ex8−3 女騎士の疑念

 パーティの人数が増えても、全滅を喫しても、基本的な所は変わらない。

 足りなかったなら学べば良い。及ばなかったなら積み重ねれば良い。


 私は1人ではなく、また同時に、仲間達に支えられてばかりでもいられないのだから、いつまでも塞ぎ込んでは居られない。失敗を悔やんでは居られない。

「負けない」

 という普段無口な少女の誓いの言葉は、多分、私達皆の胸の内に同じ色の火を灯した。


 ◇◆◇


 そんな折にふらりとやって来た魔法使いは、舌を巻く程の実力者だった。

 彼女がいるだけでパーティ全体が強くなったような錯覚を受ける程に。

 盾としての役割を突き詰める私は兎も角、他のメンバーには衝撃的だっただろう。私でさえ、自分の存在意義を再確認する為に自問自答を繰り返した程なのだから。


 そんな彼女が言う「優秀な斥候」とはいったいどんな人物なのか。

 期待半分、恐ろしさ半分。

 行動を共にするうちにその人物像を想像しながら、しかし、疑問が晴れない。


 なぜ、これほどの実力を持ちながら、私達と行動を共にする事を選んだのか。


 冒険や収入を求めているのならば、彼女ならダンジョンへ挑む方が得策だろう。安住の地を求めているなら、『旅団系』パーティに所属するべきだ。駆け出しの寄せ集まりでしかないこのパーティに、何故わざわざ彼女は所属を希望したのか。

 何度考えても、答えは出ない。


 ◇◆◇


 金策が一段落し全員の装備が一応揃って、全員が魔法使いとの信用を築いて。

 わざわざ、そんな遠回りをしてから、彼女はその斥候をパーティに招いた。

 念入りすぎる根回しだ。冒険者の臨時パーティなんて、往き釣りという事など珍しく無い。女性ばかりのパーティに男性を招くという事情を鑑みても、少々慎重が過ぎる様に思う。

「人間不信を拗らせている」というが、それほどまでに慎重を要さなければならないのなら、受け入れる側としては逆に不安になる。


 だから、顔合わせの日は緊張していた。

 早めに集合地点に集まったのは彼の人柄を見る為だという名目だったが、宿でのんびり時間をつぶしていられるような心境ではなかったという私の事情を、リーダーが察してくれたからだろう。


 果たして集合場所にやって来た彼は、「待たせた」と短く口にした。

 謝罪の様にも、非難の様にも、様々な受け取り方が出来る言葉だ。

 私達が彼を推し量っているのと同様に、彼の方でも言葉1つで私達の反応を探っているのだろう。


 この手の探り合いは久々で、緊張する。

 その後の道中のやり取りも、彼はあまり自分を前面に出さない。パーティとして必要な情報は開示するものの、雑談には余り乗らない。しかし相槌はそれなりに返してくるし、あからさまな拒絶が有る訳でもない。

 端で聞いている印象としては、上手くなされているといった様子だ。


 他の男性冒険者に比べれば、一緒に居て苦にならないというのは良い点だというのは間違いのない事実だ。しかし、現状敢えて一緒に居たいとは思えないし、優秀かどうかも解らない。

 要観察。

 判断を保留する私に、彼は何故か嬉しそうに笑った。

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