14.本番、あと少し!

「発表します。今年の学校祭の舞台発表のセットリストは……」


 夏休みが明け、ついに学校祭まで目の前になった。

 夏休み前に申し込みをした各グループの代表はアルファベットの書かれた札をもらい、今日の順番決めに参加しなければならない。わたしは『H』……ホルプリの『H』だ、なんて前向きに考えてると、学校祭の実行委員長が、掲示板に順番を書きだした。

 トップバッターはマジックショー、2番目は合唱部、3番目は映画部の映画発表……

 まだ、『ライブ』の字が書かれない。あっ、7番目は万里ちゃんたちの軽音部になるんだ。

 8番目、新体操部……9番目……ピアノ発表! 生徒会長のだ!

 あれ、ということは……

「最後に、10番目はH……『TwinKle Shine』、アイドルライブとなります」

 と、トリ───!?





「まあ! いい順番取れたじゃない」

「よりによって生徒会長の後とかやりづらいよっ!」

 十和子ちゃんにとって、トリが一番印象に残るからいいだろうけど……

 生徒会長はつい先日渋谷の大きいコンサートホールでたくさんの自作の曲を披露した天才なんだよ!? ネットニュースに載っててビックリしたんだから!

「もし会長の発表の後にしらけちゃったら……」

「なに言ってるの、アイドルのほうが盛り上がるに決まってるでしょ? アイツの曲っていうのは大人受けがいいから盛り上がるのは大人だけよ。そのぶんあなたたちのときに若い観客が多ければ勝てる可能性は十分に考えられるわ」

 さすが十和子ちゃん、まるで戦略家みたい。そして生徒会長に辛辣。

 勝てる、か。そうだっ、盛り上げたモン勝ちだもんね!!

 そういえば会長のコンサート、見に行ったのかな?

「その日は用事がある、って言ってチケットを受け取らないようにしたわ。ついでに住所も教えなかったから年賀状をもらうこともないでしょうね」

 あはは、相変わらずの十和子ちゃんだ。それにしても、生徒会長はよくあんな性格しておいて、会長になれたよねー、なんて話もしたら、他に会長に立候補した人がいなかったからそのまま就任してしまったようだ。

「ちょっと、あなたも生徒会選挙に投票したんじゃないの?」

「えへへ、十和子ちゃん以外興味なかったから全員『信任』にマルつけちゃったんだよね……」

「はあ……こうして政治への不満は作られるのよ。就任してほしくなかったら『不信任』にマルをするものよ」

 うう、なんとなく実感できたかも。自分ばっかり文句いっても、自業自得しか言えない。


 今日も、衣装を着てのダンス練。予約制だけど、本番と同じ場所の体育館舞台での練習もできるようになった。

 みんな、動きにキレが増してる。立ち位置も1センチのズレもないし、声も揃ってる。

 練習を始めた二ヶ月前はこんなものじゃなかった。もっと、中学生の遊びって感じで、ただ遊んでるようにしか見えなかった。……会長には、そう見えたんだ。高みを知ってるから。

 でも、今の3人だって十分高い場所にいる。けど、まだ頂点じゃない。そこに行くまで、わたしは彼らを育てる義務がある。

「夢園くんっもっと踏み込んで!」

「今まで靴下一枚で練習してたから、ブーツ履いてるとヘンな感覚になるっ!」

「これは、ひたすら踊るしかないな……」

「わわっ、ターンがむずかしい……!」


「会長、視察だなんてさすがです♪」

「風紀を乱すものは発表を中止させる、それだけだ」

 げっ、生徒会長とお付き! ちょっかいかけてこないように、と警戒ぎみに2人を少しにらむ。

 お付きの人は会長しか見ていない。しかも、なんで恋する乙女みたいにうっとりしてるんだろう……

「なんだ、桜。そんなに俺に来てほしくないのか」

 今3人が踊ってるトコだから、なんかネタばらししてるみたいでイヤなの!

「安心しろ。……風紀を乱しているとは言わない」

「あら、あなたなら権力行使で自分以外を弾圧するかと思ったけど、余裕っていうものかしら?」

 発表の確認をしていた十和子ちゃんが会長にシニカルに声をかけた。って、十和子ちゃんが仕事してるんだから、会長が来る必要ないんじゃない? ていうか、来られると困る。

 ムッと会長をにらんでると、会長は中指でメガネの真ん中を押し、その場を後にしようと元来た道をたどった。

「フン、貴様の言いたいことは分かる。楽しみは本番にとっておくものだな」

 きーっ、大口叩くのも今のうちなんだからねー! べーっと会長の背中にあっかんべーをしてステージに目線を戻した。

 一番に盛り上がるのは『TwinKle Shine』だもんっ!!

「大和、いい加減考えを改めたら? 彼についてもろくな人にはならないわよ」

 十和子ちゃんが会長……ではなく、お付きの人に向かってまた冷ややかに投げかけた。

 やまと……? 顔見知りにしては、呼び捨てだなんて十和子ちゃんらしくないような。

 ん? お付きの人、振り返ったけど、その冷めたような顔、さっきのうっとりとした顔、なんだか十和子ちゃんに……あれ、これってまさか、また……!!

「会長がどんなに崇高なお方か、姉さんには理解が乏しいんだよ♪」

 姉さん……! って、十和子ちゃんの弟!?

 だからどうして、この人があの人の身内だって気付かなかったの! ああ、そのシニカルな微笑み! 十和子ちゃんの生き写しって感じ!

 対する十和子ちゃんは、何を言っても仕方ないとため息をついた。

「十和子ちゃん、弟いたんだね……」

「どうしようもない子だけどね」

 でも黙ればイケメンだよ、黙ればね。喋ると会長のことばっかりで、残念なイケメンになっちゃうけど。

 おっと、練習に気を抜いちゃダメだ。本番まで、もう日数がないんだから!


「もっと全開に笑ってー!」

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