第16話 死を見抜く男

 

 3人が、部屋に入ってきた。

 

「あれ?」

 

 そのうち2人は、顔見知りだった。

 

「やあ。また会ったね」

 

 ひとりは気さくに声をかけてきた。少し前、線路に飛び込もうとしていたぼくを止めてくれた男だ。

 

 男は数秒、ぼくを見つめた。そして、

 

「もう大丈夫だね」

 

 うんうんと、頷きながら言った。

 

「えっ、大丈夫って?」

 

「死へ向かっていこうとする意識が感じられない」

 

 ぼくは、会ったときのことを思い返した。この男は、ぼくが線路に向かって歩くところを止めたのだ。ぼくが、飛び込んでしまってもいいかなと、漠然と思いながら歩いていたときだ。でも、あの時の歩様は別段おかしくはなかった。それなのに、まるでぼくの心の内を読んだかのように、この男は止めたのだ。

 

「あの、乗換駅のホームで会ったときは、どうしてぼくが死ぬかもしれないと分かったんだ?」

 

「あのとき、君は死への意識が急上昇していた。自分が腕を掴まなかったら、確実に線路に飛び込んでいたことだろう」

 

「もしかして、あなたの特殊能力って、このことなのか?」

 

「あぁ、そうだ。死のうとする人間が分かるんだ」

 

「分かる?」

 

「あぁ。はっきりと。正確に言うと、死のうとしている人間が分かるんじゃない。死の恐怖が吹き飛んでいる人間が分かるんだ。君はあのとき、積極的に死のうと思っていたわけではなかった。死んじゃってもいいかなと、ぼんやり思っていただけだった」

 

「そうだな。自分でも覚えてるよ。線路に飛び込むぞ!と思い詰めていたわけではない。妙な言い方だけど、もうここらへんで『生』を閉じてみようかな、という曖昧な感情だった」

 

「そうだったな」

 

「しかし、すごい特殊能力だな」

 

「まぁそれはお互いにだろう。ネイティヴ並みの発音を意識しないでできるってのも、とても信じられないぜ」

 

 ぼくと男は、顔を見ながら笑いあった。

 

「気が合いそうで、なによりだ」

 

 窓際にいた社長が近寄り、ぼくと男の肩をポンと叩いて座るよう促した。

 

 これはやはり、ジランジアに行く展開になってしまっているよなと、ぼくは心の中で苦笑した。

 

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