第53話 急変(4)


 落ち着け。

 落ち着け私。


 で、私が結婚衣装を着る理由は……。


 何かのデモンストレーションみたいな?

 二人が首を横に振る。

 ではない。


 予行演習の代役的な?

 二人が首を横に振る。

 でもない。


 私を騙して後から大爆笑のドッキリ的な?

 二人が首を横に振る。

 ですよね~。


 だああああぁぁぁぁ~!!!

 私は……、私は、そりゃあ社内恋愛はちょっとムリ的なことを言いましたよ。

 ええ。言いました。

 だって、周りにバレないように振る舞える自信はないし。バレたら色々とめんどくさそうだし。


 だからって、恋愛通り越して、一足飛びに結婚って……。順番間違ってるというか、短絡的過ぎるというか、横暴っていうか……。


 私に選択肢は?

 そう、そうよ!

 私にだって選ぶ権利はあるはずよ!

 イライラと足を小刻みに震わせて貧乏揺すりを繰り返す坊ちゃんに恐る恐る尋ねる。


「あの~、ここで私が断ったら?」

「ああん?」


 うわっ。めっちゃ睨まれた。

 こわっ。不良か、ヤクザか、チンピラか。

 そんな私を不憫ふびんに思ったのか、眼鏡君が助け舟を出してくれた。


「天、それでいいの? 無理矢理はだめだよね?」

「いや、だってこいつが」

「天……」

「わーった、わーったよ」


 眼鏡君の取り成しにより、冷静になった坊ちゃんがポツリと呟いた。


「お前さえよければ、正妃として迎えたい」


 むむ、むぅ~。

 本気か? 本気なのか?

 よりによって、なんで私?


「条件があります」

「なんだ?」

「いきなり結婚はナシで。まずは付き合ってみて、それから決めるってことで」

「……分かった。いいだろう」

「それと」

「なんだ。まだあるのか?」

「このことは絶対ヒミツで」

「分かった」


 ホントに分かったのかなあ。

 不安だわ……不安しかないわ。


「天くん、本当にヒミツにできるの?」

「できる」

「ホントかなぁ」

「お前っ! できるに決まってるだろうが!」


 そんな私達のやり取りを横で見ていた眼鏡君から横やりが入る。


「お~お~、ご両人。早速の痴話げんか。仲のよろしいことで」


「「よくないっ!!」」

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