第3話 ドラゴンの階級

 おれは今、空を飛んでいる。空は平和だ。

 下と違って。


「誰か!助けてくれ」


 村の方から聞こえてくる悲鳴は、上空で飛んでいるおれにも聞こえてくるほどだ。


 〈ザッ!〉

 村人を刃物で刺す音まで聞こえてくる。


「人間側にも兵士みたいなやつはいないのかよ」

「兵士?あいつらは、前線より後ろで守備をしてるから守ってくれないよ」


 クスクスと笑いながら答える。


「なんだよ、それ…」


 改めて村の方を見ると、魔人なるものを確認した。


 村を襲っている魔人は、見たこともないような異形の姿をしている。

 大きさは、人間より一回り大きい程度だが、頭が獣であり大きな爪を持つ。


 そして、行なっている行為は決して許されるものではない。

 金品を略奪し、村人を追いかけて串刺しにしている。


 そんな中、おれは森の中に逃げようとしている村娘を見つけた。

 しかし、村娘だけを見つけたわけではない。複数の魔人が娘を追いかけている。



「アイツ、オレノ、オモチャニスル」

「誰か… 助けて…」


 泣きながら走っている娘は、今にも捕まりそうだ。

 それを見るとまっすぐにその方向へと向かった。

 風を切り裂き、地面へと突き進む。


 〈ドッ!〉

 ちょうど村娘の前に降り立つことが出来た。


(救世主様の登場だぞ。喜べ娘よ)


 だが、大切なことを忘れていた。おれが人外であることを。


 〈ガタッ〉

 突然のドラゴンの出現に、村娘は膝から崩れ落ちて体を震わせている。


「お父様、お母様ごめんなさい。もう逃げ切れません」


 手を合わせて、何か祈っているようだ。閉じた目からは涙が溢れ出ている。

 人間を喰らいに来たとでも思い込んでいるようだ。


 一方で魔人の方はというとあまり動揺していない。


「ドラゴン‥ ハヤク、ムスメ、ツレテク」


 足を止めずに、むしろ加速している。

 元々、魔人を殺すつもりはなかったが村娘を守るためには仕方ない。

 翼を折りたたんで、後ろに重心を傾けて溜めを作る。


 そして、一気に前のめりになる。

 〈ゴォォォォォ!〉

 口から火を吹いて、魔人共を消し炭にしてやった。


 魔人が消し炭になっていく様を見ていた村娘は、地面に頭をつけてブツブツと小言を唱えている。


「助けてください… ごめんなさい」

 ますます怯えてしまったようだ。


「いや、おれ救世主だから」

 あまりにも怯えているようなので、言葉で説明を試みる。


「え… ドラゴンが喋ってる」


 〈バタッ〉

 娘は頭がパンクしたせいで倒れてしまった。


「おい。レッド、その子見ててくれないか」

「いいぞ」


 頭から勢いよく飛び降り、手当てをしてくれている。娘の看護を受け入れてくれたようだ。


「おれは、村を救うか」


 村の中心部に向かうと、村人が中心に集められて魔人達に一人ずつ殺されようとしていた。


 火を吹こうと思ったが、村人の周りを魔人が囲んでいるため、照準を合わせるのが難しい。


「恥ずかしいけど、あれするか」


 〈オォォォォ〉

 恥ずかしいこととは、注意を引きつけるための遠吠えだ。

 ドラゴンの咆哮は、よく分からないがこんなものだろう。


 すると、遠吠えに気づいた魔道士姿の魔人が、四角い機器から射出されるレーザーを当ててきた。


「ランク、ハカル」

 この発言からするとドラゴンにもランクがあるらしい。


「Cランクダロ?」

 他の魔人が問いかけるが、すぐ声を出せないのかレーザーを当てた魔人は震えている。


「イヤチガウ。S… S… S… ランク…」

 声は震えて途切れ途切れになっていた。


「Sランク?テッタイスルゾ。カテナイ」

 頭領らしき魔人が指揮を出しているが、魔道士の格好をした奴は首を振る。


「チガウ。SSSランク‥ ハジメテ、ミタ」

 魔人達はその言葉を聞くと互いに顔を合わせ震えている。ただそのまま怯えているわけではなく、物凄い速さで森の中へと走っていった。


「SSSランク?」


 意味が分からなかったが、そのまま村人の方へと進み、村人と話すために姿がよく見えるように広場に出た。

 すると、村人は案の定あの反応を見せる。


「ドラゴン様、子供だけは食べないで」


 村人のほとんどが、頭を下げて許しを請うていたのだ。先程の村娘に対応されたものと同じである。


 助けに来たのになんで敵と思われるんだろうか。そう思うと深いため息が漏れる。


 しかし、この状況を放置するわけにもいかないので効果は無いと知りつつも釈明をした。


「いや、おれ救世主‥」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る