#12 元魔王は弟子を育てる


 サターナスは弟子入りを懇願する自称勇者アーマンドを追い返すことに成功したのだが、キケとサラのお願いは断ることが出来ず、まさかのキケとサラを弟子入りさせることになってしまった。

 元魔王が人間を弟子入りさせて、力を伝授して良いものか悩ましいところだが、キケとサラであれば魔王を討伐すると言い出さない気がするのでサターナスは考えることを止めた。


■■■


 キケとサラは教えを請う気、満々なので色々と知識の基礎から教えようとするも、難しいのか全く理解してもらえない。

 仕方がないので習うより慣れろの方針に切り替える。


「ではキケとサラよ、魔力を感じることから始めよう」

「「はい、おししょうさま!!」」

「元気でよろしい。では二人の手を握るからワシが魔力を流したと思ったら逆の手をあげるのだ。これは競争だから負けた方は家からご飯を持ってくるのだぞ」

「「はぁーい!!」」

「では始めよう」


 最初なので少し意地悪して、初めから魔力を通わせながら手を握る。


「うーん、どうだろうか」「うーん、よくわからないね」


 正直な二人は適当に手をあげるとはしないので、仕方ないのでネタばらしをする。


「ハッハッハ、それはそうだ初めから魔力を通わせておるから変化など感じれるハズがないのだ」

「「ズルい!!」」

「ズルくはない。お主達は敵が出会う前から戦闘準備をしていたらズルいと思うのか?」

「うーん、むずかしいよ魔王様」

「そうか、だが二人とも負けは負けだ。二人で家からご飯を持ってきなさい」

「「はぁーい」」


 全く、素直で聞き分けの良い子達だ。こんな子が魔族を倒そうとするようになるのだから怖い世の中だ。

 しかしこうしてワシの家まで往復することで知らず知らずのうちに体力もつけさせられるが、辛いと思わせずに訓練をさせるのは難しいものだな。


「魔王様、もってきたよー!」

「早かったなお前達」

「うん、なんかねこう魔王様が手をにぎったときから力があふれてきたの」

「へ、へぇー」


 あれ? そんな魔力の受け渡しが出来るなど聞いたことがないのだが……。


「ちょっとお主達、こっちにきなさい」

「はぁーい」

「ちょっと確かめて貰うからじっとしていなさい」


 サターナスは状態把握の魔法『ペルスペクタ』を用いる。


「……そんなバカな!!」


 キケとサラの魔力回路が発達し、既に魔力の総量が先程の自称勇者を越えるほどに成長してしまっている。


「どうしたの魔王様?」

「い、いや何でもないぞお前達。さぁご飯を食べようではないか」

「「はぁーい」」


 ワシはまさかとんでもないことをしておるのではないだろうか。


 しかし今さらキケとサラに教えることを止めてしまったら、間違った方向に成長してしまい力が暴走するかもしれないので、止めるに止めれないサターナスであった。


■■■


 サターナスがキケとサラを弟子として育てている中、王都に戻ったアーマンドは王に謁見する。


「国王様、御報告したいことがあるのですが、発言しても宜しいでしょうか?」

「いまさら何をそんなに畏まっておる。ここにはお主らとワシしかおらぬのだから、普段通りに喋るがよい」


 アーマンドが国王に人払いを頼み、国王とアーマンドの勇者パーティーしかいない状況をつくって貰ったのだ。

 これまでの実績と信頼がなければ出来ないことだが、それだけアーマンド達は信頼されているということである。

 それでもアーマンドからお願い事をするとあって丁重に話していたのだが、普段を知る国王には違和感しか無いらしいので普通に喋ることにする。


「それでは国王様、お願いなのですが私はあるものに師事したいと思っております」

「ほう、勇者たるお主が教えを請いたいと思える人物がおるとは思えんが、その者は何物だ?」

「はい、私も最初はそのような者がいるとは思いませんでした。しかしその考えは過ちであったと気付かされたのです。して国王様はニグルムという村をご存知でしょうか?」

「ふむニグルムとな……そういえばタンデムの村の近くにそのような村が出来たと聞いた覚えがあるな」


 ニグルムの村は虐げられた黒い目の持ち主達によって作られた町であるが、冒険者ギルドが融和を謀り、ニグルムの村にギルドの設置をするにあたり国王へ報告まではしてあるのだ。

 しかしその特殊性ゆえに場所は公にはされていない。

 自称勇者の集団がたどり着けたのは、サターナスをもてなすために用意された料理の匂いに誘われたこともあるが、宴会に興じるサターナスの声が森に響き渡ったからであり、アーマンドがたどり着けたのはサターナスを乗せたラージウルフに引かれ、そのラージウルフが向かった先に進むことでたどり着けたに過ぎない。


「はい、そのタンデムの村の手前にあるニグルムという町に私が師事をしたい者がおるのです」

「ほう、そんな僻地におるのか……しかしそのような強者がその村におるとは聞いたことがないのう。してその名はなんというのだ?」

「はい、実はその名前が問題でして……」

「何じゃもったいぶらずに言ってみよ」

「その者の名前はサターナスと申します」

「……お主は今、何と申した?」

「はい、元魔王と同じ名前のサターナスでございます。更にその者は黒い目をしておるのです」

「おぬしは自分で何を言っておるのか分かっておるのか? 世界を恐怖に陥れ未だに市民の心に刻まれておるその悪の象徴の名を語る不届き者に師事をしたいだと?」


 サターナスは村で知り得た知識で話しただけであったが、実際に元魔王の名であるサターナスという名前は公の場で口にすることすら憚られている。

 前魔王のサターナスが姿を消し、新しい魔王のルシフェルムが台頭したことで、同時期に魔王討伐に出たアルセーヌが討ち取ったことになっているが、誰もその事実を確認出来ていないのだ。

 だからこそ軽々しく口にすることで、魔王サターナスが再び降臨することを皆が恐れている。


「確かに、名前とその目は忌み嫌われるものです。しかしその者の実力は私が今まで見たことも経験したことも無いものでした。それにその者に挑み戦うだけで強くなれる実感が湧くのです」

「だがその名を名乗る者を認めるわけにはいかぬのだ」

「ですが国王様、我々は何時までも元魔王のサターナスの亡霊に囚われるべきではないのです。その為にも魔王を確実に討ち滅ぼす力を得る必要があるのではないですか?」

「お主の言わんとしてることは重々承知しておる。しかし勇者は誰よりも正しく、市民を導く手本でなければならん。だからこそお主をその者に師事させることは出来んし、そうなればお主を勇者と認める者はいなくなり勇者を辞して貰わなければならんぞ」

「しかし……」

「すまんがここは諦めてくれ。今、御主を失えば我が国の信は地に堕ちかねん」

「……分かりました。大恩のある国王様がそう仰るのであれば従います」


 こうしてサターナスはアーマンドにより付きまとわれることは無くなった。

 しかし幾度もサターナスに戦いを挑んで得た経験値により、アーマンドの実力が既に他の勇者を遥かに凌駕していることをまだ誰も知らない。



 こうしてサターナスによって鍛えられたキケとサラ、そして図らず強くなったアーマンドが魔王城に向かうまでそう時間がないことを、現魔王のルシフェルムは気づく由がないのであった。

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