、タラの腹から取り出して、そのまんまをトレーに入れてパックしただけなので、まずは軽く水洗いします。

 その後、包丁で一口大に切って、じゃが芋、大根、ニンジンに火が通った鍋に入れ、味噌を溶いて長ネギを入れたら完成です。

 ”たち”は、あまり火を入れすぎると固くなってしまうので、火を通しながらも柔らかな触感を残すのがコツです。


 かくして我が家で初めての”たち汁”(”たち”の味噌汁のことをこう呼びます)が完成しました。


 ”たち”からは、すごく美味しい出汁が出ますし、その味も濃厚でありながらもしつこくなく、味噌汁が一気に豪華な感じになります。


 ”たち汁”を飲む僕を見て、妻が


「美味しい?」


 と聞いてきます。


「うん、すごく久しぶりに飲むし、自分で”たち汁”作ったの初めてだけど、すごくおいしいよ」


「ふ~ん」


「・・・試しに飲んでみる?」


 一瞬、うぇーって顔をするものの、僕があまりにも美味しそうに食べていたものだから


「それじゃ、、、少しだけ」


 と、僕の食べていたお椀を手に取り、恐る恐るすすってみる。


「どう?やっぱり苦手?」


「美味しい・・・何これ?すごく美味しいっ!」


「”たち”は食べれそう?」


 猿のの、、、いや、”タチ”を箸で持ち上げ、ほんの少しだけ前歯で千切るように食べると・・・・


「え?食べれる?これ、美味しいわ」


「でしょ?」


 今ではそんな妻も、味噌汁を作るたびに


「今日は何の味噌汁にするの?」


 って聞いてくるほど、味噌汁好きになりました。


 ちなみに妻が一番好きな味噌汁は、”かぼちゃの味噌汁”です。

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