短編集

あいざわひかる

夏の大気

 せみの鳴き声、

 澄んだ空、気温34度。 

 せみが増えるとうるさいけど、今年は少ない。

 ホログラム・テレビの音声もちゃんと聞こえる。

 その映像。

『レジスタンスのロボットを撃墜することに成功しました。

 これにより通行止めを解除される地域は……』

 海面に叩きつけられる細い紺色のロボット、

 戦闘機、ヘリなどであればそのまま分解しておしまいだが、

 改造された巨大ロボットともなれば海底まで沈み、

 持っている機能によっては秘密基地まで逃げてしまう。

 ニュースを見ると、やっぱり争いは続く。

 レジスタンス、完成した体制に戦いを挑むおろかな人たち。

 しかし全体としては平和な星、地球。少年には関係ないことだ。

「でもすごい、近所だ。

 いろんな人が居るなぁ。せっかく平和なのに……」

 檜山ジン、小学4年生。

『そうですね、ジン』

「ふぁ。遊びに行ってくるよ」

 お世話ロボットの端末から、続けて声。

『端末を持って行ってください』

「えー。重いからいいよ。行ってきます」

『テレビをオフ。気をつけて行ってらっしゃい』

「うん。……」

古い日本家屋から出てくるジン。周りは草生(む)し日差しは暑い。

 家の外に出ると、日陰に少年が居た。

 もう一人、少女が来て、

「ジンくん!」

 と呼ぶ女の子は白木レミィ、

 白いワンピース。日差しのせいで下着が透けている。

 右手に持ったビニールの袋に水着と花火を入れている。

 日陰の少年は狭霧ハルト。短パン。ジンと同じ。

 3人とも友達だ。

「ハルト。レミィ」

「ジンくん、こんにちは」

「こんにちは。行こうと思ってたんだ。

 来てくれたんだ」

 笑うレミィ、ハルトは日陰から出てジンに抱きつき、

「おう。ともだちだろーっ!」

「うん。……汗付く、お菓子屋に行こうよ」

 めちゃくちゃ暑い~、うぎゃ~、

 など声を出しあって菓子屋まで歩く3人。

 10分くらいで到着。

 爆弾砂糖菓子、と看板がある。

「おーい、誰かいないのぉ」

「……いらっしゃい」

 水浸しの少女、16歳くらい。魔女のような帽子、マント。

 菓子屋の店員だ。コスプレ、している。

「泳いでたのかぁ、僕らも川行く」

「水泳でしたね。海底から……」

「みずびたしじゃん」

「水着持ってないの?」

「ええ。……ベアトリスも悲鳴でした……。

 お菓子なら、好きなのを選んで。

 今日は、ひとつだけならただです」

「イエェーイ!」

「ありがとう」

「いいえ……。さ、早く帰ってください」

「あんがと。

 嫁にしてやっていいぞーっ! 一応金おいとく」

 と二十円、ポケットから。受け取って、

「ええ、ハルト」と微笑む。

 ソーダアイス、チョコアイス、すき焼き(二十円)をもらって出てくる3人。

 チョコアイスをまずは片方開けて食べながらレミィ。

「帰ってだって。イフロム、へんなの」

 イフロム、店員の名前。

「えーっ、どこが」

「だって……」

「ただでくれたじゃないか」ソーダアイスを開けるジン。

「俺は払った。あー、レミィ、嫉妬すんなよ」

「あぁ、そんなこと言った! ハルトのバカ」

 道の脇はヒマワリだらけ、白い乗用車が一台通る。

 3人の近くで止まり、顔を出す男。教師の坂東大悟。

「お前ら! あまり遠くへ行くなよ。

 レジスタンスが潜んでるかもしれん。ははは」

「坂東先生」

「坂東、おっさんだからなぁ~。熱で倒れるなよ」

「ハルト、おじさんではない。先生だろ。

 川に行くなら、泳ぐ前に準備運動をしろ」

「おっさん。おっさーん」

「おじさんの先生よね」

「レミィ。お前までとはな。気をつけていけ!」

「はーい」

「先生、じゃあ」

 坂東の車は、子供の手前という感じで、

 やけに安全運転で去っていった。

 子供たちが目をはなす、するとしばらく進んだ先で、

 白い乗用車はロボットに変形して空へ飛んだ。

小型ながらブラックホール砲を内蔵しているレジスタンスのロボット。

 レーダーに映らず、作戦を遂行する。しかし少年たちには関係ないことだ。

ストリーミング放送で、世界がどうなっているか配信されるとき、

 ときおりレジスタンスの姿が映し出される。彼もだ。


3人は森に入って15分歩き、砂利を歩いて川に。

 今日は流れはそこそこに温度も高め、とっても入りやすい。

「水着忘れた~」

「だー」

「着替えてくるね!」

レミィはおしゃれな水着を持ってきている。岩陰で服を脱ぎ始めた。

 ジンは水着を忘れ、機械類は何も持っていないし短パンで泳ぐことにし、

 ハルトはその辺で脱ぎだした。学校指定の水着。

 そして、準備体操もそこそこ、静かに水に入り泳ぎだす。

 気分にぴったりの冷たさ。川は自然の造形で深さは一定せず。

 流れに逆らってみたり、そってみたりする3人、深めのところがあり楽しい。

深めのところではメダカだけでなく、太い川魚たちが人の気配を感じて隠れていく。

自然の岩は灰色と青が混ざり、水につかった底のほうはコケになっている。

 一時間くらい泳いでいると、

 曇り空、いや雨が降ってきた。

 3人とも上がってきて、着替えだす。雨を避けて一ヶ所で着替えた。

「雨かぁ」

「もう帰ろっか」

「そうだなー」

 雨になってしまって外で遊べない。

 森から出ると、雨の中、白い車が止まっていた。

 その窓が開いて、

「お前ら、もう帰るか?」

「先生」

 どうやら3人のために来て、降りようとしていた感じ。

「雨だろ。心配になってな! 見に来てやったんだ」

 車から顔を出して言う。けっこう無表情で精悍な顔だ。

「用事じゃなかったの?」

「済んだよ。三機ぐらい……。今日はな。送ってやろうか」

「じゃー、俺んちまで。ゲームして遊ぶんだ」

「そうか。乗れ」

 ドシューッ、と後ろのドアが開く。

「ハイテクじゃんか」

「おじさんなのにね」

「フン、許してやる。お前らはガキだからな。早く乗れ」

 29歳、坂東先生は子供に向かって言い返す。

 そのときは口が悪い、が、誰もそれを気にしない。一種の交流だ。

 車の中は黒って感じの色づかい。

 広く感じて伸びをするジンとハルト。

 レミィも真似。

 ミラーで見て先生は一言、

「シートベルト」

 3人はもじもじと付け始める。

「泳げたか?」

「ちょっとは」

「よかったな」

「うん……」

 泳ぎの疲れもあって3人は少し静かに。

 雨の中、車は道を進んでいく。

ビ、ビ、と音。

「はい。坂東」

『元気かニャ』

「まぁまぁだ。ちょっと今だめだ。あとでな」

『はーいニャ』

「坂東先生、メイドカフェ行ってるの。

 猫カフェかな」

「にゃー、だって。ハルト」

「やばいぜ、ヘンタイだぜ」

「ちがう。仲……あー、そういうほら、

 んん……猫……いや、何かそういうやつとかの……クッ!」

「だっせぇ、でも坂東の言い訳はじめて聞いたな」

「クスクス」

「黙れ。そうだ、友達。友達だ。そういう奴なんだ」

「猫カフェ」

「ねぇ、それって意味、合ってる?」

「ヘンタイだぜ」

「次言ったら、その辺で下ろすからな!」

 雨、雨……。七分ほどたって、

 ハルトの家に着くと、雨がやんでいた。

「着いた。降りろ」

 虹が出ている。

 でもゲームと決まってるし、どうせ湿った外もつまらない。

「先生ありがとう」

「おう」

 しまる車の窓。晴れてきた空から光りを受け、走り去る白い車。


 ハルトの家、その子供部屋。

「何のゲームする?」

「ウィー」

 ハルトはゲーム機を引っ張り出して設置、準備している。

「ファルコン使おう」

「アイク、アイク」

「あ、待って、後で花火しない?」

 ビニール袋をごそごそ、レミィの足が上がる。

「レミィ。見えてる」

 ハルトの言葉に足を下ろして、

「……最悪」にらむ。

「わー、ウソ、ウソ! いや、ほんとだった」

「もう」

 ジンは花火の内容を確かめながら、

「ライターないかな」

「えっと……」

 レミィは持ってきていなかったので困ったように首をかしげた。

「ハルトの家で借りれないの」

「そっか」

 お世話ロボットが入ってくる。

『2人ともよく来ましたね。スイカを切りました』

 スイカをもらい、レミィがお礼する。

「ありがとうございます、イドムドス」

 世界中で流行している、お世話ロボットの名、だいたいこれ。

 このモデルは、人と機械の中間みたいな外観と性能を持つ。

「ねえ、ライターありませんか?」

 外は湿ってつまらない、けど、

 花火があればちょっと変わる。

『あとでお持ちしましょうね。

 ジン、あなたのイドムドスが心配してます。連絡しますね』

「ありがとう。ママ、大丈夫って言っておいてほしいです」

『ええ』

スイカを食べてゲームして、

 2時間ほど眠り、

 ライターを借りて外に出たとき、

 大きな花火が上がった。

 スピーカーから、

『今日は花火大会です。

 お友達をお誘いの上で見に来てください』

「花火、どうしよう」

「でかいのやるのか。

 じゃ、これは俺んちに置いとく。レミィ、いい?」

「うん。いいよ」

 小さな花火セットは今度することになった。

 ここは川だけでなく海もある。

 途中からも空に咲いていたが、

 海岸に行ってみると、人が集まって、

 どん、どん、と、

 大気が共鳴するような大きな花火が上がっている。

 ボババ、どーん、と上空に花火、

 赤とオレンジ、混じって。

 人ごみの中に入らず、外側から花火をみる3人。

「こんなに人居たんだね」

「そーだなー……うおっ」

 ハルトは後ろから綺麗な手に目隠しされる。

「だーれだ?」

「イフロム」

 微笑む顔、

「あたりです」

 軽く手を外すイフロム、ハルトはその手をのける。

 レミィはハルトを抱きしめ、イフロムから離そうとする。

 ジンはそれを見て笑っている。

夏の大気があたり中を包んでいる。

 いつまでもこの時間が続く気がする。

 人がどうしようと、どうあれ自然はいつまでも残る。

 戦いがあれば戦いを、文明があれば文明を、自然が包んでいる。

 人の作った物はそれを彩っている。

 また大きな花火があがり、みんなを照らしている。

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