第9話 逆ハールートで追加シナリオ突入を目指す

 エドワード殿下をはじめ、周囲が異常行動をとる原因の解明は後々にしていくとして、シルヴィアとハルカが見定めておかなくてはいけないのは未来のビジョン、つまりルート選択だった。

 そのあたりの優先順位は二人ともはっきりしている。

 最低条件は「自分達の身の安全!」だ。

 それが叶うのは、逆ハールートを進めた追加シナリオの他になかった。

 このシナリオでのみ、シルヴィアはハルカを呪わない。というより、呪う前に阻止される。

 その為にシルヴィアが死ぬことはなく、また追加シナリオでは重要な登場人物として再登場することまでが確定する。

 まあ、皇子とは婚約破棄された上での国外追放と、悪役感たっぷりに生き延びた後での登場なのだが。

 ハルカとルシウスは、そのストーリーにかなりの不満があるのだが、シルヴィア自身は命が助かり、さらに大陸一の魔女―つまりラスボス―になれるというのは、なかなか悪くない未来だと思っている。

 公爵家を捨てたいわけではないが、自分の置かれている現状を鑑みればそう贅沢も言っていられない。

 どこまでシナリオ補正が働くのか、どこまでならストーリーを変えられるのかが未知数の今、シナリオの大筋からは外れないと思っていた方が安全だ。

 とするなら、やはり逆ハールートが一番無難なのだった。

「でも婚約破棄で、家からも捨てられて国外追放って厳しくない? そりゃ、ゲームでは一流魔法使いになって再登場するけど、その間に辛い思いをしないとは限らないでしょ? それを一人きりで戦わなくちゃいけなくなるんだよ?」

 心配そうなハルカにシルヴィアは真剣な顔で言った。

「シナリオ通りにするとなると、私の未来はおそらくそうなるでしょうね」

「そんなのって!」

「だけど他のルートを選ぶわけにはいかないわ。

 だって他のルートは、私の命か貴女の命が失われる危険がある。どちらかの犠牲の上に未来が成り立つなど、私は選びたくありません。

 よって私は、どのような未来が待ち構えていようとも、私達二人が生き延びられるそのルートが最善であるし、その上での辛酸は甘んじて受ける覚悟です」

 ハルカは眉間にしわを寄せた。

「…………分かってるよ。逆ハールートが一番安全だって。

 でも納得いかない。何でシルヴィア様だけがそんな目にあわなきゃいけないの!!」

 心底、理不尽そうに言うハルカは、ちゃんと解っているのだ。その上でこうして怒っているのは、シルヴィアを心から慕っているからなのだろう。

 シルヴィアは自然と微笑んだ。

「ありがとう、私の為に怒ってくれて。

 でも、そう心配することはありませんわ。それとも私、そんな運命に負けてしまいそうなほどか弱く見えて?」

「えっと、まあ、見えないけど……………」

「でしょう? あいにく、神経は図太いんですの。皇太子の婚約者などしているものですから」

 並みの神経で、妄執渦巻く女性の頂点に立てるものか。

 ハルカはそんなシルヴィアをじいぃぃぃっと見つめると、諦めたように息を一つ吐いた。

「分かった。逆ハールートでいこう。

 でもね、ゼッタイ、ゼッタイ、シルヴィア様だけがほっぽり出されて、それっきり、なんてことにはしないんだからね!」

「ええ。私、分かっていますわ。ハルカ様は私を見捨てないって」

 シルヴィアが言った途端、ハルカの視線がちょっと泳いだ。

「えっと。それはそうなんだけどー。そう、ハッキリ言われちゃうと、こうねぇ」

 しどろもどろに言うハルカの頬が、心なしかほんのり赤くなっている。

 シルヴィアはつい、ハルカ様って少しルースに似ているわ、なんて思ってしまった。

 照れているところが可愛い、なんて感想を持っては駄目だろうか。

 くすりと笑うシルヴィアに、ハルカは慌てたように言いつくろった。

「と、とにかく! シルヴィア様と私は、もう一連たくしょーってヤツですからね!?」

「もちろん。私の命とハルカ様の命は、同じも同然ですわ」

 どちらかが死んでしまっては意味がない。この理不尽なシナリオ通りに進む世界で、二人一緒に生き残る。

 それが二人が目指す、ベストエンドなのだった。





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