ニム=シュターゼン調子に乗る。そして……


 目の前には複数の不気味なモンスター:ローパーがいて、ミミズのように蠢く触手を気持ち悪くわななかせている。

既に俺の長く伸びた爪で切り裂かれた触手はすっかり再生していた。


(結構、切断力あるな)


 視界の隅に意識を集める。

そうするとたくさんの文字が浮かび上がった。



★あなたの情報


【名称】:サマランダー(*コミュニケーション形態)

【種族】:リザードマン

【属性】:火

●属性スキル:炎の吐息、熱耐性

●物理スキル:切り裂く

●特殊スキル:魂の捕食、火属性強化

●エクストラスキル:ソウルリンク、形態変化(フォームチェンジ)

 FP:1



”ひっかく”が”切り裂く”へ変化していた。

 しかし遠距離攻撃である火属性魔法が消えていて、”炎の吐息”のみになっている。


(なるほど、体長が大きく変化したから、近接戦が可能になったのか。代わりに遠距離は無しと。そう都合よくは行かない使用なんだな)


「しゅるわぁ~!」


 たぶん無視されたのが不愉快だっただろうローパーの触手がウネウネと俺へ向かってきた。


「てやぁっ!」


 するとニムが飛び出し、真っ赤に輝く逆手に持ったダガーを振り上げる。

ローパーの触手が溶断された。


「きやあぁぁぁ~!」


そればかりか炎が伝播して、ローパーの本体を焼き尽くす。


「へっ……? なにこれ!?」


 当の二ムは驚き、俺の視界では”火属性強化”の文字が明滅していた。


「俺のバフスキル:火属性強化の影響だよ」

「ええっ!? なんですかそれ!?」

「なんだ、って言われても、そうとしかいえなんだよなぁ、あはは。とりあえず他の火属性の魔法とか覚えてたら撃ってみてよ」


 半信半疑と云った具合にニムは腕に炎を纏わせた。


「ファイヤダート!」


 炎の針が放たれ、同時に複数のローパーが触手を伸ばす。

 触手は鋭く飛ぶダーツのような炎に弾かれ、そのまままっすぐと進み、ローパーの目へ突き刺さった。


「きやあぁぁぁ~!」


 瞬間、ローパーは真っ赤な炎に巻かれて、こてりと倒れる。


(火属性強化前は相手を怯ませる程度の威力だったけど、延焼させるまで強化されるだなんて。このスキルって結構凄くね?)


 そんな感想を抱いた俺の隣で、ニムはにんまり笑みを浮かべていた。

彼女は逆手に持ったダガーを構え、腰を沈めて戦闘態勢を取る。



「サラマンドラさん、助けて頂いた御礼です! ここは私にお任せください!」

「あ、ちょっと!?」

「てやぁー!」


 俺の言葉などまるで聞かず、ニムは突出した。


「てやぁ!」

「きやあぁぁぁ~!」

「そりゃ!」

「きやあぁぁぁ~!」

「それそれそーれ!」

「きやあぁぁぁ~!」


 ニムのダガーが薄暗い谷底へ真っ赤な斬撃の跡を刻み、ローパーの触手が次々と宙を舞う。


「凄い、凄い、すごーい! あっははは! よらば切り伏せるぞ! なーっはは!」


 ニムは完全い調子に乗っていた。それでもきちんと修練を積んでいるであろう彼女は、的確にローパーの攻撃をかわしたり、弾いたりはしている。


 ニムは勢いのままガンガンローパーを千切っては投げ続けている。

そんなニムとの距離に俺は注意しつつ、俺もローパーを爪で切り裂いていた。


(リザードマンだと火属性強化の範囲は3メートル以内にまで伸びてるのかな? だったら気を付けな……ッ!?)


 振り上げた爪にローパーの触手が巻き付いてきた。

意外と力のあるローパーは俺をその場で立ち止まらせる。


「まて、ニム! こっちへ!」

「てやぁー!」


 俺の声などまるで聞こえていないのか、ニムは飛び、3メートルの範囲から飛び出してしまった。

彼女の打が居は触手を両断。だが延焼の炎は発生せず、ローパー本体は炎に包まれず。


「あれ……?」

「ふしゅるー!」

「きゃっ!?」


 きょとんとしていたニムへローパーは触手を飛ばした。

ミミズのようにうねそれは、ニムのスラっとしたした手足に、キュっと絞られたウエストに絡みついた。

触手が胸元でギュッと締まれば、少々薄いニムの胸が否応なしにも強調される。


「は、はなせ……むぐっ、んんっ……!」


 黙れと言わんばかりにローパーは、触手の先端をニムの口の中へ押し込んだ。

おそらく初めて、口へ無理やり何かを挿入されただろうニムは、目に涙を浮かべていた。

息苦しいのか僅かの頬が赤い。


 そんな彼女の様子が楽しいのか、ローパーはニムを引き寄せ、絡みつけた触手を動かす。

しっとり濡れて、ヌメヌメしている触手が艶めかしくニムの身体の上を這う。


「んぐ! んっ! ふゃめぇ……!」

「しゅるわぁ~」

「んぐっ! んっ! あ、くっ……!」

「しゅるわぁ~!」

「んーッ! んーっ! んんんっ!」

「しゅるわぁっ~!!」


 小刻みに身体を震わせて身をよじるニムの様子が楽しいのか、ローパーの触手は這って、滑り、わななく。



(おお、これぞ有名な”触手と女騎士!&粘液べとべと!” まさかリアルに拝める日が来るだなんて!)


 と、思いつつもニムの危機。鎧も、衣装も粘液みたいのでべたべたにされて、かなり可哀そうなことになってしまっていた。


(ローパーにもっと変なことをされる前に助けないと!)


「GAAAAA!!」


 俺はは吠え、切り裂くでもう片方の腕を拘束していたローパーの触手を両断した。

ピンと張り詰めた触手が切り裂かれローパーがぐらっと傾く。

そんなローパーへ向けて俺は”炎の吐息”を吹きかけた。


「しゅるわぁ~!?」


 噴出された炎がローパーを包み込み、怯ませる。

しかし悲鳴は上げているが、燃え尽きる様子は無かった。

明らかに”トカゲ形態”の時よりも威力が低かった。


(なんとなくそうだとは思ってたけど、ここまで威力がないとはね!)


 炎で焼き尽くすのは諦め、一気に距離を詰めて、再び長く伸ばした爪を振り落とす。

”切り裂く”のスキルが発動して、ローパーの本体は真っ二つの両断された。

そうして燃え盛るローパーの炎を一口ぱくり。


 パク、もぐもぐ、きゅきゅっ……


 滑らかな舌触りと、しこしことした歯ごたえ。

香ばしい香りが鼻をくすぐり、食欲を増進させる。


(おう! これはイカ焼きだ! 醤油とバターが欲しいな!)


 そんな中、視界に「形態変化(フォームチェンジ)」の文字が明滅していた。

そこへ意識を集中させると、沢山の文字が浮かび上がる。



*説明:FP2消費して、形態変化を行います。



(形態変化ってそういうことか! だったら!)


 なんとなくリザードマン形態のことが理解できた俺は、地面を蹴って、未だにニムをぬるぬると弄ぶローパーへ向かって地面を蹴った。


「ふぇえぇ……もう、いやぁ~……た、助けて……んぐっ!?」

「ニム、今助けるぞ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る