フルメンバーでクリスマスイブを 🎄

今夜は多分雪になると思う。

まあクリスマス・イブにはお似合いの天候だよね。

そして今夜の主役は・・・


「クルトンちゃん、ケーキはホールだよね?」

「うん。エンリちゃんのリクエスト通り、スタッフさんには6等分しても目減りしないケーキを、って頼んだよ」

「ありがとう。アベちゃん、スパークリングワインは持ち込みOK?」

「最初の乾杯用はそれでもいいって」

「Got it! ハセっち、自慢のテーブル・マジックは準備万端?」

「もちろん。everytime go! さ」

「thank you! ボン」

「はい」

「お利口さんにしててね」

「・・・・・・・」

「返事は?」

「なんで僕だけそんなコメント?」

「ん? 嫌だった?」

「他に言いようがあるでしょう」

「じゃあ、イイ子にしててね」


・・・・・・・・・


連休最後のイブの夜。

予言通り雪が降り始めた。

積もるね、これは。

そしてわたしたちはわざとらしく別々にせっちゃんの『ダイナー』に入って行った。


「あらみんな。イブだから今日は来ないと思ってたわ?」

「えへへー、ちょっと気分転換にね」


お客としての常連4人はせっちゃんの疑問符を適当に誤魔化す。

心配なのはボンだ。


「いやー、僕なんかひと仕事してからのバイトだから・・・」

「わー、わーわー!」


ボンの予測不能のコメントに対しクルトンちゃんの必死のフォローの叫び声。びくっ、とするせっちゃん。


「な、なに? 今日はみんなおかしいわよ?」

「えへへへへー、イブだからねっ!!」


閉店時間までコーヒー一杯で全員粘る。そしてわたしがわざとらしく提案する。


「あ、あのさー。雪積もっちゃいそうだよね? せっちゃん、後片付けは明日の朝にしたらー?」

「え・・・でも、朝もいつもと同じ時間に始めるし」

「なんなら早起きしてわたしとボンが開店の準備しに来るよ」

「エンリちゃん、そんなの悪いわよ」

「いや。今日は早く切り上げて明日に備えた方がいい。むしろ明日の積雪で通勤客が混乱するだろうから」

「それがいいよ。俺、今日車だから、全員送ってくよ?」

「せっちゃん、わたしも冬休みに入ってるから明日の朝手伝うよ」


わたし、アベちゃん、ハセっち、クルトンちゃんの見事な連携プレーでせっちゃんをハセっちのかっこいいバンに押し込んだ。


・・・・・・・・・・


「あれ? 方向が違うわよ?」

「あ、ああ・・・せっちゃん、ちょっとだけお茶してかない?」

「お茶? エンリちゃん、だったらもう少しお店にいてくれてもよかったのに」

「う、ううん。たまには敵情視察も必要だよ」

「そうねえ・・・確かにウチのコーヒーやジュースが他のお店と比べて美味しいのかって飲みに行く余裕も無かったからねえ・・・」


そう言って到着したのは、以前せっちゃんの店の食中毒疑惑を晴らすためにミーティングした駅裏のファミレス。


「6人でーす」


とこれまたわざとらしくファミレスのスタッフさんに告げるクルトンちゃん。


「はい・・・クルトン様、ではこちらのお席へどうぞ」


ぞろぞろと店内のお客さんたちのテーブル脇をすり抜けて奥へと進む。

イブの夜遅くのお客さんたち。なおかつ通勤・通学電車駅の裏にあるファミレス。

見事なまでにおひとりさまばっかり。

男性客だけでなくって、はっ、とするぐらい綺麗な若い女性も混じってる。


なんだか寂しい世の中だな・・・


「では、こちらです」


同じフロアで区切られてもいないテーブルだけれども、パーテーションの死角になってる通路を曲がって、のテーブルにたどり着いた。


せーの!


『せっちゃん、メリー・クリスマス!』


ボンとクルトンちゃんが、パン・パン、とクラッカーを鳴らす。


「え? あらあらあら。何何、どうしたの!?」

「えー、こほん。若輩者ではありますが、このクルトンめが本日の司会進行の大役を務めさせていただきます。せっちゃん、いつもお疲れ様です。本当にありがとう!」

「え!? なんでわたしに!?」

「いやいや。まあ毎年忘年会もお店でやってますけど結局せっちゃんが僕らの面倒を見てくれてますからね。こうしてクリスマスはせっちゃんを主役に労おうというそういう僕の感謝の気持ちですよ」

「ちょっと、何偉そうにしてんの! ボンが毎年忘年会でお酒飲んでへべれけになるからせっちゃんに面倒かけてるんじゃないの!」


クルトンちゃんの鋭い指摘に残りの成人3人も自己申告した。


「ごめんなさい、私もだ」

「俺も」

「量だけならわたしが一番・・・」


アベちゃん、ハセっち、わたしも頭を垂れて反省する。

聖夜に唯一ふさわしい清らかな人財、我らのホープ、クルトンちゃんが再び場を仕切る。


「では。ここにアベちゃんからをご贈呈いただいてます!わたしにはアップルタイザーを!」

「ドン・ペリとまではいかないけれど、それなりのやつだから。クルトンちゃんは未成年だからそれで我慢してね」

「アベちゃん、ありがとうございます。そして、このサンタさんのチョコ人形が乗っかったクリスマスケーキはみんなでお金を出し合いました!」

「そのサンタ、僕の分にね」

「ボン! これはせっちゃんの! 大人げないんだからあ・・・」


わやわやと盛り上がるわたしたちのテーブル。せっちゃんが意外なことをわたしたちに囁いた。


「・・・・・・・」

「みんな、いいかしら?」

「うん、いいよ。せっちゃんがそうしたいんなら」

「ありがとね。せっかくわたしのためなのに」

「いや、それでこそ『ダイナー』の店主。素晴らしいよ、せっちゃん」

「ありがとうね、アベちゃん。じゃあ・・・」


そう言ってせっちゃんは他のお客さんたちが佇んでいるテーブルの方に歩いて行った。

そして、一人一人にそっと声をかける。それからお店のスタッフさんにも許可を取った。


せっちゃんの後ろをぞろぞろとついてくる4人のお客さんたち。

老紳士、残業帰りのリーマン男子、大学生風の男の子、容姿端麗なショート・カットの20歳ちょっと過ぎ大学生風の女の子。


「ほんとにいいんですか? ご一緒して」


なんとなく代表するように老紳士がわたしたちに訊いた。同じくわたしたちを代表する総合司会のクルトンちゃんが答える。


「はい、もちろん! 今宵の主賓の意向ですので!」


クルトンちゃんが元気よく言うと、4人のお客さんたちはせっちゃんとわたしたちに丁寧にお辞儀してくれた。


まずはケーキを切る。


「ボンに切らせちゃダメ! ズルするから!」

「クルトンちゃん、なんて言い草・・・」

「どおーれ。公正明大なわたしが切って進ぜよう」


わたしは一年でもっとも神経を研ぎ澄まし、ケーキを切ったさ。薄ーくね。


「では、みなさん、グラスを掲げて!」

『メリー・クリスマス!』


10人全員でグラスを鳴らし合う。

リーマン男子と女子大生風の子がクラッカーを再び鳴らしてくれた。


「いやいやいやいや、女房がねえ、去年死んじゃってねー!」

「あらそうですかそれは寂しいですねー」

「仕事がさあ、辛いんだよねー」

「そう・・・わたしもいい絵が描けなくて」

「え? 絵描きさん!?」

「ふふっ。美大生なの」

「わあーん。エンリさーん、結婚してくださーい!」

「黙れボン! その前に大人になれっ!」

「ハセっち。この株上がるかな?」

「アベちゃん、それよりウチの会社の株買ってよ!」

「あら。ファミレスのドリンクバーってバカにできない味ね」

「どうしてわたしだけお酒飲めないのー!」


これじゃあ忘年会と変わんない。


ではでは。

わたしたちと、お読みくださるみなさん全員でフルメンバーです♡

改めてご一緒に。


メリー・クリスマス!(o^^o)

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