第22話 煩いからしまっちゃおう。

「あん? 女の声?」


 隊長達皆が不審がっている。 不味い、このままじゃ不味い! 1秒以内に答えを返すんだ!


「この場に女なんて居ないでしょう、足音でも反射してそう聞こえただけで、たぶん気のせい・・・・・。」


「気のせいではない! 私は此処に居るぞ!」


 クッ、折角の言い訳を考えたのに、この短剣、あくまでも邪魔をするのか?!


「おいバール、この声は一体なんだ? キッチリ答えてもらおうか。」


 言い訳さえもさせて貰えず、俺はガックリと膝を突いた。 喋らないからって言ったのに、いきなり裏切るとは酷い短剣だ。 こんな事で死刑なんてなりたくない。 俺は王国の人間だし、知らなかったで通すとしよう。 もうそれしかない!


「ごめんなさい、本当に知らなかったんです。 だって俺王国の人間ですよ? ブリガンテの法律まで知ってる訳が無いじゃないですか! これは不幸な事故なんです、本当にもうしわけありませんでしたあああ!」


 そう言って俺は持って来た短剣を差し出した。 もうこれで許されなかったら、この場から逃走するしかないだろう。 チラリとノアさんを見上げると、俺の方向を向いていなかった。 庇ってくれるというのだろうか?


「向うには映像しか流れませんので、まあ見なかった事にしておきましょうか。 王国との関係が壊れてもなんですから。 でもバールさん、ちゃんと元に戻して来てくださいね。」


「はい、俺こんな物要りませんから。」


 そう俺が答えると、怒り出したのがこのフレデリッサという短剣だった。


「そんな事はさせぬ、させぬぞ! よいか下民、この私を外に連れ出すのがどれ程の名誉ある事か考えるがよい! 時代が過ぎ去ったとはいえ、私はブリガンテの王女フレデリッサである。 それを助け出したお前には、相当の褒美が与えられるであろう! さあ外に、早く外に連れ出すのだ!」


 持ち出したとして、死刑と褒美の一体どっちに転ぶのやら。


「喋る短剣たぁ不思議な物を持って来たなバール。 何か自分のことを王女だとか言ってるが、そこんとこ如何なんだノアさん。」


「さあ? そんな昔の文献なんて、とうの昔に紛失してるか、それとも風化してるか、燃えてしまったか、どの道もう無いんじゃないですかね? ブリガンテの歴史の何百年の間にも色々ありましたからねぇ。 そもそも六代目の王は名前ぐらいしか現代には残っていませんし、貴女が本物かなんて調べようがない訳ですよ。 褒美なんて出ないと思いますよ。 因みに王族を騙るのは勿論死罪です。」


「な、なん・・・・ですって・・・・・。」


 これを持ち出したら死刑、そして助け出しても褒美が出ない。 ついでに言うとこの短剣の騙りかもしれない。 王女とか言って持って行って、もし間違っていたなら、俺はやっぱり処刑されてしまう。


「それはつまり! 俺はこれを捨てても良い訳ですね?!」


「いやあああああああああ、私を見捨てないでええええええええええええ!」


「フレデリッサ、大丈夫ですって! きっと発掘隊が貴女を発見して、博物館にでも飾られると思いますよ。 きっと大事にされるんでしょう。 王女様っぽく喋る変な短剣としてね!」


「一人は寂しいけど、そんな事になるのは嫌あああああ! 私を此処から出してよおおおおおおおおお! 私を助け出してくれたなら抱かれても良い、一回だけなら抱かれても良いから! お願いよおおおおおおおおお!」


 俺は本来女性には優しい男だ。 女の子が助けを求めるのなら、俺が処刑とかされないのなら助けてあげる事もやぶさかではない。


 しかしこれは如何見ても短剣である。 閉じ込められた姿が見えたのなら、もうちょっと穏やかに対応してくれたら俺の対応も違っていただろう。


 でも今はその姿を見る事が出来ないし、出てきたらそもそも人間じゃなかったとか、そんな事もありうるかもしれない。 それに俺達は、短剣から助ける方法なんて知らないもの。


「おいバール、フレデリッサさんが可哀想じゃねぇか。 もうちょっと言い方があるだろうがよ。 おいノアさん、この人をなんとか助け出してやる事は出来ねぇのかよ?」


「そうですねぇ、此処から持ち出して一度マリーヌ様に見せるしかないでしょうね。 もしかしたら王なら何か知ってたりするかもしれませんし。 まあ皆さん手打ちにされるかもしれませんが、私も一応庇ってあげますよ。 ではそれで宜しいですか、フレデリッサ様?」


「うむ、それで良かろう、ではお前に私を持つ事を許す。 私を運ぶが良い!」


「それはお断りします。 私が関わってると思われるのは嫌なんで、引き続きバールさんに持たれてください。」


「いや俺、手打ちにとかされたくないんですけど。 隊長、もう置いて行った方が良いんじゃありませんか?」


「安心しろ、俺達はお前が手打ちにされている間に逃げる。」


 何も安心できないんだが。


「チッ、またお前に持たれるのか。 このクズ男め、変な事をしたら許さんからな!」


「こっちのセリフなんですが・・・・・。」


「んじゃバール、そいつの事はお前に任せる。 俺等は財宝ってのを見て来るからよ。 お前はフレーレを探しに行ってくれ。 じゃあ、頼んだぞ。」


「待ってください隊長、俺は出来れば拒否したいんですが・・・・・。」


 隊長達が進んで行く。 絶対聞こえてたのに無視されてしまった。 隊長も関わるのが嫌だったのだろう。


「ではバールとやら、その汚い手で持つ事を特別に許してやろう。 胸の前で両手で持って、揺らさずに運ぶが良い!」


「いやぁ、それじゃあ敵が出てきたら戦えないし、絶対無理ですって。 まあちょっと我慢してください。」


「この私の言う事が聞けないというの! 貴方の様なクズ男が、私に触れられるだけでも有難いと思いなさい! それ以外の運び方は私は認めないわ!」


 まさか短剣にこんなに罵倒される日が来ようとは思わなかった。 少しお仕置きしてやろう。


「ふっ、自分の立場がまだ分かっていないようですね。 貴女が本当に王女だとしても、そんな事は大昔の話です。 そして王国の民である俺には、元から関係の無い話なのですよ! ちょっとお仕置きをしてあげましょう!」


 あんまり上から喋られるもんだから、俺は少々お灸をすえる為に、この短剣をパンツの中へとしまい込んだ。 何だかゴツゴツした物が俺の股間に当たっていて、微妙に反応しそうになる。


「ぎゃああああああ、臭い。 臭わないけど臭いわ! やめてえええええ! やめてえええええええええええ! あああああ、変な物が顔に、顔に当たってるのおおおお、いいいいいやあああああああああああああ!」


 五分もするとフレデリッサも大人しくなり、今度はちゃんと懐にしまい直した。 眠ったのか気絶したのか知らないけど、大人しくしてくれるのならそれで良い。


 一応この短剣の事にはもう一つ気になる事がある。 鞘に描かれた文字の事だ。 俺はその文字を思い出したていた。


 試練の間に導かれる。 とは、この遺跡にそんな物があるのだろうか? それとももしかして、この短剣の元の持ち主が、夫だとか妻の浮気をこの短剣が暴露したとかそんな話だったりしてな。


 その先はきっと血みどろの闘争、離婚、子供の親権争いとか ・・・・・そんなのだったら嫌すぎる。 この短剣の事は色々注意しないとならないな。 今後の俺の為に。



 そして俺はフレーレを探す為に、新な道を進んで行った。

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