第7話 告白﹙前編﹚

 「遅れてすみません」

香織は、そう言うと、星野の前の席に座った。香織の目から、彼女が星野のことを好いていないということがはっきりとわかったが、星野は、にこにことした顔のまま、店員を呼んだ。

 「成瀬さん、今日は俺と恋バナをしましょう!」

注文したコーヒーが二人分運ばれると星野は、唐突に切り出した。

「は?」

「僕らの親睦を深めるために」

香織の不満気な声にも爽やかな体育会系の笑顔をくずさない星野は、キラリと八重歯を覗かせた。

「俺、やっぱ腑に落ちないことがあって。成瀬さんってほんとに華子さんの親友なんですか?」

「どうして?」

突拍子のない星野の発言に香織の左の眉がピクリと上がった。

「いや、だってそうだろ。普通、亡き彼氏に恋する親友が新しい恋をしたってなったら親友として喜ぶべきなのに、成瀬さんは俺を嫌うに留まらず、華子さんがまだ、亡き彼を慕ってるって焚き付けるんですから。」

「あなた、創太のこと知ってたの?」

香織は、この間の星野との電話を思い出して、失敗した、というような顔をした。

「知ってますよ。華子さんがまだ、創太さんのことを好きだと知った上で真剣に、華子さんのことが好きなんです。あんたは、俺のことをなんにも知らないアホだと思ってるんだろうけど、俺からしてみれば、いつまでも華子さんを独りにしたままのあんたの方がよっぽどアホだぜ?」

ぎゅっと力を込めた星野の目を見て、香織は、負けたわ、と言いながら肩をすくめた。

「私、華子のこと好きなのよ?だけど、それと同時に嫌いだったわ。私も、創太のことが好きだったから」

香織は、そう言うとコップにゆっくりと口をつけた。香織の目線があまりにも真っ直ぐで、星野は、香織の目線が外れたあともしばらく、ぼさっと彼女を見ていたが、はっとしたように疑わしげな顔をつくり、応援してたんじゃなかったのか? と、訊いた。

「応援してたわ。」

香織は、コップのなかで湯気が揺れるのを見ながら、さらりと言った。

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