第11話 ジランジアの情報

 

 社長の言うとおり、聞くだけならなにも危険は降りかからない。それは分かる。しかし聞けば、当然行きたい気持ちも首をもたげてくる。なんだか、提案なり話を聞くだけなり、ヘンな詐欺の勧誘と同じじゃないか。ここは聞く耳を持たず、突っぱねるのが最もいい選択だ。突っぱねて、部屋から出て、2度と田名瀬社長と接触しない。それがいいに決まっている。

 

 しかしぼくはできなかった。立ち上がれず、だから当然社長室から出られない。カカオ豆に関する情報を、聞きたくて仕方がないのだ。しばらく沈黙を守っていたが、結局数分後には、その国の説明を乞うてしまった。

 

「妙なことに巻き込んで、すまないと思っている」

 

 数枚の地図を机に広げながら、社長がぼくに詫びた。

 

「いえ、ぼくが望んだことですから。せっかくですので、詳しくお願いします」

 

 社長は神妙に頷き、ペンの先でコンコンと1ヶ所を叩いた。

 

「ここが、ジランジア。面積は日本の四国くらいだ。もっとも、形は九州のように縦長だけどな。南側、つまり下側だな、そこが海岸線になっている。そして、人口は分からず。もちろんGDPも分からず、だ。調査なんかしていないし、できる機関もないのだろう」

 

「なるほど。でも仮に人口が打ち出されていたとしても、独裁国家の発表では信憑性がないですよね」

 

「まったくだ。分からない、という方が潔くていいかもしれないな」

 

「おそらく山側は未開の地でしょうから、国境だって曖昧でしょう。だから面積も当てにならないかもしれない」

 

「するどいな。たしかにそのとおりだ。国境沿いに、相手国に行く幹線道路がないんだ」

 

 相槌を打ちながら、社長はもう一度、ジランジアの位置をコンコンと叩いた。

 

「大陸の一部なのに、南の海と、北と東西の国境に囲まれて孤立している国なんだ」

 

「国境線は、山と密林地帯ですか」

 

「そうだ」

 

 社長がペンで国境沿いをなぞった。

 

「それで、首都は?」

 

「この海沿いにある、コダゲという町だ」

 

「どんな国にも首都ってあるんですね」

 

「そうだな。空港と港と、大統領官邸があるよ」

 

「空港ですか。定期便はあるんですか?」

 

「ゼグニアとモンタビアから、週に1便ずつ。客どころか物資すらほとんど運んでないから、『空気を運ぶ便』ってからかいの対象になっているらしい」

 

「船は?」

 

「定期航路ってこと?」

 

「そうです」

 

「ないよ。ろくに整備してないから、砂が溜まって喫水の深い船は入ってこられないんだ。うっかり入って座礁した船が、そのままになってる。それがさらに港を塞いじゃってるんだな」

 

「行くとしたら、その、近所の国からの週に1度の定期便しかないわけですね。どうせプロペラ機でしょうけど」

 

「あぁ。行くとしたら、それしかないな。密入国者なんかはジープで国境を超えるらしいが」

 

 社長がぼくの顔を見ながら苦笑した。

 

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