足しても引いても1になる異世界式

松七五三

1-1 (ディティクティブオフィス)

「…は?」

ほかに言葉が出ない。頭が空になったのか、脳内が考えることを停止していることがすぐわかる。...とりあえず、大切な事なのでもう一度言っておこう。

「は?」


−10月1日、日本を超え世界中で熱気であふれていた。現実空間に、架空人物を3次元として生み出すことが出来るVRの派生機器「D.VRディードット ブイアール」。一般的なVRは、目を覆い映像を投影するものだが、今回のは輪っか状のブレスレッドを腕にはめ、そこから映像を3次元として投影する。手を動かしても、同じ場所で投影し続けることが出来る。3次元人物と言っても、買った人の12割方は異性を投影する。というか、この商品自体、それを狙って作られている。

とまぁ堅苦しい前置きはさておき、当然の如く俺もそれを買い早速家で試した。

「電源をいれて...初期設定完了っと。...ん?ニックネームか。チヤホヤされるんだ、せめてマシな名前にしたい。............とりあえず本名にして、後で変えるか...」

何かを決断しようとすると、急に頭が空になる。これじゃぁまるで、受かると思っていたテストが散々だった時の俺と同じじゃないですかやだー。世の中甘くないのはわかっているが、自分でフラグを立てて置いて回収できないのは、精神的にもつらいものがある。

定橋潤さだはし じゅん、高一。社会に出たら若干身を引くことが今からでも予知できるくらい何の変哲もない男。いわゆる無趣味無得意と言うやつだ。一応、2次元を生きがいとしているが、俺の中では2次元は趣味には入らない。多分今いるこの俺の部屋を見て、趣味程度だと思う人は明日世界が最期を迎える確率と同じくらいだろう。…高いか少ないかは、察していただきたい。とりあえず、自らオタクを名乗る脳筋はさておき本題に入ろう。

「ただいま、あなたに合ったプログラムを構成するためのスキャン中です。しばらくお待ちください。」

「おぉ...」

このブレスレットから出る音声に関しては、ボーカロイドとほぼ同じような機械音声を積んでいると聞いていたが、本当に喋り方が滑らかだ。思わず声が出てしまう。

「D.VRへようこそ!今日からずーーーーーっとあなたと一緒にお供する上坂 文かみざか あやです!よろしくっ!」

「ぬあぁぁぁぁぁぁあああ!かわえぇぇぇぇぇええ!よろしくぅっぅうぁぁぁあああ!」

この声、体型、髪型。全てが俺の欲望だけを切り取った、非のない美少女だった。貯めに貯めたお金で、ついに自分の欲望を叶えることができた。バカにされてもいい、アホとかゴミだとか死ねだとか言われてもいい。...後半のは暴言でしかないが。趣味がなくても、得意なことがなくても、幸せにはなれる。俺の新生活の始まりだ...!



それから1ヶ月

「なんであんたはいつもいつも!私だって映像とは言え、3次元の端くれ。なのになんでそこまでしなきゃならないの!」

「俺は男だ!高校生だ!ちょっとの指図くらいしたっていいじゃないか!」

「い や だ 、 め ん ど く さ い」

「だあああぁぁあっぁぁああっっっっっ!」

…と思っていた時期がありました。なんだこれ。こんなのデザイン性のないドーナッツ型のクソ投影機じゃないか。...1ヶ月前、俺をスキャンしたミスタードー...もといD.VRは、確かに俺の細かいところまで読み取ってくれた。しかしながら、スキャンをするためのプログラムが詳細すぎて俺の性格まで反映されてしまうという、徳の高いものとなってしまった。もちろん悪い意味で。これに対し運営は謝罪。ただ、そこで放たれた言葉は、「すみませんでしたぁ、今回の件はバグで当社の品質基準が低かったこので発生してしまいましたぁ、今後はこのようなことが無いように気おつけますぅ、え?返品?交換?なにそれおいしいの」だけ。言葉の常体がおかしいのは、感情がメーターを振り切ったからなだけで、会見ではもう少しまともだったかが。さらに今回のことで頭がプッチンプリンしてしまったのは、これだけでは無い。というかここからがメイン。先行販売にてゲットしたかったため、一般的なショップではなく公式サイトから購入した。その際、腕にフィットさせるため、50mm〜55mm、55mm〜60mm、60mm〜65mmとラインナップがあるうち、55mm〜60mmを購入した。すると、なんということでしょう。50mm規格のものが届いてしまったではありませんか。それに気づかず、早速はめた俺。いざ外そうとした時、外す用のボタンがブレスレットの内側についており、押せない悲劇が発生。これまた運営に問い合わせたところ「知らねーよばーか」とのこと。言葉の常体がおかしいのは以下略。ちなみにブレスレッドは外さない限り電源は落ちないし、太陽光発電内蔵で常時発電されている。そう、つまるところ、この1ヶ月間3次元女と1秒たりとも目をそらさなかったということ。学校も、通学中も、家も、遠出も、アキバも、全部、、、全部、、全部、全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部!!!

「あぁあっぁぁぁぁぁぁっっっっあああ1@:/,\^\-@@:;]]]※△1111aaaぁぁぁああああ!」

「うるさいわね!こっちだっで行くとこなすとこみんな変な目で見られるんだもん!そりゃ、私はあくまでも仮装人物だし?投影してるだけで実際にいませんし?変な目で見られて当然なんだけどね!!(涙)」

「お前は変な目で見られてもある程度形になってるし、機械なんだから周りの了解とかもあるでしょうよ?でもなぁ、俺はこの地に足を踏み入れている身なんだぞ?1つの命を受け持ってるんだぞ?学校に行ったら行ったで、『おぉっ、潤まだそれ取れねぇのかよ。まぁ精々、オタクとしての振る舞いだけは崩すなよな!っはぁぁぁっ、ヤベェ自分で言っといてアレだが超ウケるwwww』とか後半何言ってるかわからないようなこと言われて、女子からも世の末期みたいな目で見られてもう残機が無いに等しいんだよ!」

「どうせオタクなんて、学校の女子からしたら道端の石並みの存在でしょ!」

「失敬な!新しい高校入って美人ばっかで、成績やら運動神経やらを維持してればあともう少しでLOVEの一言でもあってもいい、それこそチヤホヤされる展開まで来たと思った矢先のこれだ!今すぐ自分に重りでもつけて琵琶湖にでも身投げしたいところだわ!」

「あぁあ勝手に身投げだのからあげだのして魚と勝手に告りあってなさいよ!大体、告られたとことで、こんな部屋見たら一発アウトに決まってるじゃない!」

「うっっ...それを言われると耳が痛い...。でもなぁ、それでも俺の青春をいとも簡単にかき氷機シュレッターにかけてくれたのだけは許せねぇ!」

「ほぉ?何、私が悪いとでも?過去のことしか向き合えない奴に、その言いようで判決が下せるとでも?」

「異議しかないつーか重罪だわ!よくもまぁ俺の過去に口挿しようとすんな。俺が積み上げてきた過去を眺めるくらいしたっていいだろう?あぁ?文句の1つでも言うくらいなら、過去に戻って俺を見てこい!このエセ3次元が!」

「…あぁもう限界!え?過去のあなたを見ろって?残念ながらあなたの想像してるエセ3次元とは違うんでそんなの余裕なんですねー残念ながら!そこまで口が開ける暇があるならゆっくり見させていただくわね!ワールドプログラム起動!タイムオールダスト!」

「あぁそうですかそうですか!精々目がひっくり返って何も言えずに俺に論破されるんだなってちょっと待て。ん?あれ、なんかあたりがだんだん…え?」

…明るくなってきた。徐々に体の感触が消えていく…。と、ここであることに気づく。このままのラノベの筋書き通り行くと…。

パッと開けたその目の前には、未知の世界が広がる。


「あー、あああー。テストテストテスト」

「うるさいってか今どこにいんの!」

「……きこえますか… きこえますか… 潤… 潤… 私です… 今… あなたの…心に…直接… 呼びかけています…」

「デジャブを感じるんでそれ以上言うのはやめようか」

「一応直接声を届けることはできたみたいね、よかった」

「今の状況を見て1マイクロともよく思わないんだけどなぁ!てかここどこどこ!」

「ここはとあるプログラムの中。まぁわかりやすく言うと異世界ってとこかな」

「うんとりあえずラノベといえば異世界みたいなテンプレにハマって、『いやそんなうまい話あったらとっくに異世界にいるわ』なんて思う読者の気持ちまでは理解できた」

「理解力がある人は私嫌いじゃないわ。全般的に何言ってるかわかんないけど」

ここまで猛烈な速さできて、俺も含めたいろんな人がついていけてない気がするが、とりあえずここは異世界。間違いない。太陽の位置、気温、目の前に広がる街とその香り。そしてこの澄み切った空気は、少なくとも日本ではない。

「ってか俺なんでここにいるの?俺ちゃんと帰れるの?え、なにやだちょー不安でしかないんですけど」

「...今の聞いて私始めて記憶喪失がいかに重いものかちょっとだけ感じたわ。とりあえず言っておくと、ブレスレッドから映像を投影することができるのは現実世界だけだから、脳内に直接信号として送ってるわ。だから私はここにはいないけど、意識として存在してる。…まぁそれだけじゃ腑に落ちないだろうから順番に話すと...」

まずここはD.VRのアップデートで追加予定の『タイムオールダスト』と言う世界。ネーミングセンスについては後々触れるとして、そのアップデート更新前、いわゆるβ版ベータと呼ばれるやつらしい。もともと発売前からD.VRに組み込むはずだったが、上の輩やからが先行販売だのなんだのケチつけて、結局プログラムだけ残って正式な実用にはならず、時期アップデートから追加されるらしい。...なんかこれだけ聞くと世の闇を感じるな...。

「んでなんでわざわざ俺をここに来させた?過去の俺を見るだのなんだの言うなら普通タイムワープなるものを使うじゃないか」

「...あなたこの世界でも恥を晒す気?あのね、このご時世時間を前後するなんてことは不可能って科学的に証明されてるの。そこで天才的な私は考えたの。できないものは作ればいいってね!」

「ところどころ俺の価値観を下げていってるのは後で物理的に処理するとして、ないものは作る?過去を?」

「えぇ、ここが今までの空間とは全く違う存在である以上、この場所にはなんの思い出もないし、経験がない。つまり実質過去を作る材料が無いってこと。そこで今から思い出、経験を生み出し、過去の材料にする。その材料の質によっては、過去の完成形が変わってくるってわけね」

...なるほど、つまり俺は今この場所に生まれたことになり、過去の完成形はこの場所を去るときのことか。確かにある程度の知識があって、過去をもう一度作り上げるのであれば、振り返る時にいいところ、悪いところがわかるかもしれない。

「...わかった。悪くない案だし乗ってやろう。ところで今こうしてこの場にいるけど、元いた場所はどうなってるんだ?」

「さっき時間を前後することはできないって言ったけど、時間を止めることはできるわ。だから現実世界ではここにいる限り時間は止まりっぱなしよ」

「おー!まじか!そりゃ気にせず自分と向き合えるな!いやぁどうなるかと思ったけど以外と筋が通るもんなんだな!ちなみに、俺のこの世界での滞在期間を聞いてもいいか?」

「ちょっとまってね。えぇっとねぇ、確かプログラムのこの辺に...っとあったあった。...ってあれ?おかしいな、そんなことは...ぁっ」

「...ごめん、お独り言おひとりごと中に申し訳ないんだけど、今まで割とラノベを読んできた俺からすると、今の反応は嫌な予感しかしないんですが。...もう一度聞くが、俺のこの世界の滞在期間を聞いてもいいか?」

「.......っとね....、そのぉ、ほらここにくる時、勢いのまま来たじゃん?でも、まだβ版だからプログラムを一部変えなきゃいけないところがあって、その一部に滞在期間の項目があるんだけど、そこが初期のまま...∞になってたと言うか...そのぉね...?」

「...ごめんよく聞こえなかったな、もう一回いい?」

「滞在期間の項目が無限になったまま来ちゃいました...」

「...書き換えは?」

「できない...」


『...は?』


そして今に至る...。


ーあとがきー

こんなところであとがきとか場違いにも程がある気がしますが、1話目ですので今だけお付き合いください。次回以降は見えない何かによって抹殺されていると思うのでご安心を。

今回から連載していく「足しても引いても1になる異世界生活」。今回初めての小説書きなのでなにかと至らぬ点があるかもしれません。一応カテゴリー的にはギャグラノベに相当するのですが、恥さらしだけは避けたいので、是非読んでみた皆様のご感想が聞きたいです。肯定、否定、批判なんでもいいので読んでみた素直な気持ちがしれたらと思っております。

あとがき的にはこんなところになります。まだまだ未熟ですが、限界を超えない程度で頑張りますんでこんなやつでよろしければ、よろしくお願いします。

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