#14 元魔王は帰還する


 サターナスは仲良くしてくれたニグルムの村の人たちの命を狙われたこと、そしてその事に気付くことに遅れ守るべき場所である村に被害を出してしまったことで怒りが頂点に達してしまい暴走する。

 サターナスが冷静さを取り戻した時には既に取り返しのつかない状況になり、村を襲った集団を消してしまっていた。


 サターナスは自身がなぜこれほどまでの力を持っているのか言い訳が出来ないと思い、そして残ることでこれ以上この村に厄災をもたらしてはならぬと、ニグルムの村から去ることにする。


 風の噂ではこのあと、アーマンド率いる勇者パーティーがこの村を訪れ平穏を取り戻したらしい。


■■■


 サターナスは魔王城に帰り、自室に籠るのだがそこにルシフェルムが押し掛けてくる。


「魔王様、一体どうされたというのですか? 帰ってくるなり、部屋に籠ってばかりではないですか。さぁ今日こそ、魔王城にやってくる勇者を倒しましょうぞ!」

「それは……いい。というか今の魔王はお主だろうに」

「ハッハッハ、何をおっしゃいますか私は代役にすぎませぬ。さぁこうして魔王城に戻ってこられた今、早くサターナス様が死んだと勘違いしている人間共に恐怖に思い出させてやりましょう!」

「お前、なんだか勇者に毒されてきたな……。だがそれはやらない、というより魔王としてのサターナスは既に死んだのだ。遅かれ早かれいずれはそうなる運命だったのだから、その役目はお主に任せた。それにお主は十分にその役目を果たしておるではないか」


 魔王城に戻って以降、魔王討伐を目論む勇者とルシフェルムの戦いを見ていたが、前にも前にも増して実力を伴わないので、本当にただの嫌がらせとしか思えない。

 魔王城をしばらく開けた間に本当に自称勇者が増えて、毎週のように騒がしい。

 そんな役目を再び背負わなくてはいけないかと思うとゾッとする。


「そうは言いますがサターナス様こそが真の魔王であり私なんぞ……」

「謙遜するでない、お主はワシより勇者に容赦がないでないか。ワシよりよっぽど魔王らしいぞ」

「それはサターナス様ほど空間魔法操れないので、勇者を転移で飛ばすことが出来ないからですよ。本当に私はサターナス様の足元にもおよびません」


 ルシフェルムは空間魔法でなく、力業で勇者どもを吹き飛ばしているのだ。

 自称勇者達が再起したという話は一度たりとも聞こえてこない。


「まぁいずれにせよ姿をどうにかせぬと示しが付かんので、ワシが魔王として人前に出るのはな……もっとも魔王討伐に適した実力を有した実力の持ち主が現れたら真剣に考えるわ」


 色々と言い訳を話すも今は何もやる気が起こらない。

 愚かな人の蛮行によって失われた生活の、喪失感に苛まれているのだ。

 己を見失った自身の未熟さにも不甲斐なさも感じるが、それ以上に村に残したキケとサラの行く末が気になる。

 人の一生は魔族と比べると遥かに短い。こうして魔王城でだらだらと悠久の時を過ごすことでキケとサラは大きく成長し、きっとワシのことなど忘れているに違いない。


「そうですか……ではお姿を取り戻す方法は私が見つけ出してみせますので、その折は魔王に戻って貰いますからね」


 ルシフェルムはそう言い残し、部屋から出ていった。

 しかし、やはりまだここから外に出る気持ちにはなれない。


 こうして再びサターナスは部屋に籠り、あの時どうすべきだったか自問自答を繰り返すのであった。


■■■


 ルシフェルムは元魔王のサターナスが魔王城に戻って以降も魔王を続けている。

 サターナスが魔王城を出ていってから魔王としての責を担い勇者を退けてきたが、今ではすっかりと役割が板についてきた。

 しかしルシフェルムにとってはサターナスこそが魔王であり、生涯仕えるべき御方だと考えている。

 だからこそサターナスが人の姿から元の姿に戻ることで魔王の座に戻ってもらえるという言葉を信じ、ルシフェルムはその方法を探す。


「さぁ吐くのだ、さもなくば命は無いものと思え!」

「知らねぇと言ってるだろ!」

「ハッハッハ、勇者は直ぐに嘘をつくからな。よかろう、ならば盛大に痛め付けてくれよう!」

「くそっ!」


 ルシフェルムの探す方法というのは勇者から聞き出すというものだ。

 勇者が用いたアイテムで姿を変えられたのだから元に戻る方法も勇者なら知っているはずだ、という考えからなのだが、なかなか答えにたどり着けない。

 ここにやってくる勇者の大半が自称勇者であり、国の宝物とされるアイテムのことなど知っているはずがないのだがルシフェルムはそんなことを知る由がない。

 幾人もの自称勇者を限界まで痛め付けて、本当に答えを知らないようであれば物理的に魔王城から退却させ始めてから、はや15人目である。


「まだ話せないというのか……なら次はどの部分が要らないのかな?」

「ゲフォ、ゲフォ、ま、待ってくれ! ほ、本当に俺は何も……そ、そうだ、あの勇者なら知ってるハズだ!」

「ほう、一体そいつは誰だ?」

「こ、この国のお抱えの勇者だ。名前は……」


 ルシフェルムは名前を聞き出し、もうこの勇者から聞き出せることは何もないと判断し魔王城から退場させる。


「これでようやく……あとはその者達さえくればサターナス様もきっと」


 ルシフェルムはサターナスを元の姿に戻せる手がかりを掴んだことで喜び笑みを浮かべる。

 しかしルシフェルムはまだ知らない、その勇者達がサターナスによって鍛え上げられ、これまでの自称勇者とは比べ物にならない実力を持っていることを。


 人間の王都では、幾人もの勇者が再起不能になり国の行く末を危惧した国王が、大聖剣を勇者に与えそしてその仲間達にも希望するアイテムを与えた。

 これまではお金が足りずに行えなかったが、勇者の数が減り国の支援する勇者に期待するものが増え寄付が増えたのだ。

 それは単に投資先が限られたということだけでなく、確かな実力に皆が期待したからである。

 しかし勇者パーティーが勇者でない仲間によって操られていることは、勇者とその仲間以外は知らない。そして目的が魔王討伐とは別にあることも秘密である。


 こうして魔王城に向けて勇者パーティーが出立し、いよいよルシフェルムと激突する日が近づいているのであった。

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