症例・力・ジョーカー

 軋む、軋む、軋む――。

 それでも大切なパーツはバレることなく、異音を上げながら動き続ける。

 まあ、もうほとんどのパーツは外れて遠くへ行ってしまったけど。

 この身体が動けば、それでいい。

 ――DISC SAUCER

 先ほど懲罰した河童の〈ディスク〉をトレイに乗せ、ドライバーへと押し込む。〈ディスク〉の情報を読み取るために唸りと軋みを上げて回転する。読み取りにも随分と時間がかかるようになった。この肉体を維持するために必要な〈ディスク〉の情報量は日に日に増していく。いや、ドライバーの処理能力が日に日に落ちているのか。

 笑おうとして、口から漏れたのはカエルのような潰れた呻きだった。こんなに頭が働くのは久しぶりだ。ただ河童を懲罰し、〈ディスク〉を奪い取ることしか考えずに動いてきた。この壊れた身体と自我では、それが精一杯だった。

 まともな思考ができる時間は限りなく少ない。河童に引き寄せられ、眼前で三者が同一の存在へと回帰している時しか、人の言葉は話せない。

 もう、駄目なのかとも思う。

 ドライバーの出力は明らかに低下していっている。河童の数も目に見えて減ってきている。

 せめて――せめて、自分を愛してくれた二人だけは助けたい。自我を蝕み身体の自由を奪っていく最大の原因だとわかっていても、どうしても切り捨てることはできない。

 ――アリス、アリス。

 兵頭アリスは自分の内から聞こえる声に導かれるまま、思考の沼に沈んでいく。

「なんだよ、沙羅」

 ここではアリスは言葉を話せる。身体の軛から解き放たれた、互いにぶつかり合う自我の渦の中。長くとどまればアリスの肉体はかえって言うことを聞かなくなっていく。だけど呼びかけられれば、応じないわけにはいかない。

 アリスの目の前に、かつての姿を投影する。白い、病院衣を思わせるワンピース。長い黒髪。アリスとはどこまでも対照的な、だけど深く深くつながった――今もつながってしまっている、お嬢様。

 菅原沙羅の幻影は、悲しそうな顔をしていた。

「アリス、アリス」

 空気を求める金魚のように、ぱくぱくと口を開く沙羅。だけど言葉はろくに出てこない。

 アリスは自分の意識を遠のかせる。自我は三人で共有している。アリスの意識が薄れれば薄れるほど、沙羅は言葉を取り戻せる。

「ねえ、アリス。もういいの。本当に、もういいのよ」

「よくねえだろ」

 アリスが言葉を発すると、沙羅はまた口をぱくぱくと動かす。この意識全体のリソースがすでに枯渇しかけている。まともに喋れるのは一人だけというわけか。

「お願い、アリス。どうかアリスだけでも、もとに戻って。私たちは、切り捨ててもいいから」

「沙羅――お前らしくないじゃねえか。なにがなんでも未来を手に入れるんじゃなかったのか」

「私の未来は、今ここにある」

 でもね、と沙羅は一層悲痛な面持ちになる。

「アリスの全てを奪ってしまうのはいや」

 アリスは意識を沙羅へと向ける。それだけで二人の距離は瞬時に詰まり、簡単に唇を奪える。

「駄目っ、アリス――」

 意識の表象のみが浮き上がっている状態での身体的接触は、あっという間に互いの深部まで踏み入ってしまう。全身に神経が浮かび上がった状態で身体を触れ合わせるようなものだ。途方もない陶酔と、耐えがたい激痛が触れる度に全身を焼いていく。

 それでもアリスは沙羅の唇を貪り続けた。沙羅と表象同士を向き合わせたのは本当に久しぶりだった。ならばこの機を逃すわけにはいかない。

 沙羅の身体を、意識を、一片も余すところなく重ね合う。どれだけ苦痛にのたうち回ろうが、アリスは接触を止めない。

 精神と精神の交合。二人はどろどろに溶け合い、その時が訪れた瞬間には間違いなく一つの生き物となっていた。

 だけど潮が引いていくと、結局アリスと沙羅は別々の表象を維持したままだった。

「アリス、もうやめて。わかっているでしょう?」

「悪くない――悪くないんだよ、沙羅。お前とこうやって一つになれるのは」

 沙羅の表情から、すっと強張りが抜けていく。

 そうだよ、沙羅。お前は自分勝手で、業突く張りで、色情魔の最低のお嬢様だろうが。

 アリスの心中はラグもなく沙羅へと伝わる。

 今更善人ぶるのはなしだ。アリスが愛したのは、そんないい子ちゃんじゃない。

 ああ、身体のほうに湧いていた意識は諦観に沈んでいたというのに。沙羅を抱いただけで渇望が見る間に湧き上がってくる。沙羅のことはとてもではないが笑えない。アリスもまた、呆れるほどに単純だ。

 CCCドライバーが〈ディスク〉の読み取りを完了した。意識の流れがわずかに加速する。同時に、次の標的を捉えて身体が勝手に山の中を歩いていく。

「この方向――」

 沙羅も気付いたらしい。まさかまたあの場所へ赴くことになるとは。

「アリス、またね」

 沙羅はアリスの額にキスをして、意識を手放す。三者の意識が混じり合った渦の中に溶けていき、アリスもまた混沌の中に呑まれていく。

 アリスの目は、簡素な看板を目にした。アリスの記憶の中には存在しなかったものだ。

「サ――ラ……」

 口から漏れるのはやはり言葉未満の呻きばかりだ。

 見なれた建物の表に出ている看板には、「レストラン DISH」と書かれていた。

 ――PUNISH

 停車する自動車のブレーキ音。それより早く車外へ飛び出した気配。わかりやすい、河童の気配。

「河童の将」

 ――CAPPA

「我が尻を食らえ」

 ――DAEMON

 河童懲罰士――識別コード〈ダイモン〉。狙いをつけている河童だ。

 ――CCC DRIVER

 胸から吐瀉物のようにせり上がってくる〈ディスク〉を口から引き抜き、排出されたトレイに挿入する。

 ――DISC SAUCER

 軋め、軋め、軋め――。

 耳障りな駆動音が、アリスを正気へと引き戻すスイッチだ。

 ――CAPPA

「川立ち男」

 べきりと展開された概念形成体の装甲の一部がひしゃげる。身体に纏う骨格自体が折れているので、中に押し込められるアリスは装甲の中で常時身体が折れ曲がったのと同じ苦痛を味わい続けることになる。

 ――CHOBATSU

「氏は菅原」

 だが、一切の躊躇はない。

 ――CASE

 漆黒の装甲。河童懲罰士――識別コード〈ケース〉。アリスが外部へと自我の発露を行える、唯一の形態。

 ――アリス。

 耳元で幼子の声。

「なんだ、トオノ」

 ――〈ディスク〉の操作は任せて。

 アリスは仮面の下で自嘲気味に笑う。〈ケース〉となっても、この身体を思うように動かせなくなってきていることに気付いたらしい。

 ――CUTTER

 灰色の甲冑騎士――〈ダイモン〉はPCDドライバーの中央を拳で叩き、〈ディスク〉を真っ二つに割ってロングソード状の武装を現出させる。

「じゃあ、任せるぞ」

 ――CHAIN

 アリスの腕が自分の意思とは無関係に〈ディスク〉をドライバーに押し込む。

 概念形成体の鎧の関節部分から、蛇のように無数の黒い鎖が這い出す。それぞれが鎌首をもたげ、距離をとる〈ダイモン〉に狙いをつける。

 アリスは自分の身体から這い出た鎖は意に介さず、だが鎖を警戒する〈ダイモン〉の隙をつく形で一気に踏み込む。

 ロングソードの間合い。だがアリスは相手の武器には目もくれず、飛び込む形で拳を振り下ろす。当然〈ダイモン〉はロングソードで迎撃を行おうとするが、身体から伸びる鎖がアリスの単意識とは無関係に絡みついて無力化する。

 がん、と頭部に一撃。よろめいた〈ダイモン〉に間髪入れず二撃三撃目の拳を見舞う。衝撃によって背後に逃れようとするが、ロングソードを持つ腕に絡んだ鎖が許さない。思いきり手前に引き寄せる動きに合わせ、頭部の角で喉笛を抉るかたちに待ち受ける。

 ――POISON

 自由になる左手で、〈ダイモン〉がPCDドライバーを叩く。アリスの角は〈ダイモン〉の喉に深々と突き刺さった。

 吐血する。アリスが。先ほどの機械音声へと頭が回り、腹を蹴り飛ばして〈ダイモン〉から離れる。

 アリスの身体を覆う概念形成体の表皮がぼたぼたと溶け落ちてくる。毒だ。シンプルかつ強力な殺害手段。だが河童を痛めつける懲罰には向かない。そんな機能を搭載しているとなると――PCDドライバーのお里が知れる。

 ――CURE

 もうこの機能がろくに働かないことは知っていた。だが自己修復は無理でも、外部から投与された毒を分解する程度の働きは期待してもいいだろう。

 PCDドライバーから展開されていた概念形成体の装甲が砕け散り、〈ダイモン〉の中身が露わになる。青黄桜に擬態した河童――名前は覚えていない。

「動かないでくれるかな? アリスちゃん」

 細い呼吸を繰り返すだけのアリスの脳天に改造エアガンの銃口を擬する男。

「脅しにもなんねーっすよ、北村サン」

 北村の武装程度では〈ケース〉に傷一つつけられない。だが脅されずとも動けないのは事実だった。〈ダイモン〉から流し込まれた毒は想像よりも悪質だ。

 悪寒が全身を這いずり回る。以前にもあった。山中の廃病院で〈一つ目二つ〉の化け物と対峙した時。そしてつい先日、得体の知れない少女と目を合わせた時。

 今日現れたのは、少女のほうだった。前に桜を襲った時にも同行していたことから予測はできたが、身体を襲う悪寒は抑えようもない。

 少女の目がアリスを射抜く。耐えがたい恥辱のような熱感が冷えた身体から湧き立つ。

「河童」

 少女の言葉に耳を貸してはならない――アリスは本能的に危機を察知したが、この状況で耳を塞ぐことは不可能だ。

「『くだん』」

 ――大災Hazard励起on

「これより語るは全て嘘と方便。耳を塞がず目を見開け」

 どこかから朗々と響く声に、少女は苦汁をなめたように顔を顰めた。

 口が歩いてきていた。

 ヒトのものだとはわかる。だが明らかに異質である。なにせ、口以外の身体の部分が全くなく、口だけがひょこひょこと歩き出てきたからである。

 口はしばらくその場でひょこひょこと浮いていたが、やがて速度制限のかかった端末でWEBサイトの画像が読み込まれる時のように、ゆっくりと口から身体全体が浮かび上がってきた。

 草臥れたスーツ姿の女だった。少し茶色を入れた髪の毛に、化粧気のない顔――どちらもまるで生気を感じさせない。死体のほうがまだ健康そうだ。

 女の右手だけが意思を持ったように動き、虚空からなにかをつかみ取る。右手を腰に突き込むと、そこには一度見た覚えのあるデバイスが装着されていた。

 二つの窪みがあり、横にはネジ巻きのような取っ手が伸びている。

 ――百鬼ひゃっきドライバー!

 いやにはっきりと、勢いに溢れた音声。

 女はまず、頭の右側を前に倒すと、右目に指を突っ込んで引き抜き、百鬼ドライバーのスロットに装填する。

「『バックベアード』」

 女は自分の口で平然と認証コードを口にする。

 続いて左目に指を突っ込んで掻き出し、もう一方のスロットに装填。

「『一目連』」

 ――疫癘合致Peston match

 錆びた自転車を漕ぐような音を立て、女は取っ手をぐるぐると回す。ネジ巻きの回転に合わせ、女の身体の周囲に靄状の概念形成体が構築されていく。

 ――猖獗承知Are you dizzy

百鬼ひゃっき一丸ひとまる

 最終確認の認証と同時に、女の身体が靄へと溶ける。

 靄が形をとって現れたのは。それぞれが別個の一つ目だと主張する、一つ目二つのあの姿だった。全身に戯画化されたを思わせるローブを纏い、身体の輪郭は周囲に溶けていきそうになっているほど曖昧。自己と周囲の境界さえ定まらない不安定な身体がふわふわと動く度、境界が拒絶の悲鳴を上げる。

 ――一つ目デンジャラス!

 ――ベアードモクレン!

 パチパチパチと、喝采のSEが鳴り響く。

 何者だ――。

「テメーコラ」

「あなたは――」

 アリスと少女が同時に声を上げた。すなわち、突如現れ今まさにこちらへと襲いかかろうとしている〈一つ目二つ〉の放つ異様な圧から、この場で最初に抜け出すことができた二人。

「識別コード――〈布引ぬのひき〉」

 アリスは身体が動くことを確認し、〈布引〉の前に躍り出る。北村は女に圧倒され、エアガンを取り落としていた。

 解毒は進んでいる。溶け落ちた装甲も間に合わせだが修復しつつある。

「テメーは、敵だっていう認識でいいんだよな」

「ミームライターまたはミームライダーはMPの適切な処置を開発し、皆様へ安全にお届けいたします。第一号〈コープス〉、第二号〈カース〉は喪失。第三号〈ケース〉の回収を開始します」

 こいつは――トオノと沙羅を知っている。いや、正確には二人が装着していたCCCドライバーについてか。

 しかしなんだこの話している感覚のない音声ガイダンスのような物言いは。中身は人間だとさっき確認したが、あれに意思が宿っているとはとても思えない。

 まあいい。

「狙いはあたしってことでいいんだな!」

「ミームライターまたはミームライダー識別コード〈布引〉は皆様へMPの取り扱いビジョンを提示する未来志向の生体デバイスです」

 ずるり――と周囲の空間ごと〈布引〉が前に出る。引きずられた空間は耳障りな音を立ててもとあった場所へ戻っていくが、〈布引〉自体は一瞬でアリスとの距離を詰めていた。

「『手小屋』」

 ――大災Hazard励起on

 空間から存在を拒絶されながら、〈布引〉は左手を開いてアリスの腹部へと突き出す。

 左手が腹部に触れると、灼熱がアリスを焼き始めた。押し当てられた〈布引〉の手は異常な高温となっていた。引きはがそうと膝蹴りを食らわせ、〈布引〉の身体がよろめくが、アリスの身体も一緒に引っ張られていく。

 粘ついたとりもちのようなものが、〈布引〉の左手を覆っていた。加えて当然のごとく、左手に張りついたとりもちは耐えがたい熱を放ち続けている。

 黒い〈ケース〉の装甲が焚き火の中の薪のように爆ぜる。それほどの高温。〈布引〉は熱を感じないのか、感じていても無関係に行動しているのか。

「仕方ねえ。トオノ!」

 ――CRASH

 素早く〈ディスク〉の挿入されたCCCドライバーをタップ。腹部装甲を、〈布引〉の腕もろとも炸裂させる。

 毒を受けて完全に回復していない状態で放ったのはまずかったらしい。常時全身を巡り続ける装甲の下の概念形成体のストリームが、どろりとした液体状になって腹から漏れ出す。

 ――CURE

 焼け石に水とはわかっていても、この状態は危険だ。自己修復は予想通り遅々として進まない。漏出するストリームの量も減っていかない。

〈布引〉が退いてくれれば、と淡い期待を持ったが、無理な相談だったようだ。右手の先を失ってはいるが、〈布引〉は平然と漂っている。

「質問を、よろしいですか」

 初めて、〈布引〉が狼狽を見せる。

 あの得体の知れない少女が、目の奥に凄まじいまでの虚無を湛えて、〈布引〉に向き合っていた。

「ミームライターまたはミームライダーの定義を教えてください」

「ミーム――ラッ、ララララ」

「教えていただけないようなら、私のほうから解いてあげましょうか。お伝えしましたよね。我が名は〈解釈ときわけみこ〉――」

 失った左手の先から、どっと粘ついたものが吐き出される。手首から嘔吐でもするように、〈布引〉は全身をぶるぶると震わせ、悪寒に必死で耐えている。

「私はあなたをすっかり解釈しなくてはなりません。どうやら――あなたも私と同じようだから」

 少女の言葉を聞く度に〈布引〉の輪郭が散らばり、周囲との境界が悲鳴を上げる。

「やあ、お前はそんな名前だったのか。ああ、どうかそのままで。僕が意識をハックしている状態はいろいろな意味で芳しくないんだ。ははは、全く困ったよ。約束通りに身体から出ていったはずなのに、ろくでもない連中が身体自体を弄くって僕を再現しようとするんだからね。おかげで彼女の自我はめちゃくちゃさ。全く――酷いことをする」

〈布引〉が、急に軽薄な声で話し始めた。だが今までとは声の質も音も違う。若い男と呼ぶのが最も近い。

「お前は――」

「そう。君の災難について悼むのはまた今度にして、手早く用件だけを伝えさせてもらう。このふざけた器具をくっつけられた彼女を、どうか助けてやってほしい。災難そのものの僕が言うのもおかしな話だけど、彼女にはそのくらいの恩義を感じていてね。ああ、もう気付かれたか。面倒になる前に、僕はとっとと消えるとするよ」

 声が途切れた時には、〈布引〉の左手が修復していた。時間稼ぎというわけではなかったのは、〈布引〉の様子を見ればわかる。完全な虚脱状態で、異音を上げながら力なく漂っているだけだった。

「ミームライターまたはミームライダー識別コード〈布引〉は予想外のアクセスにも柔軟に対応します。自我の再萌芽の未然切断。外部MPによるクラッキングの遮断。内部ストレージ内の不要データの消去。これによりミームライターまたはミームライダー識別コード〈布引〉は変わらないパフォーマンスを発揮します。なお内骨格の再成形のために多少の時間を要しますが、これはパフォーマンスをより向上させるために必要な措置です」

 すらすらと長い説明を述べた〈布引〉は、身体を覆うローブを翻す。気付いた時にはその姿は消え失せ、アリスはどっと息を吐く。

 ひとまずは助かった。安心するより前に、今はこの場から逃走することを考えなければならない。アリスの身体に悪寒を呼び起こす得体の知れない相手の一人は未だに残っている。〈布引〉と対峙したのは、アリスを助けるためなどではなく、自分の目的に沿った行為だろう。

「河童」

 全身が一気に痺れる。少女は今度はアリスに向かって、あの目と言葉を向けていた。

「兵頭アリスさん、でよろしいですね。お話を伺いたいのですが、一度武装解除をしていただけますか」

「黙れよ化け物。オメーの口車には乗らねえ。乗っちゃならねえってことくらい、あたしにだってわかる」

「いい判断です。ですが、私ならばあなたの問題への協力ができる――かもしれません」

 急に身体が軽くなる。腹部装甲が修復を終え、内部ストリームも正常に循環している。

「少し、期待を持ちましたね。付け入る隙をいただければ、このようにあなたの修復の補助も可能です」

「黙れ」

 唾棄すべき甘言に耳を貸してしまった。アリスは少女の持つ力以上に、自身の甘さに苛立つ。

「あたしはあたしのやり方で、沙羅とトオノを復元させる」

 一声吼えると、アリスは大きく跳躍して山の中へと姿を消す。

 ――EJECT

 CCCドライバーから〈ディスク〉が排出され、アリスは人間の姿へと戻り、人間性をまたしばらくの間喪失する。

「サラ――沙、羅」

 自分が人の言葉を話せた気がしたが、アリスは傷ついた身体を癒やすために眠ることを優先させた。

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