第4話 勇羅side



「兄ちゃんの秘密を捜すからって、雪彦先輩も万里先輩も街の中暴れすぎ…」


「あはははは…」

「いやはや。身内の噂と言うもんは、しらみつぶしに散策しないと中々に集めにくいもんなのだよ」


あの後三人は一旦学園正門前で解散。勇羅は自宅へ帰宅し、部屋へ戻って速攻私服へ着替え直した後。待ち合わせの駅前で雪彦達に合流すると、三人は何処にそんな体力があるのかと、言わんばかりにとにかく街中を走り回った。勿論探偵部時代の和真の噂を集めるため。


いざ周りから情報を集めようとするのはいいが、さすがにここからは手探りでの情報収集になる為、以前泪から予め聞いた、和真が学園外で基本行動範囲にしていた、神在駅前商店街周辺で声掛けを慣行する事にした。


雪彦は相変わらずのノリで女性にばかり声を掛け、スキンシップを掛けようとしては相手から反射的に無慈悲なビンタを貰う。雪彦自身も容姿が良い為、時に相手の方から声を掛けられる事も少なく無かったが、その度彼の相方とも言うべき万里が横槍を入れ、彼女の電波な発言に声を掛けた女性は当然ドン引きし、雪彦に遠回しな断りを入れそそくさと逃げていった。


「和真兄ちゃんが姉ちゃん一筋なの雪彦先輩も知ってるじゃん」

「そうでしたね…」


和真と勇羅の姉・砂織の仲の良さは、過去学園内でも噂になっていて、二人の関係は姉や泪だけでなく和真本人からも何度か聞いていた。雪彦も以前砂織にちょっかいを出し数回両者に殴られた程。泪や砂織。雪彦を含め周りの話だと、和真は『黙ってさえいれば』女子にモテていたが、友人だけでなく教師ですら、腰を抜かすレベルで突拍子もない行動をする事から、友人として付き合えても異性としては意識されていなかったらしい。


「泪さんも知らない事あるみたいだし、兄ちゃんなかなか尻尾見せないよなぁ」

「まぁ大企業の跡取りってこう言うもんだよ。取引の競争相手に隙を見せたら、あっという間に尻尾を掴まれるからね」

「きっと和真兄ちゃんにとって、今が大変な時期何だろうな」


中性的で整った外見と中身のブッ飛んだ性格から想像もつかないが、雪彦も国内有数の大企業。皇コーポレーションの跡取り息子だ。和真も現在は親族の会社を継ぐ為に、支社で跡取りの猛勉強中と聞いている。それはいずれ雪彦自身にも降りかかって来るのだから、和真の立場は笑い事ではないのだろう。生まれ育ちの環境から、女子生徒にとって和真が近寄りがたいのも、異性として見られていない理由の一つになるのかもしれない。



「どうする? 今日はどう足掻いても収穫ないし帰る?」

「賛成。情報収集は明日に回して、学校内で再調査するしかない。男の秘密は更なる重要機密レベルと見た」


「そうするしかな……ぶっっっ!!!」



突然地面へとうつ伏せの格好で豪快に突っ伏した雪彦。


何故か身体が地面に何かしらの力に引き寄せられ、更には全身が金縛りにでもあっているのか、立つ事はおろか身体を動かす事も出来ないらしく、雪彦は突っ伏したまま身動きが取れない。



「せ、先輩っ!? 一体何がっ」

「雪彦。周りの女達に見捨てられた腹いせに、遂に地面への欲情へ走ってしまったか」


「ばっ、万里いいいいぃぃぃ……っ!!!」



地の底から這い上がるかのごとき声を出し、辛うじて頭だけは上げられた雪彦は万里を睨み付ける。



「これは…ま、まさか」

「わわわっ! あ、あ、あ、あの……ごめんなさい!!」


「うわっっ!? た、立てた…ぁ」



原因不明の力の拘束から解放された雪彦はようやく立ち上がる事が出来た。だがいきなり立ち上がった反動で、雪彦は再び地面へ転びそうになる。



「ほ、本当にごめんなさい。だ…大丈夫ですか?」



啞然とする勇羅達の背後から人影が表れ、誰かが勇羅達に掛けて来る。声からして女性、相手の無事を確認しているかの反応、さっきまで地面に突っ伏していた雪彦に、何かしらの力を使った犯人なのは間違いない。

勇羅達は声を掛けて来た女性の方へと振り返る、相手が女性なのか雪彦の表情は、万里を睨みつけていた怒気迫る顔から、一瞬にしてヘラりと気の抜けたものになっていた。



「平気へーき、大丈夫ですよぉ~。でも、こんな場所で何をやってたの」


「え、えと。それはー……魔法の練習です!!」

「「「………はい?」」」


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