第37話 幕間-6


「なあ、少武シャオウ、これで良かったんだよな?」

「うん。あとは天次第かな……。それにしても、まさかあの話が本当だったとはね」

「ああ、俺もお袋の髪飾りをアイツがしてきたときは、まさかと思ったが、噂は本当だったんだな」


 いつの頃からか平安宮には、夜な夜な亡き西王母様の霊が出るという噂が流れるようになった。

 いつの時代の西王母様が現世うつしよに姿をお見せになるのか……。

 はっきりしたことは分からなかった。

 不出来な尚寝シャンチンの女官に対する罰。その罰として課された平安宮の夜の掃除の中で数人が目撃したという噂だった。


 西王母様を見た者は幸福になる。

 西王母様と話した者は長命になる。

 西王母様と結ばれた者は不死になる。


 古い古い言い伝え。

 その伝承は、西王母様を一目見たいという人の欲と絡み、平安宮の夜の掃除を、罰から褒美へと変えた。

 


 御堂河内みどこうちさんの髪飾りを見たとき最初に僕の頭に浮かんだのは、「なぜ彼女が?」という疑問だった。もしかしたらという疑念は、彼女のステータスを見て確信に変わった。

 そして今回、彼女が託された手紙を読み、彼女の西王母としての扱いが決まった。

 天の生母であり、亡き西王母でもあるヤン シャオ様からの手紙――。


『あの子をめとりなさい。但し彼女の意思に反して無理矢理従えるようなことをしては駄目。決して権力やお金の力に頼らないこと。そうして結ばれたときにのみ、西王母の力は発揮されるのです』


「天自身は、彼女で良いのかい?」

「ああ。俺は王になる。そのためにも必ず不死を成し遂げる必要がある」


 それは、答えになっていないような気もするけど……。


静香ジンシャンはどうするんだい?」

「……静香なら分かってくれる……はずだ」

「天、ヤン シャオ様の手紙にもある通り、御堂河内さんを無理矢理、妃にしても西王母の力は発揮されないよ」

「ああ、分かっている。オヤジがいい例だ。西王母だからと、権力を笠に着て無理矢理にお袋を正妃にした。それでオヤジは不死を得た気になって満足し、あとはお袋に目もくれなかった。その結果が今の姿だ。四夫人スーフーレンの部屋ばかりに入り浸り、お袋は俺と二人、帰らないオヤジをいつまでもいつまでも待ち続けた。俺はあんな思いはさせないつもりだ」


 不器用な天に果たしてそれが可能だろうか? 今のところ、脈があるようには全く思えない。

 むしろ、彼女との関係は思いっきりこじれているように思える。

 まずは距離を縮めよう。

 ということで、天の采女ツァィニュにしたけれど……。

 余計に拗れないことを祈るばかりだ。


「静香への説明はどうするんだい?」

「……少武シャオウ頼む! お前からしておいてくれ! 将来、四夫人スーフーレンには取り立てるからと」


 な、なんで僕が……。

 自分でしておくれよ。

 やっぱり心配だ。

 天と御堂河内さんが仲良く並んで歩く姿を想像できないのは僕だけだろうか……。

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