祈り

 手をたぐってひざまずいて祈るのは誰か

 空を拝み、仰ぎ、地面に額を擦りつけてそれでも神は答えない

 

 神という存在は何処へ居る

 

 そんなものは人間の描いた幻想にすぎない

 

 幻想を作らなければ人間は生きていけなかった


 形のないものを形作り、すがり、心の支えとすることで内なる規律を作る


 その規律に祈る

 あるいは作ったものに対して祈る

 目の前の脅威に対して祈る


 哀願する


 無常にもその祈りはすべて聞き入れられない

 なぜか


 祈るにも相手を考える必要がある

 いくら祈ったとて、無意味なものがある


 それは意思が通じないもの

 意思というものが見えないもの

 所詮はその程度のもの


 わたしはなんのために祈る

 わたしは生きるために祈る

 わたしは死ぬために祈る

 

 わたしの祈る相手は何処にいる

 

 どこにもいない

 だからこそ目の前のそれに祈る


 願いを聞き届けるものはいない

 願いをどこにぶつければいいかも知らない

 

 雲散霧消する祈りをそれでもわたしは祈らずにはいられない


 だれのためでもない

 だれかのためでもない

 

 わたしのためにわたしは祈る

 

 今日も膝を折って

 何処を見るでもなく

 何処かの何かへ向かって

 

 見えない光の先にあるものに対して


 ああ!


 それでもわたしは

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