第14話 神様が見ているとでも思ったか? 見ていたのは悪魔だよ。

 今まさに試合がはじまろうとしていた。 しかも今回の戦いには何故か制限が無いらしい。 何故今回だけ・・・・・。 あの二人にも重りとか付けて貰えていたら、少しは真面に戦えてというのに。 兎に角俺が死なない為には、場外に落ちてとっとと負けるに限る。 始まったら直ぐに飛び降りるとしよう。


 そして司会者が始まりの合図を掛けようとしていた。


「さあ双方共に準備はよろしいか! では尋常に、試合開始だあああああああああああ!」


 合図と共に、やはり三人が俺ににじり寄って来ている。 こんな三人と戦うよりはと、後ろに進み場外へと飛び降りた。


 そのままスタっと着地した俺だが、会場の誰を見ても何の号令もかけてはくれなかった。


「さてここで解説致しましょう、今回場外負けのルールはございません、この広い会場全てが試合場という訳ですね。 さあ皆さま、この四人の全力を全員で楽しむと致しましょう!」


 そういう重大な事は、もっと先に言って欲しい! 場外負けが無いというのなら、もうこの会場から逃げるしかない。 やって来た通路を見るが、入り口は硬い扉で閉じられ、俺が逃げる隙間は無い。 会場の客席はビッシリと詰められ、俺が逃げられそうな道はない。


 ・・・・・終わった。 ・・・・・いやまだだ。 俺があの三人に勝つ事が出来れば死ななくて済むかもしれない。 生き残る為だ、やってやる、全力で戦ってやろうじゃないか! そう考えていた時、アリエスさんが俺へと突っ込んで来ていた。


「私の仇だああああああああ、死ねええええええええええええええええええ!」


「ぬああああああああ、アツゥ!」


 彼女の攻撃に合わせて、エルが上空から援護射撃をして来ている。 ズドドドっと炎を飛ばし、俺の動きを制限してきている。 待ってくれ、君達は戦う相手じゃないのかと言いたい。 しかし言った所で聞いてはくれないだろう。 ・・・・・やっぱり帰りたい。 こんなのと戦いたくない。


 謎の信頼関係で連携を取る二人を相手にしているが、一番注意しなければならないのはフレーレだ。 絶対に俺の視界から彼女を外す事は出来ない。


「うを、とッ、ほっ、よっと。 アツッ、うぬ、とりゃ!」


「こいつうううううううう、避けるなああああああああ!」


 アリエスの攻撃なら、あの必殺技だけを警戒しておけば何とでもなる。 俺はその攻撃を回避しながら、フレーレの出方を窺った。 彼奴の攻撃力だけはマジでヤバイ。 俺の防御なんて容易く打ち破り、胸に風穴でも開けかねない。 そうなったら俺でも死ねる。 死んでしまう!


 しかし攻撃を続けて来るアリエスは、俺の視界を一瞬塞いだ。 彼女の体が影となって、フレーレの姿がほんの一瞬見失われた。 次にフレーレが居た場所を見るが、フレーレの姿が何処にも見当たらなくなってしまった。


 正面は・・・・・居ない。 左右も・・・・・居ない。 だったら後か?! アリエスの攻撃を一気に弾き、俺は回転して後を見た。


 居ないだと?! まさか上空か!


 俺が上空を見上げると、フレーレの拳が俺の頭上に迫っていた。 あの瞬間に跳びあがり、エルの体を利用してもっと上空へと跳びあがっていたらしい。 一体どんな跳躍力なんだ!


「むおおおおおおおおおおおお!」


 首を捻り、フレーレの拳が頬を掠めて行く。 それだけだというのに、頬がザックリと切れ、血が流れ落ちていく。


 危なかった、あんなのくらっていたら、俺の頭が無くなっていてもおかしくなかったぞ。 やっぱり駄目だ、この三人と戦って勝てるわけがない。 もう逃げたいが逃げ道がないし、本当にどうしよう。 神様、俺を助けてください! 出来る事なら何でもしますから! ちょっとだけなら生活を改めても良いですから!


 三人の殺意と極限の緊張の中、俺の体に変化がおきた。 何時もの鎧は変化し、俺の防御力が極限にまで高まっているのが分かった。 そう、神様は本当に俺を助けてくれたのだった。 ありがとう神様! 今日だけは感謝しようと思います!


「うおおおおおおおおおおおおおお、これならフレーレの攻撃でも耐えられる気がする。 やってやろうじゃないコッフアアアアアアアアアア・・・・・。」


 俺が気合を入れた瞬間、フレーレの拳が炸裂した。 その一撃で吹き飛ばされてゴロゴロと転がる俺だが、しかし俺は死んでいない。 フレーレの攻撃にも十分耐えられた!


「あらー? 力加減を間違ったかしらー? じゃあもっと威力を上げないとね・・・・・。」


「うぉぉぉぉ・・・・・。」


 フレーレの攻撃に耐えられる様になった俺だが、それが逆に災いした。 神様が助けてくれたと思っていたものこそが、悪魔による策略だったのだ。 いくら防御力が上がってるといっても、フレーレの攻撃はかなり痛いのだ。 一撃耐えたからといって、それで終わる訳じゃないのだ。 もしかしたら一撃で気絶していたかもしれない攻撃が、二撃、三撃と入れられる。 そんな攻撃に俺はもう耐えられなくなっていた。


「ぎゃあああああああ、いたッ、やめてやめて! もう止めて、俺の心はもう折れているから! 本当にもう勘弁してください!」


「えええ、どうしようかエルちゃん? 卑猥な汚物は消去したほうが良いと思うんだけどー?」


「・・・・・まっ・・・殺?」 


「ふぅ・・・ふぅ・・・・・。」


 まだ三人は満足していないらしい。 だが俺にも最後の手段が残されている! アツシに教わった最後の技だ!


「こ、これを見てください! これが俺の最後の技だあああああああ!」


 そして俺はアツシに教わった最終奥義を使った。 それは土下座という最強の謝り方なのだそうだ。 蛙みたいになった俺は、武器をしまって額をグリグリと地面に擦り付けている。 本来なら頭はつけない方が良いらしいが、徹底的に降伏したと思わせる為にそうしている。


「これで許してください・・・・・。」


 こんな大衆のど真ん中でそんな事をしている俺を見て、主審が戦意喪失として、この試合が止めてくれた。 俺を助けてくれたこの主審の人に、後で食べ物の詰め合わせでも送るとしよう。


「決まったあああああああああ! 女性チームの勝利だああああああああああああ!」




 これってタッグと個人戦チームの戦いじゃなかったのか?! 一体何時の間に変わったのだろう。 しかしそんな事を気にする人は誰もいず、三人が腕を上げて歓声を浴びていた。

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