第31話 ロープ工場――廃墟。

31 ロープ工場――廃墟。


 アサヤはロープ工場跡地の廃墟にきていた。長期間放置されたままなので、機械類はすっかり赤さびていた。ここにはV男の潜んでいる気配はない。ところどころ破れた屋根から直射日光が差し込んでいる。

 ここの工場長はむかし自殺していた。それも、ロープで首を括って――。とんでもないことにアサヤは気づいた。アサヤはミイマにあわてて連絡した。何年前だったろう。ともかく検索してくれ。

 死可沼。首つり自殺。で、載っているはずだ。

「すぐ帰る」

 ミイマが玄関で待っていた。


「死可沼は意外と自殺者がおおいのね」

 ミイマがA4版の用紙に印刷したレジメを渡してよこす。検索した事例がビッシリト印字されていた。ミイマがアサヤと肩を並べる。


「ニオイがすごくきつい」

「それに埃っぽいだろう。空家を何軒も探ってきたからな。ああいうところは、土地も腐っている。ロープ工場の跡は、廃墟だった。凄まじかった。悪魔が暴れたような荒れかただった。具体的には、ホームレス、ヤンキー、犯罪者、半グレが時折入りこんでいる痕跡があった。でもキララの連れこまれたようすはなかった」

「キララちゃん。ブジだといいわね」

「これだけ、みんなで、街の隅から隅まで探し歩いているのだ」

「どこに、消えたのかしら」

「はやく、しないと、命があぶない」

「そうね、この瞬間だって」

「不吉なこと、いうな」


 唐突にビジョンがきた。追いつめられたからだ。それでビジョンが見えたのだ。もうキララを探す術がない。これ以上どこを探せばいいというのだ。追いつめられた絶望、危機感がシェクス・センスのビジョンを開示した。


 苦悶にゆがんだキララの顔。


 ロープ。

 廃屋。

 廃墟。

 空家。


 ロープで首吊り自殺したというロープ工場の経営者で工場長。中年男の憔悴しきった顔だ。ミホの無残な死体。恐怖にひきつった顔。少女の無残な姿。

 ロープで吊るされていた。ゆれている。吊るされて、ゆれている。

 いくつものビジョンが重なり合い、凄まじいスピードでいれかわる。

 廃墟。がらんとした何もない空間。

 来た、来た、来た。

 学校だ――。学校は――生徒がいないと廃墟も同然だ。

 がらんとした廃墟も同然だ。

 その体育館。

 生徒たちの汗の臭いがのこっている。

 感じられる。嗅覚が刺激される。

 体育館の地下室にある物置。

 そして各体育部の部室が並んでいる。


『バスケ部の部室を整頓してから帰る』


 そうミホからキララはラインをもらった。責任感の強いキララだ。キララはバスケ部室になにか手がかりを探そうとしているのかもしれない。


 バスケ部室だ――いた。マヤはシェクスセンスを発動できたことを感謝した。

 キララだ。キララがだれかに追いかけられている。

 イメージはぶれているが、まちがいなくキララだ。


 アサヤは心配そうに立ちすくんでいるミイマに指令。

 

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