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「はあ!?あんたに関係ないし!」

「客なのが分かりませんか?……ああ、それとも人外は客ではないと?」

「チッ……」

「舌打ちですか。とても愛想の良い店ですねー。『客なんて店が開いていれば勝手にやって来る』だなんてバカな事を思っていませんか?」


お客さんはバカじゃない。例え近くてもこんな店には二度と来たいだなんて思わないだろう。それなら少し不便な場所にあってもそちらを選ぶ。

……まあ、全く気にしないお客さんもいるけどね。


「……ウザっ」

「あー、今の態度は傷付いたなぁ……。私、こんな姿していますが、あなたより身分が上なんですよねー。気分が悪いので、この店は今日中に壊す事にしますね?」

「はあ!?そんな事、出来るわけが・・・・」

「『ミーガルド』という名前を聞いた事はないですか?」

「ミーガルドって……最近現れた聖獣様じゃない!ソレが何の関係あるって言うのよ?!」

「実はソレが私なんですよねぇ」

私はニッコリ笑った。


「じ……冗談!全然笑えないだけど?!」


まあ、簡単に信じる事は出来ないよね。

……さて、どうやって証明しようかな。


そう思っていると……

「あれ?ミーガルド様じゃないですか」

「アインさん!」

通りがかりのアインさんに声を掛けられた。

アインさんを振り返った私は思わず瞳を見開いたが、ここは騎士団の宿舎の裏側だ。アインさんがいてもおかしくはない。


「こんな所で何をしていらっしゃるのですか?」

そうだよねえ。どちらかと言えば、私がここにいる方が不自然かもしれない。


「ええと……美味しそうな匂いに釣られまして?」

しかも、店員のお姉さんにケンカを売っていたとは……言えない。


「ああ。それなら納得です」

「納得?」

「はい。ここの店のラスクは美味しいのですよ。……それなのに私ぐらいしかいつもいないんですよね。食い意地の張った騎士団連中が近くにいるっていうのに」

「へえ……そうなんですか。何ででしょうかね」

まあ、それはこの綺麗な店員さんの愛想が悪いからだと思います。

そんな思いを込めて店員さんをチラリと振り返ると…………。


なっ……?!

さっきまでの愛想の無さは消え失せて、満面の笑みを浮かべているではないか。

ほんのり頬が染まっている。

……ははーん。

私の髭が『この店員さんはアインさんに恋をしている乙女』だと告げている。

なんて分かり易い……。


「ミアさん、こんにちは。いつものラスク貰えますか?」

「は、はい!只今、用意致します!!」


……何で、アインさんはそれに気付いていないのかな。

鈍い……鈍すぎる。

こんなんだから恋人が出来ないのだ。


『ミアさん』と呼ばれた店員さんは、赤い顔で一生懸命にアインさんに渡す為のラスクを用意している。

私はそんな様子を眺めながら、彼女に対する『お仕置き』を思い付いた。


「アインさん。例の件はどうですか?」

「例の件?……ああ、集団お見合いの件ですか?」

「はい。その件です」

私の視界の隅では『……お見合い?』と絶句しているミアさんの姿が映っていた。


「順調ですよ。何事もなければ今週中には開催出来ますので、楽しみにしていて下さい」

「うん。アインさんがをゲット出来る様に協力しますからね!」

「……そんな奇特な女性がいると良いのですが……」

「大丈夫ですよ!が、アインさんを放っておくわけないじゃないですか!自身を持ちましょうよ!!」

「頑張ります……」

「合い言葉は?」

「……『玉砕上等』」

「よろしい!をゲットしましょうね!!」


しつこい位に、何度も強調したのは勿論『お仕置き』だからだ。

案の定、ミアさんは真っ青な顔で泣きそうに唇を噛み締めている。

……アインさんは気付いていないが。

そういう所だからね!?騎士ならば細かい所にまで気付ける様にならないと!

アインさんはアインさんで、私プレッシャーをかけられた様な状況で、そんな余裕がないのかもしれないが。


ふむ……。アインさんにはお見合い前に特別授業を施しておかねばならないか。

あー、一緒にドライさんも指導しよう!

折角の集団お見合いだ。やるからには成功率は上げておきたいし。


「では、私は訓練に戻りますので。また」

「はい。頑張りましょうねー」

ペコリと頭を下げたアインさんに向かって手を振った。


さてと…………。

アインさんが見えなくなるまで手を振っていた私は、ミアさんを振り返った。

充分なお仕置きになっていれば良いけど。反省していないならまたその時は……


「ミーガルド様!大変申し訳ございませんでした!」

……へ? 

謝罪が来るかもとは思っていたけど……土下座ですか。

ここまでされるとは思っていなかった私は、焦ってしまった。


「あ。あの……ミ、ミアさん?」

「聖獣様に失礼な態度をしてしまいまして、本当に申し訳ありません!!」

地面に頭を付けるミアさん。


ううっ……。何だか自分の悪者感が半端ない……。



「服や髪が汚れますので、顔を上げて……立って下さい」

「でも……」

瞳を潤ませたミアさんが私を見上げてくる。

ざ、罪悪感が……!!


「反省しているなら……私は、ミアさんが愛想良く接客出来なかった理由が知りたいです」

「ミーガルド様…………分かりました」

立ち上がったミアさんは素早くお店を閉めて、お店の中に私を通してくれた。

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