100%を超える、その瞬間

 100%を超えるだと? 聞いてやろうじゃないか、その戯言ざれごとを。

 私はとにかく、キザワの発する言葉を待つことにした。


「まず情報伝達だ。確かに小説は一つ一つしか伝えることができない。しかもそれが羅列されると、読み手の苦痛が増えるため、一気に伝えるのは難しい。だがね、そもそも一気に伝える必要なんてあるか?」


「ある。そりゃ読み手だって、主人公がどんな人物か早くわかった方がいいに決まってる。そのために情報を羅列しようとすると読み手は疲れるだけ。だから小説は映像に勝てない」


 キザワのゆらめきはうんうんと頷いているようだった。しかしそれは決して納得、相槌の頷きではない、そうでしょうね、君にとってはそれくらいしか分からないだろうね、そんな蔑むような縦の動きだった。


「それは君がしょうもない文章しか書けないからだよ。プロの文章を見てみろ、君は気づいていないかもしれないが、一つ一つの情報を伝えて行く際に様々なテクニックを駆使することによって、見事に読者が飽きさせないようにしている。そもそも情報なんて少しずつでいいんだ。それを小出し、そして様々な切り口で伝えることによって、時間はかかっても読者に飽きさせないように情報伝達をすることはできる。これで100%に追いつくことは文章のプロにしてみれば簡単なことだ」


 何を分かったような事いいやがって。

 プロの小説だって所詮は日本語だ、私だって一つや二つ、読んだことがある。そんなに特別な事が書いてあるとは到底思えないがね。


 そんな私の内心を見透かしたかのように、キザワはこう続けた。


「その顔は信じてないようだね。ではこんな設定、君ならどう書く?」



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