7-キリンとコンビニ店員

 深夜シフトのバイトを終えた。空はまだ朝の空気を残していた。

 すぐ帰って寝ようと思ったとき、ふいに石原との会話を思い出し、家とは逆の方向に自転車を動かした。

 

 件のマンションはすぐに見つかった。

 下から指で数えて、七階を見上げる。

 時間が早すぎるのか、どの部屋もカーテンを閉めていた。

 残念だと踵を返そうとしたとき、住人がエントランスから出てきた。

 なんと、石原だった。


「石原じゃん!」

 不健康そうな顔は相変わらずだが、身なりは前より綺麗に整えられている。長い前髪も、髭もない。

「ここ、オマエん家なの?」

 石原の眉間が真ん中に寄っていく。不機嫌とはこのことか。

「そうだけど」

「そっか、いいところだな」

「普通のマンションじゃん」

「何言ってんの。オレん家は平屋だぜ」

 知らねぇよという顔をされた。うん、前髪を切ってよかったと、勝手に感動する。

「どこに行くんだ?」

「朝市」

「公園の野菜売ってるやつか?」

 こくりと頷き、石原は自転車にまたがる。見た目に似合わない健康志向だ。

「オレも行く」

「はあ?」

「冗談だよ」

 じとっとした目だが、前の石原より元気に見える。

「オレ、野菜キライだもん」

「俺もだよ」

 初めて同意された。もはや、感激だ。

「じゃあ、なんで?」

 すると、石原はマンションの上の階を示した。

「あいつ」




 ちょうど指した角部屋からキリンが首を出した。

「キリンだ!」

 興奮するオレに、石原は驚いた顔をしていた。

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