第6話

 ユーヤ君は大きな目を輝かせ、羨望の眼差しでオレを見る。


「ぁ、ありがとうございます! このご恩は絶対に返しますから!」

「イイってイイって~」

「そうだ! 俺、駅前のカフェでバイト始めたんです!

良かったら、お時間ある時に立ち寄ってください! サービスしますから!」

「行く。ゼッテぇ行く」


 ユーヤ君が言うとね、サービスの単語が矢鱈と卑猥に聞こえるんだよなぁ~~


「あ。そうだ。母から荷物が届いて、何か食べ物ばっかりで、

こんなに食べれないって笑えるくらいで、良かったら貰ってくれませんか?」

「貰う」

「缶詰なんですけど、カニとホタテと、キャビア」

「は?」

「嫌いですか?」

「貰う」

「ソレから、冷凍物ですが、和牛ステーキ肉」

「貰う」


 何でキャビアだよ? 何でステーキ肉だよ? つか お前、完全にボンボンだろ!!

オレは缶詰と冷凍肉を両手一杯に持ち抱え、首を伸ばしてユーヤ君を覗き見る。


「あのぉ、ご実家は? 漁師か猟師か何か?」

「?? 母がお取り寄せ好きなだけで」

「大変結構なご趣味で」



 あ り が て ぇ !!



 隣人が金持ちだと、こんなラッキーサプライズお見舞いされちゃうんかぁ!!

今月ヤベーのオレの方だわ!

作曲依頼が2件だけで、米のとぎ汁で凌がざる終えんかったんだからな!


今に感涙しそうなオレに、ユーヤ君はポン! と手を叩く。


「あ。ソレから、合コンいつにします?」


 そのヘッドホンは無期限で貸す!


「いつでもイイ。ホント、今すぐでもイイ」

「じゃぁ、今晩にしましょうか」


 何つぅフットワークの軽さ。羽ついてんだろ、キミの足。


「マズイですか?」

「イイけど、メンバー平気かな? って」

「大丈夫ですよ。

ノリがイイ子ばっかりだし、サークルのOBにも声かけるんで、ほっといても人数集まりますよ。言っても、俺が文無しみたいなもんなので、安い居酒屋になりますけど……良いですか?」

「大賛成!」


 文無しってのはオレみたいなのを言うんだよ、ユーヤ君。


 オレが今晩の合コンを快諾すると、ユーヤ君は満足気に頷く。

この顔、カワイイなぁ……クソ。何で男だ、コノヤロー。

とか思ってんの、オレだけじゃねぇだろ。ゼッテェ。


「ソレじゃ、早速 皆に連絡しますね!

ソレからピアノの練習して、バイト行って……多分、18時頃になると思います。

俺、迎えに来るんで、準備よろしくお願いしますね!」

「おぅ」


 オレは両手の戦利品を抱えて部屋へ戻る。

コレで当分 食いっぱくれんで済むってもんだ。


(つか、OBか……知り合いが来るとかねぇだろな? まぁ、適当に誤魔化しゃイイか)


 音大出て音楽でメシ食ってるヤツ何て、指折り数える程度もいやしねぇ。

ましてや、学生の合コンに顔出す音楽人なんざオレくらいのもんだわ。


「ギャハハハ!」


 笑けるねぇオレぇ。ンでもって、両膝をついて項垂れる。



(何つぅ、切羽の詰まり具合……)



 台所前で四つん這いになったのは今日で2回目。

1回目は、ユーヤ君が男だと気づいた時だ。



『俺、1人暮らし初めてだったんで、ご近所と仲良く出来るか不安だったんですよ』



(一世一代に一目ボレた相手が男だった何てさ、予想以上のハイダメージだったんだって……)


 格ゲーで言うトコの、コンボで殴り返された挙句に超必でトドメ刺されたみたいな……

そんくらいの衝撃だったもんで、未だに そのショックから冷めやらない。


(早いトコ 脳ミソを正常に書き換えなきゃよ、妄想が爆走しそうで怖いっつの)




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