第25話 保護(1)


 ふと、目が覚めたとき、坊ちゃんの姿が見えた。

 ベッドの脇で腕を組んで椅子に座り、眠っていた。


 私は、彼の部屋を飛び出して……。

 なんでまたここにいるんだろう。

 ふと、気になって布団をめくり、自分の服を確認する。

 肌触りのよいふんわりとしたガウンのようなものを身につけていた。

 ……私はこんなものを着ていただろうか?

 いや、着ていなかったはずだ……。


「ん? 起きたか?」


 私がごそごそと身動きしたために起こしてしまったらしい。


「……したの?」

「はぁ? 何の話だ?」

「……私、こんなの……、着てなかったと思うんだけど」

「ああ。雨で濡れてたからな。采女ツァィニュに頼み、着替えさせてもらった。帰るときは、新しい服を持ってこさせる」

「……」

「なんだ!? 俺の顔に何か付いてるか?」


 嘘はついていない……そんな気がした。


「なんで、私ここに」

「覚えてないのか? 雨の中、ずぶ濡れになって震えていたんだ。ここに運んでからも、高熱で三日三晩うなされていたぞ」

「三日!?」

「医師の話では、急な環境の変化と、過度のストレス、日頃の疲れが原因の熱発ねっぱつだそうだ」

「……ごめんなさい。貴方のベッドを取ってしまって……」

「ああ、気にするな。寝る場所なら他にもある」

「……うん」


 坊ちゃん、実は意外と良い奴なのかな……。

 私、少し冷たい態度を取りすぎたかな……。

 そんな私の気まずい気持ちなどお構いなしに、私のお腹が悲鳴を上げた。


 ギュルギュルキュル~。

 静かな部屋に響き渡る。


 う、うわ~、うわ~。

 めっちゃハズイ。

 ちょ、マジで、なんでこのタイミング。

 うわ~。

 絶対、坊ちゃんにも聞こえたよね?

 あ~、もう、サイアク……。


御堂河内みどこうち、ちょっと待っててくれ。あ~、もし、目が冴えて寝れないようなら、その本棚にある本でも読んでてくれ。お前が気に入るかは分からんが」


 坊ちゃんが部屋を出ていく。

 瞬間的に沸騰した顔の熱が、徐々に引いていくのが自分でも分かった。

 あまりの恥ずかしさに、真っ赤になっていたに違いなかった。

 その真っ赤な顔の自分を想像して、そんな顔をした自分がまた恥ずかしくなる。


 ハァ~。

 考えるのはやめやめ。


 勧められた通り、本を読ませてもらおうかな。

 何冊か開いてみる。

 どの本の文字も、私には読めなかった――。

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