第4話

 取り敢えず、大人として隣人として平常心!

彼女を丁重に部屋に招き、奥の部屋が見えないように慌てて引き戸を閉める。


(ヤバイヤバイ! 中都サンにはリーマンとして貫く必要がある!

決して音楽人とバレちゃならねぇ!)


 奥の部屋はキーボードやらギターやら、兎に角 作曲に必要な音楽機材が てんこ盛り。

うだつの上がらない作曲家なんてバレたら、『マジ引くんですけどー』とか言われかねんので、オレだけの秘め事だ。


 彼女は早速 蕎麦作りに取りかかる。

料理は得意と言っていただけあって、手際が良い。


「野菜とかあります?」

「うーーん、ニンジンとかダイコンが少々」

「ソレ欲しい!」

「上げる上げる!」

「卵は?」

「上げる上げる!」

「じゃ、月見蕎麦!」


 なに、この会話。萌~~


(完全にイイカンジ! 隣人にセフレ作れるオレ、完璧にセレブ!)


 セレブの認識 間違ってっけど、韻ふんでるッポイのでセーフってコトで。

閑古鳥な作曲家は、暇はあっても女の子遊びしてる余裕は無いんで、

このシチュエーションは神からの贈り物ってコトで、何を疑うコト無くイタダキマス。

邪魔するコト無かれ、絶対に!


 彼女は鍋の中で沸騰した お湯に、高級乾麺 流し込んで菜箸で解しながら言う。


「やっぱり このアパートにして良かった!

俺、1人暮らし初めてだったんで、ご近所と仲良く出来るか不安だったんですよ」

「コチラこそ~~」


 ――って、はぃ? 今、何て?



「……“俺”?」



 俺って、言ったよね? この子。



「どうしました?」

「……中都サン?」

「はい?」

「中都、何チャン?」

「中都由也です」

「ユーヤ?」

「ああ、その呼び方でも良いですよ」



 まさか、ですよ、まさか、です。



「――カノジョとか、いる、感じの?」

「えぇ? だから、さっき言いましたでしょ? 程々にって。アハハハ!」



 男だぁーーー!! コレ、男だぁあぁあぁあぁ!!



(コレで男なん!? こんな顔と体して男!? 何ソレ、遺伝子のイタズラ!?)



 俺は片膝を付く。だって、何か悔しい……

だって、すごくオレ好みだったのに……顔も体も、オレ好みだったのに……

こうして悶絶を打つ俺を見下し、彼女 ――で無く、ユーヤ君は小首を傾げる。

その仕草、めちゃカワイイでーす!!


「石神サン、どうしたんですか?」

「……いやぁ……オレ、カノジョいないなぁってぇ……」

「アハハハ。そう何ですか?

ソレじゃぁ今度 合コンしますか? 大学生で良ければですけど」

「お 願 い し ま す !!」


 遂に土下座する日が来たか、オレ。いや、恥じる気は更々無いさ。

だって、合コンぐらいしなくっちゃ、俺のブロークンハートがカワイソ過ぎる。


(きっと、長きに渡る女日照りに、オレの網膜はイカレちまったんだ……

男と女を見分ける力すら失ったなら、

ホンモノの女を見て触ってヤリまくらなきゃ肝心な部分が死んじまう!!)


 精子の生死の境だよ。

そんなワケで、今日はシャラララ~~なメロディーは作れませんでした。




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