第24話

「……私が小さい時に死んだわ」


「すまん……」


「なんで謝るのよ、別に良いわよ」


 気にしていない様子の姫華だったが、俺も似たような経験があるのでわかる。

 聞かれるだけで、こういう質問はキツい。

 俺は話題を変えようと、何か良い話題が無いかを考える。


「そう言えば、お前って普段は何してるんだ?」


「普段? そうね……勉強して、習い事とかして……夜になって、ご飯食べて……寝る?」


「テレビ見たり、ゲームしたりとか無いのか?」


「そんな暇無いわよ」


「………マジか」


 俺と同い年で、そんな人間いるのだろうか?

 俺ぐらいの年頃なんて、遊びたい盛りだ。

 学校に行き、帰りは友達とカラオケや買い物に行く。

 金が無ければバイトをし、その金を遊びで消費する。

 それが俺たちみたいな高校生の生きがいだと思っていた。

 しかし、俺の目の前のこの少女は、一体何が楽しくて生きているのだろう?


「なぁ……お前って生きてて楽しいか?」


「いきなり何よ?」


「いや、同年代が知ってるような娯楽をお前は知らないんだなって思って……」


「まぁ……学校も行ってないし……将来のためって言われて、勉強とか色々忙しいし……だからアンタと一緒にごはん食べた時は楽しかったな……」


 なんだか聞けば聞くほど可愛そうになってくる。

 金持ちとは言っても良いことばかりじゃないんだな……。

 そんな事を考えていると、高付さんがノックをして部屋に入って来た。


「拓雄様、旦那様と三島様のお話が終わりました」


「あぁ、分かりました。戻ります」


「もっとゆっくりしていけば良いのに………」


「そうもいかん……俺も最近忙しいからな」


「どうかしたの?」


「……三島財閥を継ぐことにした」


「え……」


 俺は帰り際に姫華にその事実を伝えた。


「アンタ……確か一週間前に自分が三島の血族だって知ったって言ってたけど……それって……」


「いや、最初は違かった。俺はただじいちゃんに引き取られただけだった……でも、色々考えて決めたんだ」


「そう……良いの? 私みたいになるかもよ?」


「こう言うことはあんまり言いたく無いけど……じいちゃんはそんな人じゃ無い。だから俺は継ごうと思ったんだ」


 俺はそう姫華に伝え、部屋を後にした。

 俺は高付さんに案内され、祖父の居る部屋に戻る。

 

「三島を継ぐのですか?」


「はい……俺はじいちゃん……祖父に恩を返したいんです」


「そうですか……貴方のような方が許嫁なら……」


「はい?」


「いえ、失言です。なんでもありません」


 俺は高付さんが何を言ったのか聞き取る事が出来づ、聞き返すが教えては貰えなかった。

 一体何を言ったのだろうか?

 俺は祖父と合流し、池﨑の主人に挨拶をして池﨑邸を後にしようとする。


「急にすまなかったのぉ、今度はわしの屋敷に来ると良い」


「はい、是非お伺い致します。それでは……」


「うむ、世話になった」


 俺と祖父は池﨑邸を後にし、車で屋敷に戻る。

 

「どうじゃった? 最後の方に何やら池﨑と話しをしていたようじゃが?」


「来週一日、娘さんを貸して下さいと言いました」


「なぬ!? 早速デートか!」


「まぁ……そうなるんでしょうね」


「やることが早いのぉ……確か明日も出かけると言っておらんかったか?」


「そうですね……だから、今日は帰ってからも勉強です」


「あまり無理はするでないぞ? ゆっくりで良いのじゃ、無理をして体を壊すほうがわしは心配じゃわい」


「大丈夫ですよ。それに最上さんの教え方はわかりやすいので」


「ありがとうございます」


 運転席の最上さんが笑顔で答える。

 跡継ぎになるのは、そう簡単な事では無い。

 それは一応わかっているつもりだ。

 やるからには全力でやらなければ、恩返しにはならない。

 だから俺は頑張ると決めた。






 帰宅後、俺は最上さんと共に勉強を開始。

 明日は丁度最上さんもお休みらしく、丁度良かったらしい。

 

「そう言えば、最上さんと早癒以外のメイドさんて何人居るんですか?」


 勉強の休憩時間、俺はふと気になったので最上さんに尋ねる。


「そうですね、一応12人ほどは居ますよ」


「そんなにですか?」


「えぇ、シフト制で家事や旦那様のサポートをしています」


「でも、最上さんは毎日いつでもメイド服で屋敷に居るような……」


「私の場合は、ここが家でもありますから……家事をやっているのと変わりません」


 笑顔で最上さんはそう言っていたが、まだまだ若いのに遊びたいとかは思わないのだろうか?


「でも、安心して下さい。ちゃんとお休みもいただいていますし、休みの日は映画やショッピングなんかもするんですよ」


「あ、そうなんですか」


 なんだかわからないがちょっと安心した。

 三島家のメイド業はブラックかと思ったが、しっかりしていそうだ。


「早癒は今日は休みですよね?」


「えぇ、部屋でごろごろしてるか、ゲームをしていますね」


「あいつ、友達と遊びとか行かないのかな……」


「じゃあ、誘って上げてください。きっと喜びますから」


「俺よりもクラスの女友達と行った方が楽しいと思いますけど?」


「いえいえ、そんな事はありませんよ」


「大体、そうなったらいつもと変わらないじゃないですか」


「ウフフ、変わるんですよ。仕事とプライベートでは」


 笑いながら言う最上さんの言葉の意味が俺は良くわからなかった。

 まぁでも、早癒とはこれからも長い付き合いになりそうだし、親睦を深める意味でも今度買い物にでも誘ってみよう。





「………早癒」


「何?」


「なぜ俺の部屋に居る?」


「……暇だから」


「だからって俺の部屋に来るな」


「勉強終わったんでしょ?」


「終わったが……」


「なら……良い」


「それを決めるのは俺だ」


 最上さんとの勉強を終えた俺は、部屋で手足を伸ばしてくつろいでいた。

 そんなリラックスしていた時に、突然私服姿の早癒が俺の部屋にやってきて、スマホでゲームを始めた。


「あ、やった……ウルトラレア」


「お前……男の部屋でリラックスしすぎだぞ……」


「ん……私は良い」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る