★300記念、12女騎士の裏話2

ex12−1 女騎士の監視

 友好的な男が居る。

 それは私達にとって、女冒険者にとって、貴重な機会だ。まして、私達の行動や意見を尊重し、考えを理解し、同性のそれと同じ様に取り立ててくれる男などまず居ない。

 地位や身分の差があっても自分より上の立場に女性を置く事を嫌うのが、男性というものだと私達は嫌という程理解していた。

 例外中の例外というだけでも、彼が魅力的に見えてしまう。彼に認めてもらいたいと思ってしまう。それは、私にも痛い程よく理解出来た。

 私も同じ気持ちなのだから。


 それでも私はパーティの盾だ。皆を護るのが役割だ。

 彼が皆に取り入る為の演技をしていないとも限らない。その疑いが晴れるまで、私は彼を見張ると心に決めた。


 彼は皆に対して消極的だった。

 自分からはあまり話しかけず、話しかけられても受け身な立回りに終始し、必要以上の事はいわない。ある意味非常に冒険者らしく、同時にどこまでも胡散臭い。

 たしかに、臨時パーティで手札を晒し過ぎるのは愚かな選択だ。徹底して自分は戦力外だと主張する言葉が正しいのなら、自衛の為にも彼は可能な限り手札を伏せるべきだろう。

 しかし、伏せ過ぎるのも不自然だ。隔意があると示しているような物で、あまり歓迎出来る態度ではない。近付くなと牽制しているような、そんな態度。

 いったい何を隠しているのか。切り札なのか、爆弾なのか。

 私は彼の一挙一動に注視した。


 彼を警戒するのは、私1人で良い。認められたいと願う皆まで、無理に距離を置く事は無い。だから敢えて彼に突っ込んだことを言うのは、私の役割だ。

「私が森を歩き慣れていないだけかも知れないが、随分歩いたな?」

 探索初日、1時間程でたどり着ける距離の水場へ、随分と時間を掛けるルートを彼は選んだ。戦闘なしの誘導は確かに大したものだが、戦闘ありで1時間の距離を行くには大回りが過ぎる。

「俺はまず歩く事、フォーメーションの確認とそれを維持したまま行動する訓練だと指示を受けたつもりだったんだが……。モンスターの群れに突っ込んだ方が良かったか?」

 確かにリーダーは「行軍に慣れよう」と言い、戦闘には一切言及しなかった。リーダー自身、まさか1度の戦闘も無く水場にたどり着けるとは思っていなかっただろう事はさておき、指示の解釈自体は妥当だろう。

「いや、指示の解釈はそれが妥当だと私も思う。戦闘無くここまでたどり着けたのも僥倖だった。ただ、思っていた以上に歩いたものだから、私はてっきり道に迷ってしまったのかと不安になってしまったんだ」

 それは恐らく皆が感じている不安で、不信だ。私は敢えて、それを彼に真っ直ぐぶつける。迂遠うえんな表現で場を濁すような事はしない。そんな事をして不信感を残すのは、皆のためにならないからだ。

 私の謝罪を兼ねた糾弾に、彼は微苦笑した。

「なるほど、俺の配慮が足りなかったようだ。普段は単独なのでな……。これからも、パーティプレイに慣れていなくて迷惑をかけるかもしれん」

 自分の非を認める。それは、実力社会に生きる冒険者には中々できる事ではない。同性同士でさえ責任や非の押し付け合いなど日常茶飯事だ。だというのに彼は、他に女性しかいないこの状況で誤解の余地無く「自分が悪い」「迷惑をかける」と認めてみせた。

 他の男性冒険者が聞けば嘲笑物だ。私自身、話を伝え聞いただけならば呆れただろう。


 彼がいったい何を考えているのか。何を求めているのか。元々判らなかったが、兎に角いえるのは、彼が一介の冒険者とはまるで違う感性のもと行動しているという事だ。

 男性だとか、冒険者だとか、そんな分別で彼を見ては見誤る。それだけは間違いないと私は心に刻んだ。

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