第07話 北島幸の苦手科目は体育である(1)

「ただいまー」

 自宅に帰宅する。

 玄関には妹の靴があるのに、返事が返ってこない。

 寝ているのか?

 それとも聴こえているのに無視しているのか。

 最近、反抗期がきたのか塩対応なのだ。

 昔は懐いてくれたのに、中学生にもなると家族には冷たくなってしまうらしい。

 ちょっとばかり寂しいが、それが大人になるっていうことなんだろう。

「はあ……」

 そろりそろりと物音を立てずに風呂場へ行く。

 紅茶で汚れてしまった服をダイレクトに洗濯機に突っ込むと、俺は扉を開ける。

 時間的にはまだ風呂に入るのは早いが、脱ぐついでに風呂に入ろうと思ったのだ。

 だが、それが良くなかった。

 風呂場には先客がいた。

「……え?」

「あ、ごめん、ごめん」

 誰かと思ったら実の妹だった。

 なんだ、いないと思ったら風呂に入っていたのか。

 とりあえず、湯船につかる前に、身体洗うかな。

「ぎゃ――――ッ!! いや、ちょちょちょ、なんで入ろうとしてんの!?」

「いや、実の妹だし、昔は一緒に入っていただろ?」

「はあ!? しょ、小学六年生までだしっ!!」

 結構最近なんだよなあ。

 小学生の時はお兄ちゃん、お兄ちゃんって言って俺の後ろについてきていたのに。

 お風呂に入った後には、しっかり一緒のベッドで寝ていたのに。

 おにいちゃんがいなきゃ、眠れない、とか言ってなあ。

 あの頃は可愛かったのに、どうしてこうなった。

 今でも見た目は可愛いくて、告白をされまくっているらしいしファンクラブまであるらしい。が、そのそぶりを俺に見せてくれない。

 妹よりか、妹の同級生に学校の様子を聴くことの方が多いっていうのは悲しいもんだ。

 学校では大人っぽくて、隙がない。

 男子とはほとんど話さないクールビューティーだとか。

 どこが? って感じだ。

 俺と話す時は、年相応に子どもっぽい。

 文句が多い。

 もう少し落ち着いて欲しい。

 大人になって欲しい。

 まだまだ俺にとっては子どもだ。

 普段は髪を結んでいるからより子どもっぽい。

 今はお風呂だから、髪を下していて少しは落ち着いてはみえるが、そんなもの些細な差。

 それに。

 とっても、重要なことだが胸が小さいしな。

 中学生らしいといえば、中学生らしい。

 だけど、モモのような中学生の胸、メロンのような大人の胸を観た後だと落差でとんでもなく小さく見える。

 いや、小さいどころじゃない。

 まな板みたいだ。

 俺の方が逆に胸あるんじゃないかってぐらいに小さい。

 だけど、小さいからこそ似合う水着だってある。

「そういえば、なんでお風呂でスク水着ているんだ?」

 俺が入った時から、妹のコウはスク水を着用して湯船につかっていた。

 ポタポタと髪の毛が滴り落ちているから、髪を洗ったのかな。

 自宅のお風呂でスク水を着ている理由に、見当なんてつかない。

「こ、これには深いワケがあるのです」

 ブクブク、と泡を発生させながら、沈んでいく。

 奇行を止めてやりたいが、俺の忠告を素直に聞くとも思えない。

「ふーん」

「――って、なんででていかないの? 身体洗っちゃっているし!!」

「まあまあまあ。たまには兄妹の仲を深めようよ」

「……べ、別にあなたとは話したいとは思っていないけど、まだお風呂に入っておきたいし……」

「そっか、じゃあ、ちょっとどいて」

「う、うわっ――す、すごっ」

 妹だしタオルで前を隠すのもあれか?

 別にいいか。

 と思ってそのまま、すっぽんぽんのままコウと一緒の風呂に入ろうとする。

 だけど、コウは顔を真っ赤にしながら、眼を両手で塞いでいる。

 うわー、うわー、と言いながら、指の隙間から俺の股間を見ている。

 興味津々といった様子だ。

 教育上よろしくないか?

 微妙に喜んでいるようにも見える。

 だってずっと俺の股間しか見ていないし。

 俺はタオルで前を隠す。

「あっ……」

「どうした?」

「べつに……」

 そんなに見たいもんか?

 と思いながら、対面するようにお風呂に入る。

 もっと嫌がるかと思ったが、すんなり一緒になったな。

 飛び出すかと高をくくっていた。

 二人してこの湯船は窮屈だ。

 足と足が当たってしまう。

 すべすべしている。

 三島の時も思ったけど、中学生女子の肌ってほんとすべすべしているな。

 同級生の肌とは全然違う。

 俺の足はすね毛なんか生えているけど、なんか、さっきから微妙に俺の足に当てていないか? わざと足を当てているような気が。

 もっと体育座りにすればいいのに、あててきているよな、これ。

 兄は嫌いけど、異性には関心があるってことか?

 そうか。

 これはチャンスだ。

 俺は妹に関心ありまくりだからな。

 マシンガントークしたいんだけど、いつも逃げられている。

 ここならば逃げ場がない。

 好きな男の子とができたとかいう話をしてきたら、その男の子をぶん殴る準備はできている。

 大人げなく、勉強で勝負してやってもいい。

 大学レベルのテストでなあっ!!

 とりあえず、当たり障りないことから口にしておこうかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る