第13話

 どうか、今もオレの曲をスキでいてくれますように。

そんな願いを込めながら、スペアのヘッドホンを被ろうとした所で、


(何か、聞こえる……?)


 こうゆう時、耳を欹てるのはオレだけじゃないっしょ。



 ……

 ……



「!!」


 聴き取ったり!!

オレはガタン! と音を立てて立ち上がり、両手で顔面を覆う。


(ぅわぁあぁあぁ!! ヤッってるぅ!! 喘ぎ声、聴こえてるぅ!!)


 言わずもがな、隣の部屋から。中都由也の部屋から。



(つか、どっちの声!? どっち!! どっち!? そこ重要!!)



 ユーヤ君の声は ハスキー? ってか、音楽的に言うとキレイなアルトだ。

この声はぁ……って、壁に耳つけちゃってるオレは大した変態っぷりだけど、

自分の部屋の段ボール壁に寄り添ったって捕まりゃしねぇよ。



(ゎ、分からねぇ!! ウッスラとしか聴こえんから判別つかん!!)



 ヤバイヤバイヤバイ。

さっき散々 発散させて来たってのに、オレの全身の細胞がヤル気満々になってっし!!

オレはヘッドホンを被り、聴覚を塞ぐ。

そして、慌てて布団を敷いて掛け布団を被る。


(心頭滅却!!

仕事は明日に繰り越して、今度こそバッチリ片付けちゃるよ!!

今日 吸収したエナジー全開に投下して、神曲 作っちゃるよ!!

だからオレに安眠を!! 安息を!!)


 ギューーっと、目ぇ閉じて丸くなって朝が来るのを待ちましたとさ。



*



 ――チュンチュンチュンチュン。



(小鳥の囀り……あぁ、清々しい朝の訪れ……)


 で、目が覚めるワケなくて。

つか、結局 眠れんかったんですけど、どーしてくれるよ、オレの目の下のクマさん達。


「ヤベ、頭イテぇ……」


 ヘットホン被ったまま一晩を過ごしたから、コメカミが痛い。


(ボロアパの壁、パンの耳だっつっといたのにさぁ……)


 日本語崩壊してっけど、ソレくらい このアパートの壁は薄いって話だよ。

ソレはちゃんと念押しといたのに、何であの子は学習しねぇのかね?



(バカなのか? バカでしょ。バカだろ、お前。クソガキ。オス猿)



「のクセにカワイイとか、許すしかねぇし……」



 金髪頭ワシャワシャ掻いて、オレは新聞を取りに外に出る。

普段は気づいた時にしかポスト何か覗きゃしねぇけど、今日ばっかりはクソマジメな記事でも読んで現実逃避したい。



  ガチャ。

  ガチャ。



 オレが玄関ドアを開けると同時、隣の部屋のドアも開くから ご対面。


「あ」

「ぁ」


 普段しなれないコトをするもんじゃないよ。って、

実家の母チャンが言ってたのを思い出した。


「……ぉ、はよ。真奈チャン?」

「ぁ、ぁ、ぁ、ぉ、おはよう、御座います、石神、サン……」


 昨日と同じ服でユーヤ君の部屋から出て来たのは、癒し系の真奈チャンだ。

想像するでも無く、昨晩のユーヤ君の相手は この真奈チャンだったワケで、

狙い通り、気に入った子をお持ち帰り出来たってコトが分かりましたね。


(つか、大人として どのよーな反応で見送ったらイイんだかぁ)

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