ex2−2 ギルド受付嬢の奔走

 例の男の子が冒険者になってしばらく。

 驚く事に、彼はまだ死んでなかったのはいいんですが。

 字面だけ見ると凄く失礼な話ですけど、冒険者というのは何度も無茶をして死にながら経験を積んでいくものです。特に、単独行動の駆け出し冒険者はその傾向にありました。

「案外やるじゃない、あの子」

 と、先輩は言います。

 助けてとお願いしていたのに、いつの間にか姿をくらませていた内の1人です。

 そこを非難すると、「だって、私達が手を貸していたら、貴方いつまで経っても担当を持たなかったでしょう?」と逆に怒られてしまいました。

「死んではいないですけど……モンスターと戦闘した事もないんですよ?」

 冒険者として、民の剣として、それは余りに情けないと言うか。私が彼のレポートを纏めながら口を尖らせると、彼女は溜め息を吐いて肩を竦め、首まで振りました。

「何が不満なのよ? 単独活動の駆け出し君が、モンスターと戦闘してどれだけの割合で生還できるか、知ってるでしょ?」

「でも、戦闘しないと戦闘経験が得られないじゃないですか。それはつまり、いつまでも戦闘できないのと同じで、冒険者として成長するにも弊害になる訳ですよね」

 だから、戦闘できない彼は冒険者には向いてないんです。多少斥候の才能があったとしても、モンスターと戦闘をしないのなら、冒険者をするより国の諜報部や軍の特殊部隊にでも入った方が安全確実なはずです。

 何を思ったら誰よりも最初に死んでしまう冒険者の専門斥候なんて危険な場所に飛び込むんでしょうか。


 冒険者になった初日から町を飛び出して森に入るなんて、無謀もいい所。生きて帰れただけで、『幸運の女神の加護』に感謝するべきです。危機感知と隠密の才能のおかげ——実力の結果だと本当に思っているのなら、今に死んじゃいますよ。

 私は彼に口を酸っぱくして言ったのですけれど、彼に懲りた様子はありませんでした。

 それは、成人を迎えたばかりの夢見る半人前の姿そのもので、そんな浮かれ気分でやれる程、冒険者の世界は甘くないんです。家庭事情で冒険者になった未成年の子の方が、よっぽど大人な振る舞いです。

 それでも、戦闘訓練には真面目に参加している様ですから、時間と彼の努力次第では、解決される日が来るんでしょうか。

 私は、何が何でも逃げる様にと再三に渡って忠告するくらいしか出来る事はありませんでした。


 そんな彼が冒険者パーティに所属したと聞いたときには、耳を疑いました。

 提出された書類を見せられて、目も疑いました。

 ギルド職員内だけの話ですが、彼が所属したパーティのリーダーは経歴こそ長いもののいつまでもランク2から成長しない、ちょっとした要注意人物です。盗賊が現れるという報を受けても返り討ちにしてやると息巻いて冒険に出かけ、何度も身包みを失っている人でした。

 少し調べてみればその経歴は酷い物で、パーティーリーダーを務めた回数より、そのパーティが全滅した回数の方が多い人です。リーダーを務めていない時でも全滅しているので、どれだけ周りの足を引っ張っているのか、失敗から学べない人なのか、ギルド内評価は殆ど最悪でした。

 パーティ解散の原因も、その殆どが件の人物への不信。訴えられていないのは、具体的な証拠がないというだけです。『危機感知の才能』はどうしたんですか、まったく。


 案の定、そのパーティは1週間も持たずに解散しました。

「新人とリーダーと、どちらかがパーティを裏切って盗賊を呼び込んだ」という噂も冒険者の間で流れる始末。目立たない資質とか、隠密の才能とかはどうしたんですか。なんで私が火消しに奔走しなきゃ行けないんですか、もう。

「とか言いながら、彼が裏切ってないって信じてるんでしょ?」

「……まぁ、大それた裏切りなんて出来る人柄じゃないのは知ってますから、捨て置けませんけど……」

 休憩室で、先輩に揶揄からかわれる身にもなって下さい。


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2018/10/12 衍字修正

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