第12話 何とか分岐は乗り越えたけど、謎が出てきました
こうして中間のイベントは無事に終了した。
東西南北の呪具は無効化され、呪いは発動前に阻止されたのだ。まったくシナリオ通りの展開だった。
「これって、逆ハールートに入っているって、考えていいんだよね?」
「…………………おそらくは、ね」
しかしシルヴィアは険しい顔を崩さなかった。
「ねぇ、ハルカ。私達はとんでもない思い違いをしているかもしれないわ」
「えっ!?」
驚くハルカにシルヴィアは、自分に起こった事と情報を照らし合わせた考えを口にする。
「私達はこの世界がゲームの『キミセツ』に忠実になるように動く、そう考えていたけど、逆に『キミセツ』では描かれていなかった場面については考えてこなかった。
けど、むしろそちらの方が重要なんじゃないかしら」
「えと、つまり? どゆこと??」
「つまりね、私達が知っている『キミセツ』の情報以外に起きた事が、この世界の本質なんじゃないかしら? って話なの」
「ええとー、つまりルシウス様が味方になってくれたりとか、そういうこと?」
シルヴィアは頷いた。
「そう。ハルカは前に言っていたわよね? 『理不尽な現実』だって。それは私もそう思う」
「だよねー。こんなの絶対、変だもん」
「そうなの!」
それこそが、この世界の問題だとしたら?
「いい? 私達はその理不尽をゲームだ、シナリオだって思っていたわよね? でも、そうじゃないとしたら?
理不尽なこと、道理に合わない行動には、一貫性があるのよ」
そこでハルカは非常に複雑そうな顔をした。
「う、それって私、だよね」
シルヴィアは即座に否定した。
「違うわ。『聖女』及び、その存在を召喚した『魔法』そのもの、よ」
理解できていなさそうなハルカにシルヴィアは幾つかの確認をする。
「ハルカ、貴女は『キミセツ』の世界設定を覚えてる? この世界の魔法の設定。
あと、この国とエドワード皇子、それから追加シナリオの設定を」
ハルカは自信がなさそうだ。
「えーとぉ、確か魔法は、火と水と土と風と、あと光? だっけ?」
「ハルカ、肝心なところを忘れてるわ。この国には『闇』の属性の魔法が存在する。それも、エドワード殿下に深く関わる形で」
言われて思い出したのだろう、ハルカは「あっ!」と声を上げた。
「そっか! 『聖女』の召喚には『闇』の魔法と『光』の魔法が必要だった!!」
「そうよ。召喚には『闇』の魔法が使われてる。
でもって、そこまでの危険をおかしてまで『聖女』を召喚しなくちゃいけない理由がこの国にはあるの」
覚えている? とシルヴィアが目配せすれば、ハルカはごくりと喉をならした。
だんだん事の重大さが分かってきたのだ。
「……………エドワード殿下に、穢れを祓う力がないから、だよね」
「そう。現在この国に、穢れを祓う『聖女』が不在だから、よ」
何故、エドワード殿下が穢れを祓えないのか。
何故、この国を守る『聖女』が不在なのか。
それが追加シナリオのトゥルーエンドで明らかになる。
「まだ確信があるわけじゃないの。でも、私に植え付けられたこれは、おそらく『闇』の魔法」
ハルカにはあのイベントでの出来事、黒いフードの人物とのことをすっかり話してあったし、シルヴィアの胸に黒い牙の刻印が浮かんでいるのも見せてあった。
「直に触れてみて、ルースの言っていたことが分かったわ。
あれは人の悪感情を増幅させ理性をなくさせる、負の力を引き出す魔法。対抗できるのは聖なる『光』の魔法。つまりハルカの祈りよ」
もしこの仮説が正しいとすれば、エドワード殿下が影響をモロに受けるのは頷ける。彼は『闇』の系譜なのだから。
ハルカは悲痛な顔をした。
「でも、じゃあ何で!? 何で私の周りの人達が変になるの? 私の祈りで、『闇』が祓えるなら!!」
「………………おそらく、だけど。力が拮抗してるのよ。
だから、そうたいした問題にもなっていない。けれど―――――『闇』は時間がたてばたつほど、その穢れを広げていくわ」
「今より、もっとひどくなるってこと!?」
ハルカの叫びにシルヴィアは顔をしかめた。
「結論を出すのは早計ね。それに『キミセツ』の情報だって無視することはできない」
ゲームだった『君といた刹那』の舞台と、目の前にある現実。
何が起こったのか、これから何が起きていくのか。それを見極めなければ。
シルヴィアは深呼吸を一つした。
「私はまだ生きている」
そしてシルヴィアはハルカを見つめる。
「貴女もこの世界にいる」
シルヴィアには結論がまだ出せない。が、不幸な運命を回避する為に足掻く余地はまだあるだろう。
「やれることをやりましょう」
覚悟のこもったそれに、ハルカも頷いた。
「そうだね。ここはゲームなんかじゃ、ないもんね」
かつて自分で言った台詞をハルカは繰り返した。
目の前で起こっている出来事は、ゲームの中のことなんかじゃない。これは自分達の未来に繋がる選択肢なのだ。
少女達は動き出す。世界のシナリオがどこに向かっているのか分からなくても。
彼女達は足掻くことを選ぶのだった。
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