第16話

「えっと……セフレ?」

「アハハハ。まぁソレばっかりで考えてるつもりは無いですけど。

俺、神経質なんですよ。アレコレ仕切るし、かなりウザめなタイプなんです」

「そ、そぉなん?」

「例えば、映画を見るのはこの人、とか。旅行はこの人、とか。食事もそう。

ケースバイケースで適材適所みたいなのがあって、全部を同じ人とこなせないって言うか」


 怖。オレに負けないご都合主義 見~~っけ。


「えーっと、そぉなるとオレはぁ、えーっと、お隣サンと言うカテだけどもぉ、」


 お隣りってカテゴリーに一体どんな適所があるんかって、そーゆー話だよ。

私生活のお世話? 執事か、オレは!!


 ユーヤ君は黒目を上に、散々 唸り声を上げた挙句に首を傾げる。



「何だろ?」



 クソガキー!! オレの心を何処まで弄ぶんですかぁ!?

お前の分のベーコンも食っちゃうぞ、オレはぁ!!


(落ち着け、オレ……

こんな見た目だけの小僧への想いは錯覚だったって、昨晩 見事に軌道修正したじゃねぇの。

どんなカテにブチ込まれようとも、子憎たらしい弟分扱いして、

オトナ風吹かしてやりぁイイんだっつの!)


「ぁ、兄的な?」

「そう、かなぁ……でも、そうかも知れませんね。

石神サンとは、括り無しで楽しく過ごせると思うから」

「くくり、ナシ、で?」

「はい」


 ハイ。今、弄ばれてますよぉ、オレの心のド真ん中はぁ。


「って言うか……こうゆう事 言ったら、石神サンにスゴく失礼かも知れないけど……」

「もぉだいぶ失礼されちゃってっから気にしねぇよ、オレ」

「そうですか? 良かったぁ」


 論点ズレてっけど、コレからどんな失礼かましてくれんのか、ちょっと興味あるんで話に耳を傾けてみる。

ユーヤ君はフォークの先端を唇に寄せて、少し照れ臭そうに言う。


「社会勉強に1人暮らししようと思って、色々 物件を見て回って、

流石にこのアパートは無いなぁ、何て思ったんですけど、」


 だよね。このボロアパート、建築法違反してるよ、絶対。



「隣の表札 見たら、【石神】って書いてあって……

あの、石神って、俺の好きな人と同じ苗字で……

すごくご縁を感じて、襤褸でも良いやって、腹括れて、」



 腹くくる程のボロアパ。その決定打が、オレだってなら……



「昨日は石神サンのフルネーム聞いて、本当に驚いた。だって そのままだから。

石神亮太郎。俺が恋してやまない人」



 ぁ。恋する乙女の顔……


(何だろ、言っちゃいたいかも。オレが その石神亮太郎デスって。

……いや、言ったから何って、ナニって。バカバカ。ちゃいますから!

オレの迷いは昨晩 浄化されましたから!

ただ単に、闇雲に何かこぉ……もっと気軽な友愛を築けるんじゃねぇかと。

健全に。男らしく)


オレが腹の奥底で色んな言い訳をしてると、ユーヤ君は顔を赤くして取り乱す。


「ぁ、あの、誤解! 誤解ですから! 変な意味じゃなくっ、

あの、その人 作曲家で、ものスゴく良い曲を書くんです! 本当ですよ!

初めて聴いたのはCMで何ですけど、その音源は手に入れられてないんですが……

でも、他の曲ならあります! 聴きます!?

俺、実は全部ダウンロードしてるんですよ、石神先生の曲!」

「えぇ!?」

「多分、石神サンは聴かない部類の曲だと思うんですけど……

えっと、ちょっと待っててくださいね!」


 ユーヤ君は立ち上がり、イソイソとパソコンを起動させる。

オレの内心はキョドってますよ、当然だろ!


(え? え? 石神亮太郎の曲、全部!?

って、石神亮太郎ってオレしかいないよね!? 同姓同名いないよね!?)


 で、スピーカーから流れて来るのはアイドルの曲。

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