[2] 夏の終わりに死んだ君

夏の終わりに、君が死んだ。


ホームからの飛び込みだった。



8月31日。

僕は、学校に用事があって電車に乗っていた。


電車が減速し、そして止まった。

まだ駅には着いていない。

アナウンスに興味はなく、イヤホンは外さなかった。

手にしていたスマートフォンで何気なく検索する。

前を走るの電車の人身事故だとわかった。


全く、迷惑なやつだ。

かなり早めの電車に乗ったから、

予定の時間には間に合うだろう。

そのときは、そんなことを考えていたと思う。


結構な時間止まっていた。

幸い席に座れていた僕は、特にストレスもなく、

音楽を聴いたまま、その時をやり過ごした。


その日は、何事もなく終わっていった。



翌日、僕は新学期を迎えた教室で知った。


佐藤が、死んだ。


佐藤葉月。

僕のクラスメイトだ。


昨日の人身事故だった。

事故現場の写真を見たとか、そんな子じゃなかったのにとか、

そんな囁き声が微かに聞こえた。


君は、ただのクラスメイト。

話したことも、数えるほど。

たった一度、文化祭準備のときに話が弾んだ。

特に用事もなく、それ以降まともに言葉を交わしたことは無かった。


その程度。


僕は、君のことなんか何も知らなかった。


取り残された蝉が、物悲しげな鳴き声を上げていた。

まだ夏の欠片が残った、校庭の端の木陰で。

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