第14話 行きたい気持ちと行きたくない気持ち

 

「自分であれば絶対に足を踏み入れないところに、ぼくを行かせようと?」

 

「そう。だから繰り返すけど、強制じゃないよ。提案だよ」

 

「それは、そうですが……」

 

「君こそ、私が話を打ち切ろうかと言っても、続けさせるじゃないか」

 

「そう、ですね……。自分でも不思議なのですが」

 

「行きたいという思いがあるのかい?」

 

「うーん、行きたい自分と、行きたくない自分の、2人がいます、ぼくの身体の中に。正直に言うと」

 

「そうか」

 

 社長はそこで一拍置いた。

 

「これだけ危険があることを伝えて、それでも尚且つ行きたい気持ちが少しでも残っているのであれば、おそらくは、かなり、行きたい気持ちが強いんだよ」

 

 ぼくは、自分でも薄々分かっていた。

 

 ぼくは現在、捨て鉢な気持ちになっている。もう、どうなったっていい、というような……。どのみち一度死んだ身なのだ。今いる世界は、いわばおまけの世界なのだ。偽物の世界なのだ。社長のように、この世界であらためてしっかりやろうという気には、到底なれなかった。そこにもってきて、チョコレートの情報。これはもう、行くしかない。独裁国家だろうがなんだろうが知るもんか!! 行ってダメなら、華々しく散ってやろうじゃないか。これがウソ偽りない、本心だった。

 

 でも、作り物の世界だろうが死んだあとの世界だろうが、現実感は生前と同じようにある。感覚も、感触も。だから掴まって拷問を受ければ苦しみぬくだろうし、恐怖心も振り払えない。それが、「行きます!!」という社長への言葉に待ったをかけていた。

 

「では、ぼくの方から質問していいでしょうか?」

 

 ぼくは顔を上げて社長と目を合わせた。

 

「ん、なんだい?」

 

「社長は、ぼくのような平凡な男が行って、ちゃんと調査をして無事に帰ってこられるとお思いでしょうか?」

 

「むずかしいと思っている」

 

「むずかしい?  むずかしいじゃなくて、無理だと思いませんか?」

 

「でも君には、特殊能力があるだろう」

 

「ネイティヴ並みの言語能力ですか?  それはもちろんあった方がいいでしょうが、暴力うずまく独裁国家ではたいして役には立たないでしょう」

 

「そうだろうな」

 

「ほら、そうですよね。やっぱり無理なんですよ」

 

「しかし、私は君にひとりだけで行かせようとは思っていないんだ。あと3人帯同させようと思っている」

 

「4人、ということですか?」

 

「そう。そして、あとの3人は行くことを承諾している」

 

「命知らずの人たちなんですね」

 

 あきれ顔でぼくは言った。

 

「まぁ、そうだな。ただ、成算があるから行こうと思ってくれたんだ。実はその3人もそれぞれ、君のような特殊な能力があるんだ。それも、ジランジアに行って、なかなか役に立ちそうな能力をね」

 

 

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