第28話

 そう言えば、そんな事もあったなと思いながら俺は話しを聞いていた。


「それがきっかけなのか?」


「う、うん・・・・・・そう・・・・・・」


 顔を真っ赤にする由香里。

 少し無神経だっただろうか?

 流石に本人を前にこの質問は答えにくい。


「すまん、無神経だったな」


「だ、大丈夫だよ! だって、私が拓雄君を好きな事は……ほ、本当の事だもん・・・・・・」


「そうか・・・・・・」


「う、うん・・・・・・」


 なんだか気まずくなってしまった。

 何度も告白を受けて来たが、ここまでちゃんと気持ちを聞いたのは始めただった。

 なんだかちゃんと言われると気恥ずかしい。


「今度はどこに行く?」


「え、えっと・・・・・・じゃあ、その・・・・・・雑貨屋に・・・・・・」


「おう」


 俺は由香里の要望通り、雑貨屋に向かった。

 




 あっという間に時間は過ぎ、もう夕方。

 そろそろ帰らなくては行けない。


「そろそろ帰るか」


「あお、そうだね・・・・・・」


 夕焼けの空を眺めながら、俺と由香里は駅まで歩いて向かう。

 ふと、由香里の方を見るとなんだか元気が無い。

 どうかしたのだろうか?


「どうした?」


「え? な、なにがかな?」


「いや、なんか元気ないから・・・・・・楽しく無かったか?」


「う、ううん! 凄く楽しかったよ! だから・・・・・・なんだか帰るのが寂しいなって・・・・・・」


 夕焼けの影響か、由香里の顔をはいつも以上に真っ赤に染まり、少し俯気味だった。


「また一緒にくれば良いだろ?」


「ま、また、一緒に来てくれるの!?」


「あぁ、時間が合えばだがな」


「そ、そっか……ウフフ」


 俺の言葉に由香里は笑みを浮かべる。

 良かったいつも由香里に戻った。

 少し歩き、駅についた俺たちは、切符を買って電車が来るのを待つ。


「まだ日は高いが、気を付けて帰れよ」


「うん、ありがと!」


 由香里は嬉しそうにそう言い、電車に乗って帰って行った。

 送って行こうかと言ったのだが、悪いからと断られてしまった。


「帰るか・・・・・・」


 俺は由香里を見送った後、自分の乗る電車を待った。

 久しぶりに遊んだ気がした。

 最近は色々ありすぎて忙しかったし、遊びになって行く暇が無かった。


「来週はあのお嬢様か・・・・・・」


 俺はそんな事を考えながら、帰りの電車に乗った。





「おかえりなさいませ、拓雄様」


「ただいま、最上さん」


 屋敷に帰ってきた俺を出迎えたのは、メイド服姿の最上さんだった。


「お疲れでしょう、お風呂が沸いておりますので、良ければご入浴下さい」


「ありがとございます、それじゃあ風呂に入って来ます」


 俺は最上さんにそう言い、一度部屋に帰って着替えを持ち、浴場に向かう。

 午後はほとんど歩きだったので、なんだか疲れてしまった。

 脱衣所に着いた俺は、服を脱いで浴室の戸を開ける。


「あぁ~・・・・・なんだか疲れたな・・・・・・」


 歩き回っただからだろうか、いつも以上に風呂が気持ち良く感じる。


「はぁ~・・・・・・」


 湯に浸かり、俺は体の力を抜いて湯に浸かる。

 一日の疲れが抜けていくのを感じていると、突如浴室の扉が開いた。


「お背中………お流しします」


「………お前は何をしている?」


 そこに居たのは、学校専用のスクール水着を着用した早癒だった。

 手にはタオルと石けんを持ち、いつもの感じで話している。


「仕事」


「そうか、なら言っておこう。俺は自分で体を洗える、だからその仕事は必要無い」


「・・・・・・拓雄は……今日出かけて疲れてる」


「あぁ、そうだな」


「だから、私が全部洗ってあげる・・・・・・オーケー?」


「ノーだ馬鹿」


 俺はそう言いながら、早癒を浴室から追い出した。

 早癒は絶対にメイドの仕事を誤解している気がする。

 俺はその後、体を洗って風呂から上がり、着替えを済ませて部屋に戻る。

 するとまたしてもそこには・・・・・・。


「今度はなんだ・・・・・・」


「ん・・・・・・マッサージしてあげる」


「それは別に良い・・・・・・俺が聞きたいのはなんでブルマ姿なんだって事だ」


 うちの学校の体操着は男女共にハーフパンツだ。

 一体どこでそんな物を見つけて来たんだ・・・・・・。


「マッサージもいらん、着替えてこい」


「あ、メイド服の方が良かった?」


「服装の問題じゃねーんだよ・・・・・・」


 俺は早癒を部屋から出し、服を着替えてくるよう言い、一人になったベッドの上で寝転がる。


「はぁ・・・・・・どうしたんだ、一体・・・・・・」


 いつも以上に仕事に積極的な早癒。

 頑張る事は良いことだが、なんだか頑張る方向がズレている気がする。

 そんな事を考えていると、部屋のドアが二回ノックされた。


「はい」


「・・・・・・着替えて来た」


 部屋に来たのは着替えを済ませた早癒だった。

 早癒はメイド服のままベッドに寝転がる俺の脇に来ると、首を傾げて尋ねる。


「マッサージする?」


「着替えて来てからしろって意味じゃねーよ」


「むぅ・・・・・・わがまま」


「そういう事じゃねーだろ・・・・・・」


 俺はため息を吐きながら早癒を見る。

 俺と似て表情の少ない早癒。

 しかし、時々笑ったりするのを俺は知っている。

 折角整った容姿なのだから、もっと笑えば良いと思うのだが・・・・・・。


「何か……することある?」


「いきなりなんだよ……」


「ん……拓雄……最近頑張ってる……」


「まぁな……」


「だから………」


「だから?」


「力になりたい………」


 そういうことか……。

 主人が頑張っているからメイドの早癒も何か手伝いをしたい。

 それで考えたのが、背中を流すこととマッサージだったと言う訳だ。


「そうか……あの格好もただ単に動きやすいと思ったからか?」


「ううん、男の子が好きって聞いたから」


「一度お前にはちゃんとしたメイドさんを見て欲しい」

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