おとなりダーリン。

坂戸樹水

第1話 作曲家、恋に堕ちる。

 オレは石神イシガミ亮太郎リョウタロウ。ピチピチの25才。彼女募集中。

ホント、募集中。マヂで。ガチで。リアルに。よろしくネ。


 職業は、何と 作 曲 家 。

テレビの中で歌ってるアーティストに曲を提供しちゃうんだよね。

安定感バツグン、縁の下の力持ち。めっちゃカッケーよ。



「今月も何とか仕事が入りましたとさ……」



 まぁ、初っ端から話し盛りましたケド、ハイ。

今月の作曲依頼は2件だよ。新人アイドルの1stアルバムの頭数だよ。

プロデューサーからは『クソでもイイから早よ上げれ』とか言われたよ。


「オレ、根っからの天才肌だからクソ曲とか書けねんだよねぇ。神曲だっつの、くらえ!」


 毎日 向かい合うパソコンが話し相手。

制作ソフトにカチカチ打ち込み。ギターとピアノは自分で演奏。

曲やらアレンジはね、コツコツ努力の積み重ねで出来上がっていくんよ。

血と汗と涙と妄想の結晶だっつのよ。肩凝るっつのよ。


「ラブソングとか失恋の曲とか、もぉだいぶ飽きて来たんスけどぉ、」


 アイドルの曲だから、カワイく。ハートフルに。

頭ん中 お花畑でシャラララ~~なメロディー。

転じてオレの脳内構造もシャラララ~~になってく。コレ、職業病。


 って、テンポ良く作っている最中、隣の部屋が騒がしい。



  ガタッ、ガタガタッ、――ガタン!



「何だぁ?」


 この薄壁のボロアパートで騒ぐ輩はオレくらいだっつの。

ってか、このオレでも楽器は生音では弾かない。ヘッドホンでリスニング。

然も、昼間に限りと念入りに苦情対策してるってのに。



ガタッ、ガタガタッ、ガタガタ!

ガガガガガガガガ、ドン! ガタン、ガタン!



(うーー、集中できん!! 起立! オレ様、前へ進め! 目指すは お隣サン!)


 一言二言 言ってやろうよ。

『うるせぇバカヤローとっとと出てけクソッタレ』くらい、面と向かって言ってやろうよ。

オレは薄っぺらい玄関ドアを開け、金髪をワシャワシャ掻き混ぜながら外に顔を出す。


(ありゃ? 引っ越し業者?)


 そう言やぁ先月から隣は空き部屋だった。

どうやら新たな入居者がやって来たようだ。

今日は休日だし、晴天だし、引越し日和だよね。


(うーーん、引越しなら しょうがねぇか……)


 おおらかに許してやった所で、隣人が部屋から顔を出す。



(ぇ、えぇ!? 何、あの美少女は!!)



 栗色のショートカットが お似合いで、お人形のように目が大きくて、

睫毛ギュンギュンの、ソレでいてギャルってナイ爽やか系女子!!

コンパクトで手足も細いし、あぁ、コレって理想系アイドルじゃねぇの!?



(目、目が合った! ヤバイ! オレ、寝癖!!)



 美少女はオレを見つけるとニッコリと愛想の良い笑みを浮かべて、テンテンテンと小走りで駆け寄って来る。

うわぁ、何コレ、可愛いんですけど!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る