第6話

 全く今日はなんて日だ。

 突然祖父が現れたと思ったら、今度は謎のお嬢様を拾い。

 挙げ句の果てには約束をすっぽかしてしまった。


「はぁ……はぁ……ついたか」


 夏も近づいているため、まだ辺りはそこまで暗くないが、日は落ち始めていた。

 俺は急いで三階の空き教室に向かった。


「悪い……はぁ……遅れた」


「遅い! 何してたの!」


「飯を食って家に着いたところだった」


「なにをしてるのよ……まぁ、色々考え事をしてたのかもしれないけど……」


 教室には葵と今朝手紙をくれた女の子が居た。

 葵はそうと怒っており、眉間にシワを寄せながら俺に説教を始めた。


「あ、あの……わ、私は気にしてないから……」


「ダメよ! こういうことはしっかりしないと! 由香里ちゃんはずっと待ってたんだから!」


 ラブレターをくれた相手の名前は美川由香里(みかわゆかり)と言う女子生徒で、同じクラスだった。

 一年生の時は別なクラスだったので、あまり詳しいことは知らないが、容姿は結構可愛い子だと思う。


「本当にすまない。今からでも良ければ話しを聞くが?」


「聞くも何も、内容はわかってるでしょ? こんな状況でそんな事言われてアンタ断れるの?」


「こ、断られるの前提なんだ……」


「まぁ、そうだが」


「そうなんだ……」


「ほら! 荒山君が酷い事言うから!」


「結構葵ちゃんも酷いと思うけど……」


 しょんぼりしてしまった由香里。

 俺はどうしたらいいのだろうか?

 正直付き合う気なんてさらさらなかった。

 しかし、約束をすっぽかしてしまったので、正直断りずらい。

 本当に今日は色々な事がありすぎだ。


「それじゃあ……あの……お友達からっていうのも……ダメ?」


「それはどう言う意味だ?」


 言い出したのは由香里自身だった。

 

「だって……わ、私だって簡単に諦めたくないもん……だ、だから……最初は友達からじゃダメかな?」


 俺は由香里の提案に頭を悩ませていた。

 友達になって俺は彼女と何をすれば良い?

 仲を深めて、ゆくゆくは付き合えば良いのだろうか?

 まぁ、確かにお互いを良くしれば、互いに気持ちも変わってくるだろうが……。


「まさか、断る気?」


「葵、俺が言うのもなんだが、これは俺と由香里の問題だ。あまり葵が……」


「何言ってるのよ! 三時間も由香里ちゃん待たせた癖に友達にもなれないなんて、アンタどんだけSなのよ!」


「いや、だから……」


「良いからさっさと連絡先を交換する! アンタは友達少ないんだから、なってくれる人とはなっておきなさい!」


「母親かよ……」


 結局葵に半ば強引に連絡先を交換させられ、俺と由香里はお友達から関係を始めることになってしまった。


「あ、あの……電話とかしても……良い?」


「かまわないが、出来るだけ夜にしてくれ、バイトもしてるからでれない場合もある」


「う、うん!」


 嬉しそうに笑う由香里。

 俺と電話出来るだけでそこまで喜ぶ必要があるだろうか?

 これでこの件は一段落だが、俺にはまだ解決しなければいけない問題が残っていた。


「すまんが、俺はもう帰るぞ」


「折角だから一緒に帰りましょうよ? そろそろ和毅も来るから」


「悪い、急ぐんだ。それじゃあ」


「あ! ちょっと!!」


 俺は葵にそう言って直ぐさま家に向かって走り始めた。

 早く帰らなければ、俺の部屋が大変な事になる気がした。

 俺はダッシュで家に向かい始めた。





「おいおい……まじかよ」


 俺は自宅のドアの前に居た。

 しかし、いつも俺を迎えてくれるドアは無残にもはずされ、玄関は凄く風通しが良くなっていた。

 そして部屋の中には、先ほどの執事が黒服の男数人と部屋の中に入り、姫華を説得していた。


「おい……人の家で何をしてんだよ」


「お、お前は!! 貴様! お嬢様を部屋に連れ込んで何をするつもりだった!」


「何もする気はないです。良いからさっさとそこの我が儘お嬢様を連れて帰ってくれ………お前らのせいで俺は大家に謝らなきゃいけないんだよ」


 一人暮らしの俺に何かと優しくしてくれた、大家のおばちゃんごめんなさい。

 ドアの修理費の事を考えながら、俺は執事と黒服に外に出るように言う。


「ほら、もう迎えもきたろ? 帰れよ」


「嫌よ!」


「お前なぁ……頼むから帰ってくれ……迷惑なんだよ」


「アンタに何がわかるのよ!」


「わかんねーから言ってんだよ」


「う………」


「俺はなぁ……朝から色々あって疲れてんだよ………それなのに、玄関のドアはぶち破られて、部屋の中はメチャクチャ……はぁ……頼むから帰れ」


 俺は無表情のまま肩を落として掃除を始める。

 怒っても何も解決しない。

 怒る暇があったら、俺は手を動かす。

 散らばった本を本棚に片付け、俺は姫華に言う。


「家族が心配してるだけいいじゃねーか……俺は心配してくれる家族もいないんだよ……」


 割れてしまった両親の写真を見ながら、俺は姫華に言う。

 姫華も少し反省したのか、どこか申し訳なさそうな表情だった。


「……わかったわよ」


「お、お嬢様! それでは早速お車を!」


「うん………」


 俺は姫華に背を向けて割れた写真をセロテープで直し始める。

 怒っても仕方が無い、怒りをぶつけても解決しない。

 それがわかっているから、俺は無表情のままなのだ。

 俺が写真を直していると、またしても玄関先が慌ただしくなり始めた。


「これは……何があったんじゃ?」


「あ、貴方は!! み、三島財閥の!!」


「え……」


 執事の老人が驚いた表情で外の人物の顔を見ていた。

 俺は執事の老人の言葉に反応し、玄関先に出て行った。

 そこには眉間にシワを寄せ、杖をついて不機嫌そうにしている俺の祖父が居た。


「おぬしは……確か池﨑のとこの執事長か……一体どう言うつもりじゃ? わしの孫の部屋に随分手荒なまねをして侵入したようじゃな?」


「こ、この男が……総帥の孫!?」


「拓雄君、大丈夫か?」


「あ、はい……でも、なぜここに?」


「ほっほっほ。やはり心配での……こやつらに交代で見晴らせておったんじゃ……皆、やり過ぎだと言っていたが、正解だったようじゃな」


 祖父は俺の顔を見ると笑顔になり、心配そうに俺を見る。

 そして、厳しい顔で姫華のところの執事を見ると厳しい口調で話し始める。


「池﨑の執事と娘よ……これはどう言うことじゃ? 部屋の中もメチャクチャでドアも壊されておる……」


 その言葉に、祖父が連れて来た黒服の三人が反応していたが、そっとしておこう。

 まぁ、確かにこの人達もぶち破ろうとしてたもんな……。


「も、申し訳ありません! ま、まさか三島様のご子息とは知らず!! 大変な失礼を!」


「言い訳などよいわ! 何故こうなったのかとわしは問うているのじゃ!」


「それに関しては私がお話致します」


「む……池﨑の娘か……」


「姫華」


 そう言って祖父の前に出たのは、姫華だった。

 先ほどとは違い、凜とした表情で祖父の目を見て事の経緯を話し始めた。


「……と言う訳で、私は貴方のお孫さんの好意に甘えた結果、私を心配した執事の洋司(ようじ)さんが強行手段に出てしまったのです。大変なご迷惑をおかけし、心よりお詫び申し上げます」


「そうじゃったのか……すると拓雄君は恩を仇で返されたと言う訳じゃな?」


「まぁ、聞こえはそうですけど……」


「そうか……なら池﨑との取引は無かった事に……」


「そ、それだけはご勘弁を!」


 慌てて頭を下げる姫華の執事の洋司さん。

 恐らくだが、池﨑と言うのは姫華の名字なのだろう。

 姫華がお嬢様ということは、親は社長か何かなのだろう。

 つまり、俺の祖父と姫華の親父はビジネス的な繋がりがり、その関係に今ひびが入ったと言うことなのだろう。


「あの、じいちゃん待ってくれ」


「じ、じいちゃん!?」


「あ……すいません、慣れ慣れしすぎましたか?」


「じいちゃん……わしがじいちゃん………はぁ~……」


「た、大変だ!」


「総帥が嬉しすぎて倒れた!」


「まずい! 喜びで昇天しそうだぞ!!」


「だ、誰か! 救急車を!!」


 俺がじいちゃんと思わず言ってしまった事が、祖父には相当嬉しかったことのようで、そのまま倒れてしまった。

 ホントに色々ある一日だな……。

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