惑星トルノルマル 対流圏

 統合宇宙軍正式採用ライフル「MIP-6p」は5.56mmのタングステン=カーバイド弾を、撃発炎と共に猛然と吐き出す。


 ルーも我に返ると立射肩撃ちの構えで右のキンタマを標的にフルオートの連弾を叩き込む。


 二人の眼前で、一柱の巨大おちんちんは裂けて弾けた海綿体から真っ赤な血を吹き出し、宇宙巡洋艦の放熱弁のような音を立てながら、みるみるひしゃげ、萎んでいった。


「エイリス!」

『はいウィル』

「良かった。無事か」

『自己診断中……終わり。演算の時系列ログに欠損があります。何か失礼をしませんでしたか?』

「大丈夫だ。ここを離れる。エンジンを……」


 ずずん……!


「何? 地震?」

「嫌な予感がする」


 ウィルの予感は当たった。

 地響きとともにそこら中の地面にヒビ割れが走ると、砕けた地面を押し退けて、さっき倒した巨大なおちんちんと同じ宇宙おちんちんたちが次々と姿を現した。


「ウソでしょ……」

「走れ! ハーピー2! 俺の機体だ! エイリス、発進準備!」


 鍋の湯が沸き立つように、見渡す限りの地面から怒張したおちんちんたちが這い出てくる。

 ウィルとルーはその間を縫うように、ウィルの愛機目指して駆け抜ける。


「なんで撃ったのよ!」

「お前も撃っただろ!」

「あんたが撃ったからでしょ!」


 愛機の機首に到達すると、ウィルが掌を組んで踏み台を作り、まずルーをコクピットに押し上げる。コクピットに上がったルーは下に手を伸ばし、ウィルを引き上げる。


「急いで!」

「わぁかってる! エイリス、チェックシークエンスは全て省略! エンジンスタート! とにかく離陸だ!」

『離陸します』


 パイプカッターの機体下面のスラスターが一斉に火を吹き、機体に縋ろうとしていた何体かのおちんちんを焼いた。機体は浮き上がり、上空を旋回する。地面は地平線の彼方まで、無数の蠢くおちんちんで埋め尽くされている。


「俺の膝に座れ。戦闘機動する。ベルトが必要だ」

「はあ⁉︎ あんた何言って……!」

「あれを見ろ」

 バックルを操作しベルトを伸ばしながら、ウィルはアゴで地表のおちんちんを示す。

 おちんちんたちはキンタマ部分から触手のようなものを伸ばしていた。


 クエーッ! クエッ、クエッ!


 一匹のおちんちんが甲高く鳴いた。


 ばさっ!


 触手の先端がワンタッチ傘のように開き、コウモリのような羽が現れる。


 クエーッ! クエッ、クエッ!

 クエーッ! クエッ、クエッ!

 クエーッ! クエッ、クエッ!

 クエーッ! クエッ、クエッ! ……


 ばさばさばさばさ……!


「悪夢だわ」

「ちゃんと座れ。ベルトが掛からない」

「もう……諦めましょう。十分よ」

 ルーはウィルのヘルメットバイザーを上げて、その素顔に顔を近づけた。

「あなたは良くやったわ。ウィル・フタバヤ一等飛行空曹。私を、命懸けで助けてくれた。悪く言ってごめんなさい。私……素直になれなくて」

 ルーは、ウィルの頬を掌で撫でる。愛おしそうに。

「ここに来た時、先にヘルメットを取ったのも私のためでしょう? あなたはいつもそう。自分を犠牲にして。優しさを隠して。冗談を言って……ウィル」

 ルーの潤んだ瞳に自分が映っているのを、ウィルは見た。

「最期があなたと一緒で、良かった」

「気持ちも言葉も嬉しいがな、ルー・オール一等飛行空曹」

 ウィルはルーの身体を持ち上げるようにして強引に前を向かせて座らせると、バチン、バチン、と彼女ごとベルトをロックする。

「その台詞は最期になったら言ってくれ。まだもう少し、その時じゃない」

 大地を埋め尽くす翼もつおちんちん達が一斉に羽ばたいて飛び立つ。

「オープンコンバット。サンダーバード1、エンゲージ」


 ウィルはバイザーを下げると、スロットルレバーを一杯に倒した。


***


 まずウィルは、適当な一方向に全速力で真っ直ぐに自機を駆った。


「どうする気⁉︎」

「喋るな、舌噛むぞ!」


 追いすがる飛翔おちんちん。

 その離陸タイミングや飛翔能力の個体差で、追いかけてくるおちんちん群はウィルの機体に対して伸びる長い棒状になった。


(今だ……!)


 ウィルはフットペダルを踏み込んでコントロールスティックを思い切り引く。機首を跳ね上げたパイプカッターは空気抵抗で捲れ上がるような運動をして小さな半径で宙返りをする。生じた強烈なGは二人の首を肩口に埋めて体内の血を下半身に押し下げる。パイロットスーツの制御が働き、下半身が自動加圧され、搭乗者が気を失うのをその寸前で防いだ。


「おおッ……!」

 背面飛行で真後ろに振り返ったパイプカッターの二枚の翼の根元から、高出力のフッ化クリプトンレーザーが迸り、棒状のおちんちん群の中心を貫く。

 ベーンッという大気がイオン化する音。直撃を受けたおちんちんは蒸発し、弾道至近を飛んでいたおちんちんは急激な過熱に耐えられず沸騰した体液の水蒸気爆発で四散する。

 おちんちん惑星の空に、血煙の帯が生じた。


「ヒャッホーッ!!!」

 

 ウィルの機体はそのまま錐揉みに回転しながら敵の隊列に突っ込み、メチャクチャにレーザーを連射する。

 最初にサンダーバード1を追尾したおちんちんの一群はその攻撃で殆どが死ぬか、継戦能力を失うかして、バラバラとおちんちん惑星の地表に落下して行った。


「今の見たか? ハーピー2。今月の撃墜賞は頂きだ」

「…………」

「どうしたルー? 考えごとか?」

「最期があなたと一緒で良かったって言ったわね……」

「ああ。それが?」

「取り消すわ」

「それがいい。まだ最期じゃないからな!」


 ウィルはそう嘯いたが、二人の最期の時はすぐやって来てしまいそうだった。


 地平線の彼方から空を埋め尽くすようにして更に大量の飛翔おちんちんの大群が、彼らに向けて迫って来ていたからだ。

 

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