第8話 父

「ユウマ!」

 部屋の外からとても低い声で俺を呼ぶ。間違いなく懐かしい父の声だ。


 急いで部屋のドアを開けると、そこには父が立っていた。

「初のリーダーとしてのミッションご苦労だったな」

 父の大きな手が俺の頭を撫でる。


「ありがとう、父さん。でもね……」

 昨日のミッションの話をしようとしたと同時に父は言った。


「分かってる。でもお前は精一杯やった! 元王妃は残念な結果になったが、この歴史の方が彼女には幸せだったのかもしれないよ……」


「でも……」

 俺の言葉をさえぎるように父は続けた。


「正しい歴史では、あの後、元王妃は再婚することができないんだ、再婚相手の家族から相当なプレッシャーをかけられノイローゼ気味になってしまうんだ。そして……義理の母でもある女王が元に、暗殺されてしまうんだ。しかもあの夜の1ヶ月後にな。」

 父の目から涙がこぼれたように見えた。


「そんな……」

 俺は言葉を失った。だからポールも急いで誘拐を実行したのか……。


「元王妃は幸せの絶頂の中、婚約者と一緒にいられるんだ、永遠にな」

 父のトレードマークだった、後ろで結んだ長い髪を触りながら話を続けた。

「それに、仲間の誰1人犠牲を出すことなくミッションをやり遂げた。本当に立派だ。お前は自慢の息子だよ」

 父にこんなに褒められたのは初めてだった。


 俺は思わず父の胸に飛び込んだ、やっぱり暖かく居心地がいい。

 もう一度父の顔をしっかり見ておこう。

 顔を上げ父の顔を覗き込む……。


 その瞬間……


 俺はベッドの上で目が覚めた。


「ユウマ! 早く起きなさい!」

母の甲高い声が聞こえてきた。そう、父の姿は夢だったのか。


「わかってる! 今行くから!」

 いつもの自分の答えに、急に現実に戻された。


 リビングに行くと、いつも通り朝食が準備されている。なんだか、昨晩より心が軽くなっている気がした。朝食を食べながら昨日のミッションの話をした。

 食卓に座る母と……6才になる……


 イヤ……47才になる小さな父に。


 そう、父は4年前に寿命を迎えていた。ヒューマン社の技術を使い、地上の分厚い氷に保存されていた2歳児の体に脳を移植していたのだ。以前とは姿形は違うが、間違いなく父だ。

 父も俺と同じタイムキープ社に務めていた。様々なミッションをこなす、少しは名の知れたキーパーだった。当然、俺の目指すキーパーの1人だった。


「今日出社したら、クルム先輩、ハヤト、ミエコに昨日のお礼をしっかり伝えよう」

 昨日は、一言も声を掛けずに退社したことを後悔しながら、家を出た。


「行ってきます!」


 いつもより、外の空気が美味しく感じた。

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